第18話 続・フィリアによる魔法講座
「最後に補助魔法について教えるわ」
攻撃系・防御系の魔法の説明が終わり、最後の段階へと移る。
「補助魔法というのは、主に術者本人、もしくは他者に働きかける魔法のことよ」
「例えばどういうのがあるんだ?」
「そうね……例えば、自身の能力を強化する身体強化魔法や装備に魔法をかけ、新たな能力を付加させる
「その魔法を覚えれることができれば俺の能力も底上げできるのか」
「ええ、昨日の私との戦闘の際、パワーは確かにあるけどスピードにおいてはそれほどなかったわよね。でもこれさえあれば、その点を補え……ることができ……るわ……」
「どうしたんだ、フィリア」
突然、なにかを考え込むように唸っているフィリアに心配になり、声を掛ける。
「いえ……今説明していた中で気になることがあってね。……紫音、悪いけどあの岩に向かってさっきみたいに攻撃してみなさい」
フィリアの急な申し入れに思わず首を傾げてしまう。
「どうしたんよ、いきなり?」
「いいから黙って私の指示に従いなさい!」
「……頼むにしても、もう少し言い方というものがあるだろ。……まあいいけど」
フィリアの横暴さに文句を言いながらもなにかフィリアには考えがあるんだなと自分に言い聞かせ、素直に指示に従うことにした。
フィリアに指示された岩の前に到着した紫音はさきほどフィリアの《シールド》を破壊したときと同じように拳を握りしめる。
(そういえば、フィリア以外に攻撃するのってこれが初めてだよな)
目標であるの岩の前で紫音はそんなことを考えていた。
思えばこの能力、岩のような無機物にも効果あるのだろうか。
もしかしたらフィリアもそのことに気づいたため紫音にそのような命令を下したのではないだろうか。
フィリアにどんな思惑があるのか紫音は知らないが、この場合においては言う通りにしておくことこそ得策だと紫音は考えた。
そして紫音は、握りしめた拳をさきほどと同じ要領で岩に向けて攻撃する。
ゴンッ!という鈍い音がしたが、岩の方には
「いってえぇぇっ!!」
紫音はあまりの痛みにその場にうずくまる。ふうふうと痛めた拳を労るようにしながら痛みを抑えていた。
「どうやら、岩に対してあの能力は働かないようね。……もしかして生物にだけ働く能力なのかしら?」
「お、おい……さっきの仕返しと言わんばかりに冷静に分析していないで……少しはこっちの心配をしろよな……」
まるで紫音のことを心配せずに自分の世界に入っているフィリアに訴えかける。
「あら、ごめんなさい。それじゃあ次は身体強化魔法を自分にかけてからもう一度やってみなさい」
「おい……」
悪びれる様子のないフィリアの態度に紫音は驚きを通り越して呆れてしまった。
確かに紫音にとっても重要なことが判明したため本来なら怒る必要もないが、どうもフィリアの傲慢な態度にはいちいち
「初歩的な身体強化魔法は《力の根源たる魔をその身に纏え――フィジカル・ブースト》よ。持続時間とどれだけ強化されるかは魔法に注ぐ魔力量に比例するわ」
「なるほど…」
そうなると、魔力の低い紫音にとってあまり効果は期待できない。しかし、ないよりはマシだと考える。
発動するイメージとしては、体に力が漲るような感覚。生命力に溢れ、活性化するようなイメージを頭に焼き付け……、
「《力の根源たる魔をその身に纏え――フィジカル・ブースト》ッ!!」
紫音の体に変化が起きる。
呪文を唱えた瞬間、体が焼けるように熱く感じたが、それが収まると次に体が軽くなったようなそんな感覚に襲われた。
力が溢れかえり、今すぐ体を動かして発散させたいという気持ちに駆られる。
「こ、これが、身体強化魔法の効果か……」
「どうやら成功のようね。次にもう一度あの岩に向かって攻撃してみなさい。今度は壊せると思うわ」
「お、おう……」
さきほどの光景がフラッシュバックし、怯む表情を浮かべる紫音であったが、もうさっきとは状況が異なり、確かな自身が自分にはあったため気持ちを切り替え、攻撃に挑む。
「うおおぉぉぉっ!!!」
助走をつけながら勢いよく駆け抜け、目標の岩、目掛けて勢いのままに拳を振り下ろす。
鋭い音があたりに撒き散らしたと同時に紫音の左手が岩に衝突した。破壊まではいかなかったが、放った拳を中心に岩に亀裂が走っていた。
「はあはあ…」
紫音は肩で息をしながら呼吸を整える。痛みは少しあるが、魔法で強化する前に比べればこれほどの痛みには十分耐えられる様子だった。
紫音が思っていたよりも壊すことができていたため目の前の光景に驚きを見せていたが、同時にこれを自分がやったという事実に笑いが止まらずにいた。
「……どうやら成功したようね」
「あ、ああ。自分でも信じられないくらいの力だったよ」
「でもこれで満足しないことよ。こんなの初歩中の初歩なんだから。これからもっと魔法の練習をすれば、これ以上のことができるようになるわ」
「……これ以上のことが……俺にもできるのか?」
「ええ、そうよ。使える魔法を増やして工夫すれば、魔力の低い紫音でも強くなれるはずよ」
強くなれる。
フィリアの何気ない励ましの言葉だけで、これまで他者に虐げられるばかりの生活を送っていた紫音にとってたったそれだけで嬉しさが込み上げてくる。
「これからビシビシと鍛えてあげるから覚悟しておきなさい!」
「ああ、よろしく頼む」
これでフィリアから攻撃、防御、補助魔法と、基本的な魔法について教えてもらった。
今後の課題としては使用可能な魔法の数にそれを組み合わせ、敵を倒す方法を見つけ出す必要がある。
まったくの初心者で魔法とは無縁の世界で生きてきた紫音にとってそれはとても長い道のりとなるであろうが、紫音の顔に不安の色はなかった。
「あ、でも……」
「……ん?」
「言い忘れていたけど、私が教えるのはここまでよ」
「なっ!? ここまで教えておいてあとは放置かよ?」
「落ち着きなさい。それについては大丈夫よ。私は魔法についての初歩の初歩について教えたまでよ。ここから先は別の人が指導するよう話はつけているから」
「別の人……?」
その別の人についてはっきり教える様子のないフィリアだったが、フィリアの自信満々な顔から推測するに、それだけ信頼の置ける人物なのだろうと、紫音は予想する。
「そうね、そろそろちょうどいい頃合いのようね。ちょっと付いてきなさい!」
「どこにだよ?」
「顔合わせよ。魔法について教えたあとは、この森に住んでいる仲間たちを紹介する予定だったのよ」
「はあっ!? おい、待て! 聞いてないぞ、そんな予定」
「今言ったんだからあたりまえでしょう。さあ、行くわよ」
そのままこちらの静止の声にも耳を貸さず、一方的に行動するフィリア。そんなフィリアに紫音はため息を漏らしながらも黙って付いていくことにする。
フィリア以外のこの魔境の森に住んでいる住人。
フィリアはそのように言っていたが、それがどれほどの数なのかは正確には言っていない。
昨日フィリアが言っていたディアナという森妖精はおそらくこれから会う一人だということはすぐに予想がついたが、それ以外はまったくの謎であった。
そんな不明瞭な情報の中、これから会うことになるため紫音の心臓は不安のあまり鼓動がいつもより早くなっていた
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