第15話 テイマーと契約
《テイマー》――単語としては聞き覚えがあるが、実際この世界ではどういった職業なのか見当もつかなかった。
たまらず紫音はフィリアにテイマーについて問いただしてみる。
「そのテイマーっていうのはどういった職業なんだ?」
「これはとても珍しい職業よ。……というよりこれを職業としている人はあまりいないほどマイナーな職業でもあるわ」
それからフィリアは紫音にテイマーとはいったいなんなのか詳しく教えてくれた。
フィリアの話を要約すると、テイマーの適性を持つ者は少なく、珍しい職業ではあるが、これを職業として生きていく者はほとんどいない。
その理由としていくつか挙げられるが、まずは自身の使い魔として契約できるのは基本一種類のみ。テイマーの中でも魔獣と契約するとビーストテイマーと呼ばれ、精霊と契約するとスピリットテイマーなどと呼ばれる。
このようにテイマーは数多くの魔物たちを使役することができるが原則として契約できるのは一種類だけである。
また契約できる数にも限りがある。契約者の保有する魔力を常時使役した使い魔に与え続けなければならないためどんなに魔力容量の多い人でも1体から3体までが限界。
しかも契約方法にも問題がある。基本的に魔物を使い魔とさせるにはその魔物を戦って強さを示し、相手に認めてもらう必要がある。
もちろん例外はあるが、基本的に魔物と契約するにはこの方法が普通である。
契約する魔物が強力になればなるほど自身もそれに比例して強くなられければ強さを示せないので、それならば別の職業に就いた方がいいと考える人が多い。
そのせいでテイマーという職業は不遇な扱いとなっている。
しかし、フィリアの話を聞くとどうやら紫音の場合は、このどれらにも当てはまらないらしい。
「それってつまり、どういうことなんだ?」
いまいちフィリアの言葉を理解できなかった紫音は再び質問してみる。
「こんなこと私も初めてだから可能性の話になるけど……おそらく紫音は一種類などという原則を持たず、何種類とでも契約できるのよ。しかも使役できる数に上限はないわ」
「契約できる数もなのか!?」
「ええ。実は水晶にも記載されているのよ。契約数についてもこの水晶に記されるはずなのになぜか紫音にはないのよ。本来ならそういうことも明記されているはずなのに……」
フィリアは自分の目を疑うかのような表情を浮かべている。
フィリアの話を聞く限りどうやら紫音はテイマーとして規格外の能力を保有しているようだ。マイナーな職業だと聞いて紫音は一度落胆したが、好きなだけ魔獣でも精霊でも使役することができると聞き、紫音の心は少しだけ晴れやかになった。
極端に言えば、何千何万という数を使役することが可能であるため使いようによっては自分自身の能力の低さを補えられると紫音は考えていた。
しかし、そういう都合のいい話に限って落とし穴というのは存在するものだ。
「なあ、フィリア。契約できる数に上限がないって言っていたが、もし俺が多くの魔物たちを使い魔にして契約したとして、俺に何らかの不利益なことって発生したりするのか?」
「……そうね、私自身、こんなことは初めてだから今のところなんとも言えないわね。……でもこういうのって、実際にやってみたほうが早いでしょ。ということで紫音、片っ端から契約してみなさい」
「俺の意思は無視かよ。それに契約といっても誰とすればいいんだよ。そもそも契約の仕方もわからないし……」
どうしたものかと悩んでいると、ふとフィリアの顔が目に映った。
(そういえばこいつはどうなんだ?)
種族を問わないなら竜人族のフィリアとも契約できるのではないかと思いつく。
「フィリア……俺と契約してもいいか?」
「なっ!? よくないわよ! いいっ! あなたに契約されるってことは、私があなたに従属するようなものなのよ。そんなの私のプライドが許さないわ!」
竜人族としてのプライドなのか、それとも個人としてのプライドなのか、定かではないが紫音に契約されることをフィリアは断固拒否した。
「それじゃあ、いったい誰と契約すればいいんだよ」
「大丈夫よ。テイマーだと分かった時点であなたにぴったりなのを思いついたわ。……たしかいつもあの辺にいるはずよ」
そう言うとフィリアは紫音たちが来た森の方向に指をさしていた。
その方向に目をやると、森の茂みの中に何かいるのを確認した。その何かは遠くてはっきりと肉眼では確認できないほどであるが、それは青くて小さい物体であった。
「なんだあれ?」
「なにって、これから紫音が契約する魔物よ」
「あれがか……?」
やはりこの距離ではよく見えない。紫音は奇妙な物体の正体を確認するためにもその物体におそるおそる近づく。
「……? あれ、これって……もしかして……」
近くまで足を運ぶと、その正体についてあっさりと判明した。
それは、手のひらに乗るほど小さな体をしており、ゼリーのようにぷるぷると体を震わせているスライムであった。
スライムという存在に対して紫音は、ゲームなどをしたことがないため知識は乏しいが、弱い魔物という認識だけは持っていた。ストーリーの序盤に出てくるモンスターであり、初心者でも簡単に倒せるようなモンスターである。
確かにそのような魔物であれば、紫音でも契約はできそうであるが、紫音自身、欲を言えば、もう少し強力な魔物と契約したかったと胸中で悲観する。
「フィリア……。このスライムしか契約できる奴いなかったのか?」
「まあいるにはいるけど、今回は最初だし、この子と契約しなさい」
そう言いながらスライムを指さす。
「なんだよその理由。他にも契約できる魔物がいるんだろ?」
魔境の森と言われているこの森で最初に契約する相手がスライムということに紫音は納得していなかった。
その言葉にフィリアは、バツが悪そうな表情を浮かべていた。
「いるにはいるけど……みんな私の非常食用に残してある魔物なのよね」
フィリアの口からとんでもない発言が飛び出してきた。
「オイ! なんだよそれ。他にもいるんならそいつとも契約させてくれよ。どうせ何体でも契約できるならこの際、一、二体増えてもいいだろ」
「ダメよ! そしたら私のご飯がなくなるじゃないの。紫音だって昨日美味しい美味しいって食べていたんだからお互いのためにも契約しないことにしましょう」
フィリアの言葉に紫音は口出しできなくなってしまった。
昨日食べた肉を思い出してしまい、思わず生唾をごくりと飲む。あの味はやみつきになるような味だったためできればまた味わいたいと思うのは紫音も同じだった。
「…………わかった。とりあえずその話はまた今度にしようか……」
悩んだ末、この件についてはひとまず保留にすることにした。今は契約方法や早く自分の戦力を手に入れることが先だと判断したために出た答えだった。
「そうね、それがいいわ。……もうこの話は終わりにしてさっさと契約しましょう」
「そうだな……。そういえばお前、契約の仕方ってわかるのか?」
「ええ、その点は心配いらないわ。そういった関連の魔導書をあらかじめ持ってきたからこれを見れば一目瞭然よ」
おそらくあの宝物庫の中から持ってきたと思われる本を手に意気揚々とページをめくり、目当てのページを見つけると、そのまま紫音に指示を出し始める。
「まずは、契約を結ぶ者同士が入れるほどの魔法陣を地面に描いて……」
その後、フィリアに指示されるまま魔法陣を描き、その中に紫音とスライムが入る。
スライムは紫音が思っていたよりもおとなしくしており、紫音に危害を加える素振りすら見せないでいる。
契約に必要なものとして魔法陣以外に主人の血が必要とのことでフィリアから小型ナイフを借りた紫音はそのナイフで自分の指を傷付ける。
チクっとした痛みとともに傷付けた指先から血がにじみ出てくる。
「どこでもいいからその血でスライムの体に自分の名前を刻みなさい。……ああそれと、そのあとに主従契約をするための詠唱を行うけど、その詠唱の中にそのスライムの名前を入れる必要があるから今すぐ考えておきなさい」
「名前なんか必要なのか?」
「当たり前でしょ。この契約のための詠唱には両者の名前が必須なのよ。それに、このスライムは今から紫音に使役することになるんだから他のスライムと区別するためにも名前は必要よ」
「え……それじゃあ……ええと……ライム……で」
フィリアに突然そう言われ、時間もなかったため結局、『スライム』から一部分を抜き取って『ライム』という安直な名前となってしまった。
「名前は決まったようね。それじゃあさっそく契約に移るわ。これから私が詠唱を行うから繰り返して唱えなさい。……あっ!? それと、名前を刻むのも忘れないでね」
「わかっているよ」
急かすように言われたので、慌てて紫音はスライムの柔らかい体の一部に『天羽紫音』という名前を刻む。
それを確認すると、フィリアは詠唱を唱えだした。
「《契約の元に命ずる。汝は剣に盾となりて我の命に従い、その身を焦がし、我が糧となれ》」
「《契約の元に命ずる。汝は剣に……盾と……なりて我の命に従い、その身を焦がし……我が糧となれ》」
詠唱を唱えると、魔法陣から光が吹き出してくる。
「《我の名は天羽紫音、汝の名はライム。今ここに契約の儀を結ぶ》」
「《我の名は天羽紫音、汝の名はライム。……今ここに契約の儀を……結ぶ》」
光は詠唱を唱え終えると、紫音とライムを包み込むほどの光を発する。
時間にして数秒ほどでその光は止み、ライムの体に刻んだ紫音の名前はいつの間にか消えていた。
「……これで、終わり……なのか?」
「ええ、成功よ。これでこのスライムをテイムしたことになり、晴れてあなたの使い魔となったわ」
たどたどしい詠唱ではあったが、どうやら契約は成功したようだ。
紫音はほっと胸を撫で下ろし、これから紫音の使い魔となるスライムのライムを抱きかかえる。
「これからよろしくな、ライム」
スライムのだからか、ライムは言葉を発することなく、体を震わせて意思表示のようなものを見せる。
最初はスライムということで最初は不満だったが、初めて契約した相手のせいかライムに妙な愛着を抱き始めていた。
異世界生活一日目にして、紫音のテイマーとしての第一歩は今始まった。
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