第16話 能力保持者
使い魔として初めて契約したスライムのライムを胸に抱き、触り心地を確かめていた紫音であったが、しばらくしてため息を付き始める。
「どうしたのよ紫音。そんな残念そうな顔をして」
「いや、無事に契約できたから嬉しくはあるが、やっぱり欲を言えば、もっと強そうなのがよかったかな?」
「残念だけど今はそれで我慢しなさい。それにスライムっていうのは比較的にこちらから攻撃さえしなければおとなしいものよ。このスライムの戦闘力だって大したことないから初心者向きなのよ」
「……確かにフィリアの言っていることは正しいけど、そんな魔物をテイムしてもあまり意味がないと思うんだよな……」
紫音はある懸念を抱いていた。この先、テイマーとして脅威の存在と出くわした際に果たしてライムは戦力になるのか。
そんな紫音の思いを汲み取ってか、フィリアは「心配ないわ」と、優しげな瞳を紫音に向けながら続ける。
「確かに本体の戦力としてはあまり期待できないけど…でもね、ただのスライムと思って侮らないことよ。このスライムはスライムとしては珍しい
「能力……保持者? ……その能力保持者っていうのは一体何なんだ?」
「この世界では稀に
「それは魔法とは違うのか?」
紫音の質問にフィリアは頷きながら答える。
「ええ、そうよ。この能力は人や魔物などに宿るみたいなんだけどこれを持っている人なんてめったにいないのよ。だからその分、能力はどれも強力なものばかりで大昔の大戦では、能力保持者が多くの戦果を挙げたなんて話もあるわ」
「そんな能力がこのスライムに……」
「ちなみにこの子はね、《吸収と放出》という能力を持っているわ」
「……? それは一体どういった能力なんだ」
能力名を言われてもピンと来なかった紫音は再び質問をする。
「簡単に言えば、相手の攻撃をその体に吸収し、吸収した分だけ外に放出することができる能力よ」
「あれ? でもお前たしか、スライムの戦闘力は低いって言っていなかったか?」
「あれはただのスライムのことを言ったのよ。……そうね、実際に見せたほうが早いわね」
そう言うと、紫音に抱きかかえられているライムを地面に置き、少し離れた場所に移動するように指示される。
紫音は言われるがままに行動し、ライムと数メートルほど離れた場所まで移動した。
「そこでいいわ。いい、これから起こることに一瞬たりとも見逃さないことよ」
自信満々にこれから起こるであろう光景にクスリと笑った表情を見せる。
「見てなさい――っ!」
そしてフィリアは、昨日見せた魔法を無詠唱で発動する。
初級魔法のファイア・ボールが発動し、フィリアの指先にサッカーボールほどの火球が形成される。その指先をライムに向け、火球を放った。
それはまるで矢を射るような速度でライムを襲う。
「なっ!?」
――危ない。
紫音は直感的にそう感じた。ほぼライムと同じぐらいの大きさの魔法がライムに向かっているためこのままではライムがやられてしまう。
ライムが所有している能力についてすっかり頭の中から抜け落ちていた紫音であったが、次の瞬間、自分の目を疑うかのような光景を目の当たりにする。
「……な、なんだ…あれ?」
火球がライムに直撃する直前、ライムの体は一瞬にして倍以上に膨張し、フィリアの放った火球はその体の中にまるでスポンジのように吸収していった。
吸収し終えると、再び元のサイズになり、何事もなかったかのようにその場に佇んでいる。
「お、おい……フィリア! 今のって…」
「まあまあ、待ちなさい。これからが本番よ。紫音、こいつに命令してみなさい。……そうね、《放出》とでも言えばいいかしら。」
「……わかった」
ついさっきの光景に興奮が冷めやらないままの状態で命令してみることにする紫音。
近場にあった少し大きめの岩に照準を向けさせ、呪文を唱えるように言う。
「《放出》!」
すると、ライムの体から先ほどライムが吸収したのと同じ大きさの火球が生み出され、外に排出される。
この時点ですでに紫音が驚きを見せていると、次の瞬間、まるで拳銃の銃弾のような目にも留まらぬ速度で火球を放たれ、標的としていた岩が粉々に粉砕された。
「おいおい、マジかよ……」
あまりの放出の威力に紫音は驚きを隠せずにいた。フィリアの魔法を吸収したものよりも速度や威力においてはるかに凌駕していた。
「……なっ!? ……これは」
「すごいな、フィリア! これなら確かに戦力として充分に活躍できるな」
「え、ええ、そうね……」
紫音の称賛の言葉に対してフィリアはなにか引っかかりがあるかのように首をひねらせている。
「……これでスライムの能力についてはわかったようね。これに加えてスライムとしてのル能力として分裂も可能だから考えようによっては強力な戦力となるわ」
「分裂……か。確かに使いようによっては化けるかもな。それにしてもなんでライムにこんな能力が身についたんだ?」
「そうね、私の予想としてはこの森の環境のせいかしら。この森は私が来る前は、生存競争が激しく、弱肉強食の世界だったみたいよ」
少し前にフィリアからこの森について聞いたためライムがそんな現状で生活していたことに紫音は同情した。
「過酷な環境下で生き抜くために身に着けた産物だと私は考えているわ」
「そうだったのか。ライム、お前頑張ったんだな!」
ライムを抱きかかえるながら言い、子どもをほめるように優しく撫でる。
そんな光景を眺めながらフィリアは別のことを考えていた。
(それにしてもおかしいわね? 以前、能力を試したときは威力や射出速度は私が放ったときと同じくらいだったはず。変化することはなかったわ)
一見、小さな変化のように見えるが、紫音にテイムされた結果、ライムの能力に著しい変化が生じた可能性があるため、ますます紫音に興味を持ち出したフィリアであった。
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