第254話 奇襲の炎
二体のゴーレムの討伐を終え、紫音たちの前に立ちはだかる障害を排除することに成功した。
一仕事終えた紫音は、リンク・コネクトを解き、勝利した達成感を噛みしめながら一息ついていた。
「あらら、本当に私たちの出番はなかったわね。……ちょっと残念」
「それよりもシオンだ。……見たところ、異常はないように見えるが……」
今の紫音は、先ほど打って変わって、落ち着きを取り戻しているように見える。
「シオン、無事か?」
「……っ? え……大きなケガはしていないと思いますが……」
「いや、そういう意味では……まあ、その様子なら心配はいらないようだな」
「……なんのことだ?」
突然言葉を濁すヨシツグに紫音が怪訝そうな顔を浮かべる中、ふと紫音はあることに気付く。
「おっ、どうやら向こうも終わったみたいだぞ」
紫音の視線の先には、甲板にいた兵士たちを倒し、こちらも一息をついていた魔物たちの姿があった。
「ご苦労様。よくやってくれたな」
戦いを終えた魔物たちに歩み寄りながら一体一体に労いの言葉をかけていく。
「それで、シオンさん。これからどうします? 当初の予定通り他の皆さんの加勢に出るつもりですか?」
「ええ、そのつもりですよ。さっきの戦いもそれほど魔力を消費していないので、このまま行くつもりです。……ですか」
そう言いながら、紫音は魔物たちに目を向け、話しを続ける。
「こいつらとはここでお別れにします。戦いのせいでずいぶんと疲弊しているようなので、移動用に魔物を数体だけ連れて、後は思います」
よく見ると、魔物たちの体は傷だらけのうえに息も上がっていた。
「賢明な判断ね。その子たちは少し前まで呪いに侵されて苦しんでいたからね。これ以上、戦わせるのは酷というものだわ」
「それでだ……。俺はディアナのところに行くから、ヨシツグはグリゼルのところに行って加勢してくれ。まあ、あの人のことだから相手との一騎打ちを望んでいそうだが、無視していいからな」
「この状況であれば、それもやむを得ないか。グリゼルの奴になにか言われそうだが、シオンの言う通り無視するとしよう」
「そうしてくれ。あとは……」
ヨシツグにそう頼みながらセレネのほうへ目を向ける。
「なんだか成り行きで合流しちゃいましたけど、セレネさんはどうしますか?」
「お邪魔じゃなければシオンさんに付いていってもいいかしら? コアを失ったゴーレムは後で回収すればいいし、手持ち無沙汰なのよね」
「……それはいいですけど、リーシアたちのところに行かなくていいんですか?」
「別にいいのよ。どうせ、今から追いかけて行っても無駄足になるだろうし、それならシオンさんたちの力になったほうが合理的だと思うのよね」
「まあ、手を貸してくれるなら素直に助かるけど……」
単純に戦力としての頭数が増え、特に断る理由もないためセレネの提案を受け入れることにした。
「では、シオンとはしばしの別れだな。……そうだ」
ヨシツグがグリゼルのもとへ向かおうとしたところ、なにかを思い出したように足を止め、紫音に目を向けながら話しかける。
「妖刀に体を支配された経験がある私に言われても説得力はないが……」
「……っ?」
「力に溺れるのではないぞ。一人で解決しようとせずに周りの者たちに頼ってもいいんだからな」
「……突然どうしたんですか?」
唐突な助言を受け、意図が分からず、紫音は怪訝そうに首を傾げていた。
「別に他意はない……。頭の片隅程度にでもしまって置いてくれていればいいだけのことだ」
そう言い残し、ヨシツグは魔物に乗りながら紫音たちのもとを去って行った。
意味深な発言を残していったせいか、辺りにはなんとも言えない空気が流れていた。
「ねえ、シオンさん。あなた大丈夫?」
この空気を察してか、セレネは問いかけるように紫音に声をかけた。
「……大丈夫です。ヨシツグの言いたいことはなんとなく分かったので」
「……え?」
「たぶん、『リンク・コネクト』のことを言っていたんだろうな。大方、セレネさん辺りが告げ口でもして余計な心配をさせてしまったんでしょうね」
「あらら、バレていたの?」
「そりゃあ、この魔法のことについて根掘り葉掘り聞いてきていましたからね。気付かないほうがおかしいでしょう」
実際、セレネがアルカディアにいた頃には、毎日のように紫音のもとを訪れ、幾度となく質問攻めしてきていたほどだった。
「考えてみればそれもそうね。……でも、告げ口だなんてひどい言い方ね。心配していたのは本当のことなのよ。事実、さっきまでのシオンさんは、こっちが不安になるほど性格も戦い方もが変わっていたのよ」
「……やっぱりそうだったか。あんまり、自覚はないけど、初めて別の姿に変身するときはいつもそうなるんだよね。フィリアのときもそうだったし」
「なんだ、そうだったのね……。私は初めて見たもんだから止めに入ろうと思ったくらいよ」
「ご心配どうも……。でも、少ししたら体が馴染んで、そういう症状もなくなっていたもんだから、今まで気にしていなかったんだよね」
「……いろいろと不安材料はあるけど、本人が自覚しているようなら私が心配する必要もないわね。ごめんなさい、無駄話させてしまって」
「気にしないでください。一応、こっちのほうでも対策は考えていますから」
「……対策?」
「それよりも、早く行きましょう。さっさとこの厄介な結界を攻略しないといけませんから」
「ええ、そうね」
そうして、紫音とセレネも魔物に乗り込み、ディアナのもとまで急いで向かうのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
紫音たちのほうで動きがあった頃、フィリアたちは逃亡しているグラファを探し出すために戦場のはるか上空を飛びまわっていた。
「あの男……いったい、どこに逃げたのよ。次会ったら絶対にキツイ一撃を喰らわしてやるのに……」
「お、落ち着いてください、フィリアさん。私もがんばって探していますから、きっとすぐに見つかるはずです」
メルティナの眼の力を借りて、グラファの足取りを追っているが、依然として見つからない状況が続いていた。
この状況にフィリアは、徐々に苛立ちを覚え始めていた。
「あ、あの、それと……一つお耳に入れてほしいことがあるのですが……」
「なに……?」
「ここからは離れていますが、先ほど妙な魔力の流れが私の目に映ってきました……。どうやら、向こうのほうで大規模な魔法が発動したみたいなんですよ」
「それなら私も感じたわ。それもなんだかイヤな気配をね」
「ですので、こちらの用が終わったら一度シオンさんと合流しませんか? 私もあの魔法にはイヤな気配を感じていたので……」
少し前にコーラルが発動させた結界の存在に、メルティナは邪悪なものを感じ取っていたようだ。
「……いいわ。私も気になっていたところだし、紫音ならなにか知っているかもしれないしね」
「ありがとうございま……っ!? フィリアさん、止まってください! 見つけました!」
興奮したように声を上げながら急いでフィリアに制止の声をかける。
「見つけたって、グラファの奴を!?」
「ハ、ハイ。幻術を使って、うまく隠れていたようです。下にあるあの小島にいます。幸いまだこちらに気付いている様子ではないですが、空では隠れる場所もないので、ここから慎重に行動してください」
「よく気付いたわね。あんな小島、私だったら無視していたところだわ」
「あの小島も幻術ですね。周囲にも何ヶ所かあるので、周りに溶け込みながら隠れていたのだと思います」
メルティナの眼にかかれば、どんなに巧妙な手口を使ったとしても簡単に見破られてしまうようだ。
「……メルティナ、どこか適当な場所に降ろすからあなたはどこかに避難しなさい」
「……え? な、なんでですか?」
「バカね……今から戦闘になるのよ。あなたを背負ったまま戦えるほど私は器用じゃないのよ。下手したら振り落とされてそのまま落っこちてしまう恐れがあるから、避難しなさいって言っているのよ」
「……で、でも、シオンさんは乗せていますよね」
「あいつは慣れているからいいのよ。私がどんなに好き勝手飛んでいても紫音は絶対に振り落とされたりしないわ。……でも、メルティナは違うでしょう?」
メルティナにケガを負わせたくない思いと全力でグラファとの戦いに臨むために、フィリアは心を鬼にして、メルティナに言い聞かせようとする。
「イ、イヤです……」
しかし、それでもメルティナは折れなかった。
「私もみなさんのお力になります。決して足手まといになんかならないので、私も一緒に戦わせてください」
「……その心意気は素直にうれしいけどね」
「そ、それに、相手は幻術を得意としています。それなら、私の眼は必ず役に立つはずです」
「……いいわ。存分に役に立ってもらうわ。その代わり、絶対に振り落とされたりしないでよね。たぶん落ちても助けに行けないかもしれないし」
「ハ、ハイ! がんばってしがみ付いています!」
話もまとまり、いざ戦闘に入るためフィリアはその火蓋として、ある攻撃に移る。
「さっきの宣言通り、一番の奴をまず叩き込んでやらないとね」
フィリアの体内にある魔力を凝縮させながら口内に移動させる。
すると、フィリアの口元から溢れんばかりの炎が漏れ始め、その量はどんどんと増えていく。
「喰らいなさい! 《ドラゴンズ・ギガフレア》!」
フィリアの口から凝縮された炎の塊が大玉となって放出された。
その大玉は炎を辺りにまき散らしながら、グラファが隠れている小島に向かっていき。
……そして、
「ガアアアァァァッ!?」
直撃したと同時に、小島があった方向から男の悲鳴が上がった。
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