第102話 話しは飛ぶが、齢九二歳の昭和の昔話……。(4)

 御老体、もう、己の顔を渋く、顰め面することになる行為を辞め──。


 そう、御老体に余計なことを思案し、塞ぎ込み、嘆く行為はもうやめて、自分自身の顔を上げよう。そして、緩め、自分達の目の前を歩行──。皮の流れのように素通りする人達へと明るい顔。様子で声を囁き、吐き、放とう御老体と声をかける。


 また家のおじさんが声をかければ。


「ウム……。まあ、確かにだ……」と。


 昭和一桁産まれの御老体は声を漏らすのだ。


 だから御老体の口から。


「いらっしゃい!」と。


 凛と透き通るような声音の、呼び込み、かけ声が、当たり一面に響き渡り。家のおじさんの耳にも聞こえてくる。


 そう、聞こえてくるから。


『(もう大丈夫そうだ……)』と。


 家のおじさんも思い安堵する。と、いうことはない。ないのだよ。


 だって昭和一桁産まれの御老体は、未だ己の不満が甲斐性できてはいないようでね。また自身の口を開いて嘆き、不満を漏らし始める。



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