第17話 フィリアによる魔法講座
「さて、それじゃあいよいよ魔法について指導してあげるわ」
テイマーとしての講義が終了したことで、いよいよ今日の本題である魔法の講義を始めるフィリア。
ようやく本日の目的に入り、紫音はフィリアの言葉に耳を傾けていた。
「まず魔法にはそれぞれ属性があり、火・水・風・土の四大属性が基本的な属性よ。その他にも属性があるけど今はこの四つを頭に入れておきなさい。それと魔法の習得の際には難易度というものがあり、初級魔法、中級魔法、上級魔法、極大魔法の順に上に行くたびに難易度や威力は高くなるわ」
「最初のうちは、初級から覚えればいいのか?」
「そうね。まずは基礎から始めることが重要よ。……ああそれと、初級魔法に関してはその人の魔法適正に関係なく、努力すれば一通りの魔法を習得することが可能よ」
「それって適正がなくても初級魔法なら誰でも習得できるということか?」
「そのとおりよ。多少難しいけど初級魔法に関しては属性関係なく、習得はできるけど、それよりも上となると、残念だけどその人の適正が反映されるわ」
フィリアの今の話に紫音は考え込む。現状の能力の低さを補うためにも一通りの初級魔法を習得し、選択肢の幅を広げることでそれが戦闘に繋がるのではないかと考える。
「さっそく、魔法を覚えたいんだが、なにかコツとかはあるのか?」
「魔法というのは詠唱を理解することやイメージがとても重要だわ」
「詠唱とイメージか…」
「ええ、魔法と詠唱を関連付けて発動させる人や詠唱の内容からその魔法をイメージさせ、発動させる人など覚え方は人それぞれよ」
「俺としてはイメージ付けたほうがやりやすいかな」
フィリアの詠唱や魔法を実際に見た際、こちらのほうが紫音としては向いていると感じた。
「それじゃあ、本番に移るわね。まずは初級魔法の《ファイア・ボール》の詠唱から。初めてだから省略せずにきちんと詠唱を行いなさい」
その言葉に紫音は引っ掛かりを覚える。
「あれ? 省略って《ファイア・ボール》って言うだけじゃダメなのか?」
「まあそうね。練習すれば詠唱の省略や無詠唱での魔法の発動も可能だけど……そういえばそうね。紫音の前ではいつも無詠唱で発動させていたわね。これは私のミスね……。この魔法を省略せずに言うと、《火の魔弾よ敵を穿て――ファイア・ボール》よ。慣れてくれば詠唱を短縮して《ファイア・ボール》と唱えるだけで発動させることができるわ。けれど今は詠唱内容とイメージに集中しなさい」
「ああ、分かった」
紫音は手の平から指先にかけて意識を集中させ、イメージする。
魔法の名前からして火の玉。ただの火ではなく、形ある火。ゆらゆらと揺らめく火がその性質を保ったまま丸みを帯びて火球のような形へと変化するそのようなイメージを頭の中で焼き付ける。
フィリアに張り合うことなく、どんな形でもいいからまずは成功させることを最優先する。紫音はそう自分に言い聞かせ、意を決して魔法を唱える。
「《火の魔弾よ敵を穿て――ファイア・ボール》」
次の瞬間、ポッとマッチの火のような小さな火球が紫音の指先に現れた。
「おおうっ!」
小さいが、初めてできた魔法に紫音は喜びを隠しきれず、興奮していた。
「……ずいぶんと小さいわね。普通の人間なら私の半分くらいの大きさになるはずだけど……」
「この際小さくても別にいいよ。初めて詠唱した魔法なんだからこんなもんだろ」
「……まあ、威力に関してはこれから練習しておけば少しはマシになるかしら」
威力が小さそうなファイア・ボールを見ながらフィリアはブツブツよ呟きながら次に入る。
「さっきは攻撃系の魔法を教えたから次は防御系の魔法について教えるわ」
「次は防御系か……」
先ほどの攻撃魔法はお世辞にもいいものではなかったが、もしかしたら他の魔法なら、という淡い期待を紫音は抱いていた。
「今のところ装備もなにも付けていないから防御魔法だけはとりあえず実践で使えるレベルにしておきなさい」
「……わかった」
「とりあえず今日のところは、この魔法から教えるわ。《我を守りし魔の盾よ――シールド》」
フィリアが前方に向けて手をかざすようにしながら詠唱すると、手のひらから光を帯びた盾のようなものが現れる。
「これが初級の防御魔法の《シールド》よ。普通の人間が使えば、初級程度の攻撃魔法なら防ぐことができるけど魔力を多く注ぎ込めばそれ以上の攻撃にも対抗できるわ」
そういえばさっきの《ファイア・ボール》のときも普通ならフィリアよりも小さいサイズものができると言っていた。
これはフィリアの魔力が常人よりも大きいことが影響しており、そのせいで魔法自体もそれに比例して初級魔法でも強力なものへと変化している。
ここでふと、紫音はあることを思いついた。
「なあ、フィリア。その盾に攻撃してもいいか……素手で」
「ハアっ!? あなたバカなの? さっきも言ったけど私の防御魔法は人間が使用するものよりも強力な魔法になっているのよ。それをあなたが破壊できるかしら?」
フィリアは紫音の提案に馬鹿にした態度を見せたが、紫音はこれを無視する。
紫音の中には一つの仮説ができていた。昨日、フィリアに対して圧倒的な力を見せた未知の能力。
フィリアの直接攻撃や魔法の炎にほとんど無傷であったことを考えると、おそらくこの魔法の盾にも通用するのではないかと紫音は考えていた。
今後のことを考えても何事にも挑戦していくべき。もし試した結果、今回の仮説が間違っていたとしても少しの間、拳を痛めるだけだ。
覚悟を決めた紫音は、拳を握りしめ、《シールド》に照準を合わせる。
「いくぞ、フィリア」
「ええ、いつでも来なさい」
お互いに準備ができたところで紫音はフンと拳に力を入れ、《シールド》に向かって正拳突きのように真っ直ぐ拳を前へと突き出す。
パリリリィィンッ!!!
まるでガラスが割れたかのようなけたたましい音が鳴り響くかのように《シールド》が破壊された。
「……なっ!?」
突然のことにフィリアは目を丸くさせながらじっと《シールド》が破壊されていく様を眺めていた。
そして紫音自身もフィリア同様、この光景に驚きを見せていた。確かに力を入れて思いっきり拳を突き出したが、当たった衝撃すら感じることができなかったため紫音は驚きもあったが、それと同じくらい困惑していた。
「……あっさりと割れたな」
「まさか……これほどとはね。これが異世界人なのかしら。私の盾をこんなにも軽々しく破壊するなんて……カッコつけた私がバカみたいじゃない」
悔しそうに紫音に訴えかけるフィリア。よほど悔しかったのか、長いため息をついていた。
そんな中、紫音はというと。
「……どうやら俺の力は魔法に対しても有効なようだな。こんなに都合よくていいのかな?」
フィリアのことになど目もくれず、未知の能力の分析に集中している。
あまりの態度にフィリアは怒りを通り越して逆に呆れてしまっていた。
「ちょっと紫音……こんな状況でなに冷静に分析なんかしているのよ。少しは私に気を遣うとかできないの?」
「あっ……悪い。考え込んでしまって全く気付かなかったよ」
「こいつ、あのね――」
「でも、今ので大体掴めたから……ほら、《我を守りし魔の盾よ――シールド》」
フィリアからの小言が飛んできそうになるのを察知した紫音はそれを避けるために慌てて先ほど教えてもらったばかりの《シールド》の詠唱を行った。
魔法の発動には無事成功し、フィリアよりやはり小さくはあるが、紫音の前に光を帯びた障壁が確かに現出した。
これだけでフィリアの機嫌が収まるはずもないのでもう一言付け加えるように言う。
「フィリアの教えがよかったんだよ。きっと……ありがとな」
「そう………?」
「ああ、本当だよ。フィリアのおかげでまた一つ新しい魔法が使えるようになったよ」
「そ、そんな見え見えのお世辞を言っても……一人で騒いでいる私が恥ずかしいじゃない」
「別にお世辞で言っていたんではないんだが…」
「もういいわ。ここは紫音よりも年上の大人な私が寛大な心を持ってさっきのことは水に流してあげるわ」
その容姿で年上と言われても説得力がないと紫音は思ったが、この場を穏便に済ますためにもここはなにも言わないのが得策であると考える。
「……さて、次の魔法に移るわよ」
気を取り直してフィリアは次の魔法の講義へと意識を切り替える。
これでなんとか事態が収束していったが、紫音には依然としてさきほどの光景が脳裏に焼き付いていた。
防御魔法に対してもほぼ無効化させたのであれば、もしかしたらこの能力は紫音が思っているより強大な力を秘めているのではないかと考えゾッとしてしまった。
もっとこの能力について向き合っていこうと改めて覚悟を決める紫音であった。
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