第188話 竜と吸血鬼の共闘

「でかしたぞ、ティナ!」


 メルティナの口からなにかをお目当ての物を見つけることができたらしく、紫音は嬉しそうな顔をしながら声を上げた。


「あの石像の……ちょうど胸の中心部分です! 不自然に膨らんでいるところが目印です」


 見れば、メルティナの言うように石像の胸の部分に一ヶ所だけ半月型に盛り上がっているところがある。


「あれだな……。フィリア、ローゼリッテ、お前ら聞いてたな。そこに攻撃を集中しろ!」


「待て、シオンくん。君たちはさっきから、何の話をしているんだ?」


 自分を置いて、話をどんどんと先に進んでいるため、たまらずエリオットは紫音に問いかけた。


「なにって、簡単に言えばあいつの弱点についての話です」


「じゃ、弱点だと?」


「はい。俺は最初、動いて話すあいつらを見た瞬間、ゴーレムと似たものだと判断したんです。普通、ゴーレムは魔力を動力として動いているので、あの石像も動力源さえ破壊してしまえば止まるはず……。それで、ティナの眼を使ってその場所を探っていたんです」


 そこまで話すと、今度はメルティナが前に出て、紫音の後に続いて話し始める。


「シオンさんに言われて観察したところ、やはりゴーレムと同様にあの石像も魔力を介して動いていることが視てわかりました。そのおかげで、支援もできたのですが、肝心の動力源までは巧妙に隠されていたせいで、いままで視認することはできませんでした」


 メルティナは一度、石像に視線を移してから話を続ける。


「……ですが、魔力の流れを改めて確認したところ、ある一ヶ所を中心に不自然な魔力の流れを見せる部分がありました。おそらくですが、巧妙に隠したことによって起きた現象なのだと思います。不自然と言っても本当に誤差の範囲でしたが、それでも私の眼にはごまかせません」


「さすが、ティナだな。お前のおかげでようやく勝てる見込みができた」


「……ま、まさか……その動力源の場所に先ほどの攻撃を加えるつもりか? 確かにアレならあの頑強な身体も突破できそうだが……」


「ええ、そのつもりですよ。……でも、向こうもバカじゃないのでなんらかの対策を講じているはずです。もしかしたら、さっきと同じ攻撃では破壊できないかもしれません」


「……な、なら、どうするつもりだ!」


「一つだけ……手はあります。アレならおそらく……」


 勝利への道筋を立てた紫音は、少しだけ緊張した面持ちをみせるものの、その瞳には確かな覚悟が宿っていた。


「……君がそこまで言うならなにも言うまい。私になにかできることはあるか?」


「ありがとうございます。……ですが、手助けはさっきので十分です。監視役のエリオットさんにこれ以上手を貸してもらうのも気が引けますし、なにより俺たちの手でだけ乗り越えないと意味がないと思うので」


「……そうか。余計なお節介だったようだな」


「いいえ、本当にありがとうございます。……ティナ、悪いがもう一回、時間稼ぎしてくれないか?」


「それはいいですけど、向こうはシオンさんの攻撃を見て警戒しているはずです。時間稼ぎまでは大丈夫かと思いますが、さっきみたいに動きを止めることまでは難しいと思いますよ?」


「いや、それだけで十分だ。スキは俺が作る」


 打ち合わせを終えた紫音は、石像を倒すべく再び前に出る。


「行くぞ、ティナ。どうやらフィリアたちのほうも動き始めたようだし、一気にケリを付けに行くぞ」


「ハ、ハイ!」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 紫音とメルティナが石像との戦いに戻る中、フィリアとローゼリッテも動力源の破壊を目指して動き出していた。


「創成――《ブラッディ・ダガーレイン》」


 ローゼリッテの血流操作によって創られた無数の血の短剣が雨のように降り注ぎ、石像に襲いかかる。


「――ッ!」


 しかし石像の頑強の身体では、その短剣は痛くも痒くもないといった様子だった。


「デカトカゲ!」


「その呼び方、やめろって言っているでしょう! 《炎竜の息吹イグニス・フレア》」


 フィリアの口から赤く燃え盛る膨大な炎が放たれる。

 石像はその高火力を誇る炎に包まれ、その身体を焼き尽くしていく。


「――ッ!」


 しかしこの攻撃も石像には通用しないようだ。

 力尽くで炎を振り払った石像の身体には焦げ跡一つも見当たらない。


「――ッ!!」


「なっ!?」


 フィリアの炎に耐えた石像は、背中にある羽を広げ、次の瞬間、驚くべきことにその羽で空を飛んだ。

 そのまま、空中にいるフィリアのもとまで距離を詰め、剣を振り下ろす。


「くっ!」


 身体を横に傾け、石像の攻撃をなんとか躱していく。

 ところが、石像はその動きを予測していたのか、躱された瞬間、すぐさま盾を前に突き立て、フィリアに突進する。


「ガハッ!」


 フィリアの身体が盾と衝突し、凄まじい力に圧され、空中から地面へと吹き飛ばされてしまった。


「げほっ! げほっ!」


「あーあ、こっぴどくやられたわね」


「大げさに言うんじゃないわよ。私はまだやれるわ」


「そう、なら安心だわ。……でも、どうする? 生半可な攻撃じゃ倒せそうにないし……さっきアタシが言った案に乗ってみる?」


「……いいわよ。あんたが考えた提案に乗るなんて本当ならイヤだけど、そうも言ってられないしね」


 先ほど、メルティナの口から動力源の話をしていたときにローゼリッテから石像を倒す策を伝えられていた。

 最初は自身のプライドが邪魔をして乗り気になれなかったが、切迫した状況下ではそのプライドも一時的に捨てるしかなかった。


「そうと決まれば、さっさと始めましょう。おそらくチャンスは一回きりになるはずよ。アイツ、自分が受けた攻撃に対して即座に対応策を見つけ出すことができるみたいだからさっき言った作戦も一回やったら対策される恐れがあるわ」


「それは同感ね。あの学習機能……なかなか厄介ね」


「話はここまでよ。うまくやりなさいよ!」


「そっちこそ!」


 話が終わったところでローゼリッテは、準備をするためにいったんフィリアから距離をとる。

 そして、空中を支配していた石像が、またもや盾を前に出しながら急降下してくる。


(そうよ、こっちに来なさい)


 フィリアは、タイミングを見計らって、急降下しながら仕掛けてくる石像の攻撃をギリギリのところで飛んで躱す。


「いまよ! 失敗したら承知しないわよ!」


「アンタに言われるまでもないわ」


 石像が地面へと着地した瞬間、ローゼリッテが血流操作であるものを創り出す。


「創成――《スパイダーネット》」


 蜘蛛の巣状の網を創り、石像の足元に向けて放った。


「――ッ!?」


 その網は石像の足と地面に覆いかぶさるように設置され、石像は網を振り払おうと、足を動かす。

 しかし、振り払っても振り払っても網がネバネバとしているせいで、なかなか抜け出せないでいる。


「……前にシオンがやっていたのをマネして創ってみたけど、創造以上にヒドイわね。できれば、これっきりにしてもらいたわ」


 自分の美学に反するのか、ローゼリッテは心底イヤそうな顔をしていた。


(アレで、動きを止めることができたとはいえ、もって数秒といったところね。これで決めるわよ)


 ローゼリッテは、フィリアに合図するようにアイコンタクトを送る。

 フィリアもその合図に気づき、応えるように頷く。


「これで終わりよ! 創成――《ギガント・ジャベリン》」


 石像の後ろに回ったローゼリッテは、先ほど見せた巨大な槍を生成し、それを石像の背中に投げ放った。

 巨大な槍は、石像の身体に直撃するが、傷一つ付かない。


「くっ!」


 それでもローゼリッテは、攻撃の手を緩めず、絶えず巨大な槍を操作する。


「は、早くしなさい!」


 ローゼリッテが叫ぶその先には、空へと一時的に避難していたフィリアが、攻撃を仕掛けようとしていた。


 羽を閉じると同時に石像に向かって急降下。その勢いのまま炎も吐き出し、その身体が炎に包まれる。

 さらにその炎を操り、先端を鋭利な槍のように形を変え、突進する。


「《竜炎星・魔槍弾まそうだん》!」


 強力な二人の攻撃が石像に襲いかかる。


「――ッ」


 ローゼリッテが仕掛けた網に気を取られ、石像は二人の攻撃をモロに喰らってしまう。

 だが、頑強な体を持つ石像にはその攻撃も通じないのか、ビクともしない。


「そうやって余裕ぶっこいていられるのも時間の問題よ。大層自分の身体に自信があるようだけど、はたして大丈夫なのかしら? いくらバカに硬いと言っても一点に集約された力を前と後ろの両方から同時に入れられたらどうなると思う? ……フッ、どうやら答えは出たみたいね。アナタが大事にしている動力源が大変なことになっているわよ」


「――ッ!?」


 休むことなく、攻撃を入れ続けてきた結果、石像からわずかだが、ヒビが入り始める。

 フィリアとローゼリッテ、二人の渾身の一撃が加えられ、その力に紫音からもらった強化魔法も加えられているため、石像に襲いかかる威力は序盤のときとは比べ物にならないほどの威力を誇っていた。


 ローゼリッテが考えたなんとも力尽くの作戦ではあったが、結果的に事態は好転しているのが目に見えていた。


「ハアアァッ!」


「ハアアアアァッ!」


 この機会を逃さないため、二人はさらに力を加え、この頑強な石像を突破しようと、全力を出していく。

 ……そしてついに、


「――ッ!? ……ッ」


 二人の力に耐えきれず、石像の胸に大きな穴が空いた。

 それと同時に、中に埋め込まれていた動力機関もその力に巻き込まれ、粉々に砕け散っていく。


「ハア……ハア……」


「……ハア」


 動力源を失い、完全に機能を停止した石像は、大きな音を立てながら地面へと倒れこんでいった。

 その光景をしっかりと目に焼き付けた二人は、お互いに顔を見合わせ、パンと鳴らしながらハイタッチをした。


「……倒せたけど、あなたと共闘するのはこれっきりにしてほしいわ」


「同感よ……。アタシだって、もうこりごりよ!」


 二人は、皮肉交じりの言葉を口にした後、まだ戦いを終えていない紫音たちのほうに顔を向けた。

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