第10話 竜の住処
現在紫音は、森を
大空をこんなにも自由に羽ばたいていることに興奮を隠せないでいたが、しばらくして別の心配事について考えていた。
(フィリアが住んでいるところっていったいどんなところなんだ?)
今この瞬間、空を飛んでいることよりもこれから自分が住む予定の場所について気にかけていた。
ドラゴンが生活している場所なんて紫音が知る由もない。物語の中のドラゴンで言うならば大きな洞穴の奥やモンスターが
どれも快適な環境下ではないためあまり期待しないほうが自分のためだと思い、紫音はそう自分に言い聞かせた。
「おい紫音、着いたぞ。あの開けた場所にあるのが私の家だ」
紫音がそんなことを考えているうちに目的地に到着したそうだ。
フィリアの言うとおりに下に目を向けると、木々で囲まれた森の中に一箇所だけ
「もしかしてあれか……?」
「そうよ。それじゃあ着陸するからしっかり捕まっていなさい!」
そう言うと、下降するために背中の翼をたたみ、一気に急降下した。
フィリアの言うようにしっかり捕まっていなければ振り落とされてしまうほどの風が紫音を襲ったが、紫音は負けじと、フィリアの背中にしがみつく。
「……ん? あれって……まさか?」
急降下する中、紫音が地上に目をやると、さっきまで更地の中に米粒のようにポツンと置かれた物体が下降するたびに徐々に大きくなり、その物体が何なのか分かり始めた。
しかしその物体がわかった瞬間、そんなはずはないと紫音は自分の目を疑った。それはドラゴンの家にしては予想の斜め上をいくような家だったため思わず二度見してしまう。
「さぁ、着いたわよ。ここが、私が住んでいる家よ」
と、竜化を解いて再び少女の姿に戻ったフィリアが自分の家を指さしながら言った。
当然、これが現実だと直視できていなかった紫音だが、このまま逃避し続けるわけにもいかないのでフィリアに追求した。
「……なぁ、これって本当にお前の家か?」
「そうよ。……なに? なんか文句でもあるの?」
「……いや、そうじゃなくて、あまりにも普通の家だったもので……」
そう。その物体の正体は二階建ての立派な木造建築の家だった。前の世界でも見たことのある構造の家であり、窓ガラスやベランダもついている立派な一軒家が森の中に建っていた。
「なによその言い方。私の家に不満でもあるの?」
「い、いや、不満はないけど……俺の予想とあまりにも違っていたから思わず……」
もっと禍々しく、危険な香りが漂う場所に住んでいると勝手に思っていたため現実を目の当たりにすると、ずいぶんと的外れな予想をしていた。
「……そう。あなたの期待に応えられなくて悪かったわね。それよりも早く中に入りましょう」
フィリアに促されるまま紫音は家の中に入った。
「へえ、思ったより広いんだな」
中に入ると、広々としたリビングがあり、木造のテーブルや長椅子、奥にはいくつもの部屋が点在しており、二階に上がる階段もある。
外から見たときも広く感じたが、中にはいると想像の倍以上、広く感じる。……しかしここで、一つの疑問が生まれる。
「……フィリア、この家ってお前が作ったのか? もしそうならお前ってすごいんだな」
紫音はこの家を見た瞬間、ずっと気になっていた。こんな立派な木造建築物をドラゴンに作ることができるのだろうかと。紫音の知っているドラゴンにはこんな技術を持っているわけがないと思っていたため余計に疑問を感じていた。
「違うわよ。これはディアナが作ったのよ」
「……ディアナ?」
初めて出た名前にいったい誰かと聞き返す。
「この森に住んでいる私の仲間の森妖精よ」
「お前以外にも住んでいるのか? ……いや、それよりも森妖精ってのはいったいどんな奴なんだ?」
突然、新しい情報が出てしまったことに話がついていけなくなった紫音。
それを見てしょうがないわねとでも言うような表情を浮かべながらしぶしぶ答える。
「ディアナは私の仲間よ。それと森妖精というのは森を守護する管理者みたいな存在のことよ。世界各地にある森には必ず1人は存在して森を守護する高位の種族よ。まあ、私ほどじゃないけどね」
などと一言余計なことを付け加えているが、それについては深く追求せず、紫音は別の質問を口にした。
「お前の他にもここに住んでいる奴っているのか?」
「ええ、そうよ。これからここに住むなら近い内に紫音に紹介するわ。ディアナ以外にもいるから楽しみにしていなさい」
「ああ、楽しみにしているよ」
今の話を聞く限り、他の仲間というのは人間以外の亜人種である可能性が高い。そうなると、うまくいけばこの能力について少し分かるかもしれない。竜人族以外の種族にもこの能力が通用するのか、そう考えると紫音は好奇心からか、笑いが止まらなくなった。
紫音はその笑いを決して表には出さず、胸中で静かに笑みを浮かべる。
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