第124話 死闘の果てに
「……ん? あれは……」
ルーファスに勝利した紫音が、ふと上を見上げると、先ほどまで紫音たちを覆っていた結界が崩れ落ちている光景が目に映った。
これもルーファスを倒した影響か。あれほど大量にいたルーファスの幻覚もいつの間にか、消えてしまっていた。
強敵との戦いも終わり、気づけばリンク・コネクトも解けてしまっていた。
『……シ、シオンさん。ご無事ですか……?』
戦いの余韻に浸っていると、メルティナから安否を確認するような念話が送られてきた。
『ティナか……。ああ、大丈夫だ……』
『おかしな結界も消えたようだし、どうやら勝ったみたいね』
よほど嬉しいのか、念話越しに聞こえるフィリアの声が弾んでいるように聞こえた。
『でも、今回ばかりは本気でダメかと思ったよ……。何しろ相手はニーズヘッグの幹部だからな』
『ニーズヘッグって確か……異種族狩り専門の組織よね』
『ああ、そうだ……。それで悪いんだが、そいつを捕縛しておきたいんだが、体力の限界でな……。すぐに来てくれないか?』
この場でルーファスを捕まえておてば、紫音たちに様々な利益が生まれる。
ニーズヘッグの情報や、エーデルバルムとのつながりも証明できる。
そのために紫音は、死なない程度にルーファスを倒していた。
『わかったわ。すぐ着くから待ってなさい』
そこで、フィリアたちとの念話が切れ、紫音は地面に座り込みながら到着を待つことにした。
「それにしても……ティナとのリンクは今後控えたほうがいいな……。長時間持たないし、体調が……うっ!」
メルティナの魔眼のせいでまだ視界が酔っているのか、吐き気が収まらずにいた。
「……驚きました。まさかルーファス様がやられるとは……」
「っ!?」
突然紫音の耳に、聞き覚えのない男の声が聞こえてくる。
顔を上げると、森の奥から負傷した状態のキールが姿を現した。
「だ、誰だ! ――っ!?」
戦闘態勢に入ろうとするが、先ほどの戦闘の影響で体に力が入らない。
「通信が繋がらないので、心配で来てみましたが……どうやら、正解だったようですね」
キールは、すぐさま駆け寄り、ルーファスの肩に手を回した。
「ルーファス様、生きてますか?」
(無駄だ……。あれほどの戦いの後ですぐに目を覚ますはずないだろう)
ルーファスに呼びかけるキールの行動を無駄なことだと思いつつ、その光景を静観していた。
……すると、
「……ええ、死んでなど……いませんよ……」
「……えっ?」
紫音の予想が外れ、ルーファスの意識が目覚めてしまっていた。
「そうですか、安心しました。……しかし、まさかルーファス様が敗れるとは思いませんでした」
「フフ、今回ばかりはなにも言い返せません。……奴の不可思議な能力さえ見破ることができれば、どうなっていたかは知りませんけど……」
「お、お前……いったいどうやって……? まさか最後の攻撃を防いでいたのか?」
可能性からしてそれぐらいしか思いつくのがない。
ルーファスに尋ねてみると、思いのほか素直に告白してくれた。
「そうですね……簡単に言えば防いだという表現が正しいですね。ただし、そのやり方は少々危険が伴うものでしたが……」
「……危険?」
「ええ。あの矢が直撃する寸前、自身の体を氷で覆って威力を軽減させていましたから」
「そ、そんなことで……」
いくら氷の魔法の使い手だからと言って、下手すれば自身の魔法で死ぬ恐れがある。
ルーファスはそれを、躊躇なく実行していた。
「氷の強度には自信がありましたが、それでも可能性は五分五分。……ですが、どうやら僕の判断は間違っていなかったようですね……」
「……くっ!」
「話し中のところ申し訳ありませんが、この者はどうしますか?」
キールは話を中断させ、紫音の処遇についてルーファスに聞いていた。
これに紫音は、焦りを見せていた。
戦う力さえ残っていないこの状態では、抵抗することもできない。
ようやく終わったのにここで終わりかと、一瞬諦めかけていた。
「……いいえ。ここは退散することにしましょう」
「えっ!?」
どういう風の吹き回しか、ルーファスは紫音を見逃す気でいた。
「久しぶりに楽しい戦いができましたし……それに、ここで彼を見逃せば、のちのち面白いことになりそうなので」
「まったく、ルーファス様の考えることは相変わらず分かりませんね。それなら早く退散しましょう。自分もそうですが負傷者が思ったよりも多く、治療班の数が足りませんので」
ルーファスは退散する前に紫音のほうに顔を向け、小さく笑いながら口を開いた。
「アマハ……と言いましたね。次会うときはその仮面の下を剝がして見せます。せいぜい僕と会う前に
そう言い残し、ルーファスたちは紫音の前から逃げていってしまった。
……そして、フィリアたちと合流したのはそのすぐ後だった。
紫音は、あと一歩というところで逃がしてしまい、悔しそうに地面に拳を叩き付けた。
――その後の戦いは、なんともあっけなく終わってしまった。
元々、ニーズヘッグの参戦のおかげで盛り返していたため、それもいなくなってしまえば魔物たちに太刀打ちできるものなどいない。
結果的に言えば、エルヴバルムの勝利に終わった。
終戦後、捜索したところこの戦いの途中で敵に捕縛されたエルフたちは一ヵ所に集められた状態で放置されており、救出。
今回の戦いで連れ去られて者はいなかった。
エーデルバルム側の損害はひどく、冒険者及びエーデルバルムの兵士たちは大半が魔物たちに殺され、ほぼ全滅状態。
森の外で待機していた補給部隊もグリゼルが気を利かせてくれたのか、能力を使用して全員拘束してくれていた。
これらの情報は紫音が、ソルドレッドたちと合流したときに戦場に出ていた魔物たちを通して知ることができた。
紫音は、このことをソルドレッドたちに伝えると、ソルドレッドは涙を流しながら頭下げていた。
「ありがとう……。君たちがいなければ我々は……」
「あ、頭を上げてください。他のみなさんもいることですし……」
「しかし、結果的に君たちのおかげで勝つことができたわけで、なんと礼を言えば……」
「なに言ってるんですか? まだ礼を言うのは早いですよ」
「……っ?」
紫音とソルドレッドが話している中、その会話に割って入る一人の男がいた。
「よくも……よくも部下たちを! 許さんぞお前ら!」
拘束された状態でランドルフが喚き声を上げていた。
その傍には殺されず、生け捕りにしたエーデルバルムの騎士や冒険者数十名ほどが同じく拘束された状態で集められていた。
「生け捕りにしたのはこいつらで全部か?」
「ああ、こいつらで全部だ。死体はめんどうだからその場に放置しているがな」
紫音は戦いを終え、戻ってきた魔物たちに生存者について質問していた。
「後は、俺が捕まえておいたエーデルバルムの連中で全部だな」
「そういえばどうだったな。助かったよグリゼル。……お前らも、よくやってくれた」
「おーい、シオン。戻ったぞ」
「……? ディアナ」
キリカの足止めを頼んでいたディアナが空を飛びながら帰還してきた。
「どうだった、あの剣士は?」
「うむ。なかなかの手練れのようじゃが、儂の相手ではなかったな。ニーズヘッグの奴らと一緒に逃げるまで少しばかり遊んでやったわい」
「ディアナもそうだけど、今回はみんなよくやってくれたな。ありがとう」
紫音は、協力してくれたみんなにお礼を言いながら改めてソルドレッドのほうに顔を向ける。
「国王様、これで終わりじゃあ納得いかないんじゃないですか?」
「……? それはどういう意味かね?」
「今から最後の大仕上げに行くんですが、国王様も一緒に行きませんか? なあに、安心してください。悪いようにだけは絶対になりませんから」
紫音は、そう言いながら小さく笑みを浮かべ、悪い顔をしていた。
この結果だけでは割に合わないと感じたのか、紫音はエルヴバルムとエーデルバルムの二つの国の決着を付けるべく動き出した。
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