第12話 魔境の森
あれからフィリアに出された肉を食べ続けていると、紫音の中にある疑問が浮かんでくる。
「……ところでフィリア。この肉っていったいなんの肉なんだ。今まで食べたことのない肉のようだが……」
「ああ、これね。……これは魔物の肉よ」
「……ブフォッ!?」
衝撃的な真実に紫音は驚いてしまい、咳を出しながらむせてしまった。
苦しそうに咳き込んでいると、フィリアから水の入ったコップを手渡され、慌てて受け取り、勢いよく飲み干す。
「……はあ……はあ、これって魔物の……肉なのか? それって……た、食べても大丈夫なのかよ?」
徐々に息を整えながらついさっきできた心配事を口に出した。
魔物という単語自体、紫音は物語の中でしか聞いたことがなく、知識としてはほとんど知らない。紫音が知っているような肉が出ないかもしれないとは予想してはいたが、まさか魔物の肉とは。
こればっかりは予想すらしていなかったため何も聞かずに食べてしまったことに少し後悔をしていた。
「あら、大丈夫に決まっているわよ。魔物なんてマナの塊、生物の形をしたマナみたいなものだから人体に影響はないわよ。むしろ魔力や体力の回復に繋がり、さらに魔物の肉や素材は街で売れば、高値で取引されているのよ」
「その魔石ってのはなんだ?」
「魔石というのは簡単に言えば、マナがたくさん詰まった鉱石のことよ。魔石には自然のマナが詰まっているものもあるから生活の中に使用されたり、魔法の研究の際には実験材料として使用されたりすることもあるわ」
話しを聞く限り、この世界の人間にとっては重要な石であることは間違いない。
「その魔石は魔物以外で手に入れることは出来ないのか?」
「そんなことないわよ。魔石はさっきも言ったようにマナが満ちた自然の場所や鉱山なんかで入手可能よ。……まあ、魔物を討伐したほうが大きさも量も断然こっちのほうが多いけどね」
「そ、そうなのか…? そもそも、魔物ってどういう存在なんだ? 俺自身、一度も見たことないからよくわからないんだよ」
「そうだったわね。それなら……そうね、いい機会だからさっきの話の続きとして紫音にこの世界のことについて教えてあげるわ」
それはおそらく、この家に来る前にフィリアが教えてくれていたことの続きだろう。
ご飯を食べていたせいでそのことについて忘れてしまったが、向こうから話を持ちかけてくれたため好都合だと思い、フィリアの言葉に耳を傾ける。
「まずは、魔物のことについてね。……といっても、魔物についてはよくわかっておらず、まだまだ謎の多い生物なのよ」
「…お、お前ら、そんな謎生物を平気で口にしていたのかよ」
紫音は危機感のないフィリアの言葉に呆れてしまった。
「それに関しては平気よ。魔物の研究というのは大昔からされていて、実験の段階で食べても問題ないことは分かっているのよ。そうでなかったら、市場に出回ることなんてありえないでしょう」
「そ、それもそうだな…」
「そのほかにも、ただの動物が悪しきマナの影響を受けて魔物化したり、マナに満ち溢れているところなんかでは魔物は自然発生するということも解明されているわ」
「魔物化も気になるがそれよりもマナの……満ち溢れているところってどこなんだ?」
紫音の質問に少しの間、思案したあとにフィリアは答える。
「そうね、例えば人々の往来が激しい街中や自然豊かな場所はマナが発生しやすいから魔物が出現する可能性が高いわ」
「………もそれだと、急に魔物が現れるわけだから危なくないか?」
「その点は大丈夫よ。出現する可能性が高い場所には結界があらかじめ発動させてあるおかげで魔物の出現を封じているのよ」
「それなら、この森にも結界が発動しているのか?」
「ええ、もちろん。放置していると魔物で溢れ返ってしまうからこの家がある森の中心地には結界が展開しているわ。それとは別に索敵用の結界も展開しているわ。誰かがこの森に侵入してきたときに自動的に私に知らせてくれる結界だけよ。……そういえば、紫音のときは少し妙だったわね。いつもなら森に侵入した途端、結界が知らせてくれるはずだったのに、あなたの場合は森の中心部あたりで結界が反応したのよね…………」
「……ん? どうした急に黙りこくって」
ふと、結界の説明をしている際に紫音のときのことを思い出して妙な違和感を覚えた。
普通ならそのようなことはありえないはず。
結界はこの森を覆うように展開しているため空から来たとしても途中で探知される。転移魔法という可能性もなくはないが、この結界はそういった移動系や空間系の魔法に対して無効化する働きがあるためそのようなことは起こらない。
そうなると、紫音の言った異世界から来たという事実はさらに濃厚となる。
突然、森の中にいたということを踏まえると、この世界の者には不可能だが、それを可能としたのは彼が異世界人だからなのではないか、もしくは私たちの知らない未知の魔法が働いたためだからではないかと、フィリアは静かに分析していた。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしていたわ。それで話を戻すけど、魔物を封じる結界を発動していなくても大丈夫よ。魔物は私にとって人間が来なかった場合の貴重な食料となるから
「そういえば、さっきからこの森には人間が来ることが多いって言っているけどなんでだ?」
紫音の素朴な質問を聞いたフィリアはくすっと小悪魔のような笑みを浮かべながら答えた。
「……それはね……この森が奴らにとって金になるからよ」
「金……?」
「さっきも言ったけど、魔物の素材なんかは高値で取引されているわ。そしてこの森にはその魔物が湯水のように湧いているわ。そういうのを冒険者っていう武器や魔法を使い、依頼のためにあるいは私欲のために魔獣を狩ることを仕事にしている奴らにとっては大金を稼げる場所なのよ」
冒険者――ゲームや漫画などでよく聞く名前だが、この世界にはそれが実際に存在しているのだと、今のフィリアの話で新たな情報を掴むことができた。
「まあ、そういった奴らは私が片っ端から殺しているから被害というのはほとんどないのよ。そのせいか、この森に入った者は誰ひとりとして戻らないことからいつしか『魔境の森』と呼ばれるようになったわ」
その後、フィリアはこれまで魔境の森に侵入してきた者たちについてまるで武勇伝を話すかのように自慢げに熱弁していた。
熱心に話しているフィリアを尻目にどうやらとんでもないところに転移してしまったと紫音は胸中でため息を付いた。
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