191 私はいらない子?
「……え?」
ドアを開けた恰好のまま、固まってしまう。
「マリー!?」
固まった私に気付いて、お父様が慌てふためく。
お母様も固まったままの私に狼狽えた。
「旦那様、今のは一体、どのような意図の発言なのでしょうか!?」
私の後ろに従ってたエマが、らしくない、噛みつかんばかりの声で問い質す。
それらが全部、どこか遠い国の出来事みたいに現実味がなくて……。
ポロリと、目から熱い雫が零れた。
そのまま堰を切ったように、熱い雫がボロボロと両目から流れ落ちていく。
「わ……わた、し……っ、悪い子…………ですか? い、いらないっ……子ですか?」
胸の奥から溢れ出してくる感情を全く制御出来なくて、声は嗚咽混じりになってしまって。
そこまでは言葉に出来たけど、それ以上はもう言葉にならなくて。
溢れ出した感情が爆発――
「違う、違うんだマリー!」
――する寸前、お父様が慌てて駆け寄ってきて私を抱き締めた。
「そうよマリー、誤解よ!」
お母様も同時に駆け寄ってきて、お父様と一緒に抱き締めてくれた。
「っ……ぐすっ、ぐすっ……で、でも……!」
溢れ出した感情が爆発こそしなかったものの、今にも破裂しそうなくらい胸の中を駆け巡っている。
だって心当たりが多すぎるもの。
前世の記憶が甦ってから、私は全然子供らしくなかった。
お父様とお母様のスパイスを使いすぎた食事について、生意気な態度も取った。
子供の癖に、お父様の執務室に居座って、お仕事を手伝って内政に、お父様のお仕事に口を出した。
インフラ整備や大型船の開発など、大規模な事業に投資させて、あるって確信はしていても証拠のない新大陸を目指す博打みたいな事業にも乗り出させた。
さらに魔道具を開発して、賢雅会の特許利権貴族達に喧嘩も売った。
その上、王家の心証を悪くして、ヴァンブルグ帝国皇家に目も付けられた。
たかが七歳の子供が、お父様とお母様の優しさに甘えて、好き放題やってきたんだ。
お父様とお母様が自分の教育方針に疑問を持って当然だ。
それこそ、私という存在に疑念を抱き、扱いあぐね、持て余しても不思議じゃない。
むしろ、よく今まで気持ち悪いと捨てられなかったものだと思う。
「マリーは私達の天使だ。悪い子だなんて、そんなことあるわけがない」
「そうよ。ましてやいらない子だなんて思うわけがないでしょう? 誤解でそんな悲しいことを言わないで」
二人とも声を震わせて、強く強く抱き締めてくれる。
腕に籠もった力と、優しく温かい、これまでと変わらない愛情がいっぱい込められた言葉。
それに心が温かくなって、破裂しそうだった感情が少しずつ落ち着いてくる。
「わ、私……ぐすっ……」
「マリーは私達の宝物で天使だ。私達は何があろうとお前を愛しているよ」
「ええ。わたし達の娘として生まれてくれてありがとう。愛しているわ」
「ぐすっ……すん…………私も、パパとママが大好きで……すん……いっぱいいっぱい愛しています……」
しゃくり上げる私が二人を抱き締めると、より一層力と愛情を込めて、二人も涙ぐみながら私を抱き締めてくれた。
お父様とお母様のこの愛情が、嘘のわけがない。
きっとお母様の言う通り、これは誤解。
子供なのにやり過ぎている自覚と、前世の記憶の秘密があるから、知らず、心のどこかに後ろめたさがあったのかも知れない。
これからも同じように感じてしまうことがあるかも知れないけど……。
でも、もう大丈夫。
お父様とお母様の愛情を疑うなんて、二度としない。
どれくらいそうしていたか、ようやくお父様とお母様から離れる。
「誤解で良かったですね、お嬢様」
もらい泣きしたのか、エマが目を赤くして、でも心から安心したように微笑んでくれた。
オロオロしていたアラベルも、胸を撫で下ろして微笑んでくれる。
「うん」
だから私も、安心して素直に頷けた。
「それでは旦那様、先ほどの発言は一体?」
アラベルに問い質されて、お父様がばつが悪そうな顔をする。
お父様とお母様の愛情はもはや疑うべくもない。
だから、こんなにも愛してくれているお父様の発言の真意を、私もちゃんと知りたいわ。
「あの……私の何がいけなかったのでしょう?」
「違うのよマリー。あなたは何も悪くないわ」
お母様に促されて、ソファーの真ん中に座る。
お父様とお母様はその私を挟むように両側に座った。
「二人で、マリーのこれまでと、これからについて話し合っていたのだが……」
そしてお父様が、ばつが悪そうな顔のまま、私に謝るように辛そうな顔をした。
「あれはマリーへ向けた言葉じゃない。私自身へ向けた、自省の言葉だよ」
自省の言葉?
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