第85話 ふふふ、今度は私かな?(1)

 フフフ、今度は私かな? そう、出番かな? と、思う。思うと同時にね。おじさんが、私を食品トングで摘まんで持ち上げた。


 だから『フフフ』と、可憐に微笑む、と、言うか? 微笑んで魅せる。仲間達に、と言うか?


 私達が所狭しと、並ぶ、ベニヤ板での簡易式、的みたいな販売台の上に並べられている、【昭和】と呼ばれた昔の時代からおじさんが、毎日の糧と月の支払いの為におこなっている商い──。販売業をおこなうために、選りすぐりで選んだ商品アイテム達──。


 そう私はおじさんに食品トングで掴み、持ち上げられながら、仲間達へと『いってくるわ~』、『いってくね~』、『みんな~』と、己の真っ赤なハンカチを振りながら。仲間達への永久の別れを悲しみながら。お姉様への試食へと向かう。


 まあ、向かう事はない。ないよ~。


「い、痛い。痛い。じゃないか! おじさん! もっと。私の身体を上品に掴めよ! 私は奴ら、【芋かりんとう】や【竹炭豆】達のように体が硬くはないんだ! 柔らかい身体なんだよ! だからもう少し、優しく、食品トングで、柔らかい私の身体を掴め! いくら試食を渡す相手のお姉様が綺麗どころで、おじさんの好みのお姉様だとしても。そんなにも、緊張、慌てふためきながら、私を強く、食品トングで掴むな──! 私の身体が痛くて仕方がないから。手加減しろ! この糞、爺!」



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