第31話 協力と作戦
時は少し
フィリアの絶体絶命的な状況を目の当たりにした紫音は今すぐにでも飛び出していきたい衝動を抑え、ディアナの忠告を思い出していた。
このまま感情に任せて動いても必ず助け出せる保証はどこにもない。
助けに行くとしても無計画で挑むなんてバカのやること。紫音はそう自分に言い聞かせ、フィリアを救い出す可能性を少しでも高めるにはどうすればいいか思案していた。
敵の数や今の状況、自分が持っている手札などを客観的に分析したのち、ある決断に至る。
(よし、これでいくか。……となると、次に打つ手は……)
「なあ、リースにレイン。俺に協力してくれないか?」
草木の隙間から向こう側を覗き込んでいる二人に協力を求める紫音。二人はというと、この
「お、おい。……まさかとは思うが、助けに行くって言うんじゃないだろうな?」
「そのまさかだよ。そのためにもお前らの協力も必要だ」
「相手は魔境の主をも倒してしまうほどの奴らなんだぞ。ボクらが行っても無駄死にするだけだ!」
レインの言うことはもっともだが、紫音が彼らに協力してほしいことは別にあるようだ。
「誰も一緒に戦ってくれなんて一言も言っていない。お前らにはあそこで拘束されている仲間たちを救出してほしいんだ」
と紫音は敵から離れたところに捕縛されている獣人族たちを指さしながら言う。
二人は紫音の言葉に聞いて慌てた様子で再び草木の隙間から覗き込む。
さっき覗いたときはフィリアが捕縛されているという予想だにもしていなかった展開を目の当たりにしたせいで獣人たちの方までに目をやる余裕もなかったのだろう。
「よかった……よかったぁ。まだみんな生きている……うぅ」
「ああ、奴隷として捕まえるのが目的だったのか? ……でもそのおかげでひどいケガをしている人がいないな」
二人は仲間の無事を確認すると、ほっと安堵の表情をこぼす。
すると、リースの方から紫音に声をかけてくる
「で、でもなんで、わたしたちがみんなの救出を? 魔境の主様の方はいいんですか?」
「それに関しては俺が行く。そのためにもなるべく障害は取り除いておきたいんだ。……もしも奴らがお前らの仲間を人質にして脅してきたらどうする。それを未然に防ぐためにも必要なことなんだ」
「おい、ちょっと待て! お前一人で行くのか?」
「そうですよ! 危険すぎます」
紫音の無謀な発言に対して二人は非難の言葉を投げかける。
それもそのはず。二人から見れば紫音は自分たちよりも身体能力が劣る人間であり、ここまで来るだけで息を切らすほどの貧弱さを見ていたため反対するのは当然のことであった。
フィリアたちは紫音の力を目の当たりにしたためその心配はないが、出会ってまだそんなに経っていない二人には紫音の力を知るはずもない。
しかしそれも自分の力を見せれば納得してくれるだろうと考えた紫音はその証明のためにレインに手招きをする。
「レイン、ちょっとこっちに来てくれ」
「な、なんだよ?」
レインは怪訝そうな顔を浮かべるも素直に紫音の元に近寄る。
「いいか。今から証明するから絶対に大声出すなよ」
「だからなんなんだ――ッ!? 痛ってえぇっ!?」
紫音は証拠とばかりにレインに軽いデコピンを喰らわせてやる。レインはあまりの痛さに自分の額を手で抑えながら涙目になっていた。
「確かに俺は、お前らとは身体能力では劣るが、それでもこの通りお前を倒すことができる術を持っているから心配するな。……それに、俺が相手するのは1人だけだ」
「……? どういうことですか?」
紫音の言葉の意味が読み取れないリースは小首をかしげている。レインもリースと同じ反応を見せていたため紫音はフィリアたちのいる方に指をさしながら答える。
「もう一度よく見てみろ。今あそこにいるのはフィリアと黒い服を着た女の子。それと盗賊風の男の三人。他にも倒れている奴がいるがあれは無視してもいいだろう」
おそらくあれらはすでにフィリアによって倒された敵の数々だろう。状況からみてフィリア以外の二人の手によってフィリアをこんな目に遭わせているのだと紫音は予想する。
「その内、女の子の方は……どうやら何かに集中していて身動きが取れないみたいだな。俺が相手にすべきなのはあの男だけだ」
これも紫音の予想だが、おそらく黒い服の女の子は赤い鎖や結界みたいなものを操作している術者という奴なのだろう。あの
あれがフィリアを苦しめている原因ならすぐに女の子の方から倒すべきだが、邪魔をされる恐れがあるためまずは男の方から倒すべきだと判断する。
紫音はその旨を2人に伝えると、納得はしてくれたがそれでも紫音1人を行かせるのは反対の様子で。
「でもやっぱり心配です。相手の力も分からないのに……それでも行くなんて……」
リースは紫音の身を案じている様子で心配そうな表情を向けている。そんなリースの頭にぽんと手をのせ優しく撫でながら、
「心配するな。もしやばくなったらすぐに逃げるし……それに保険もかけておくから大丈夫だよ」
リースの不安を払拭するような言葉を投げかける。
「……保険?」
「ああ。ライム、出てこい」
そう呼ぶと、紫音の服がもぞもぞと動き、中から紫音が契約したスライムが出てきた。
ライムを手にとった紫音は、向かい合いながら、
「いいか、ライム。お前にやってもらいたいことがある。それはな――」
ライムだけに聞こえるように小さな声でこれからのことについて指示を伝えた。もともと言葉を話せないライムはその代わりに紫音の言葉のところどころで体を動かして相槌を打つかのように話を聞いている。
「――ということだが、やってくれるか?」
紫音の言葉に体全体を上から下へと頷くような動きをしている。これを了承したと読み取った紫音は同じように首を縦に振る。
「それじゃあ行ってこいライム」
そう言われ、ライムは体をぴょんぴょんと飛び跳ねるように移動しながら茂みの向こうへと消えていった。
ライムを見送った紫音は二人の方に目をやり、
「俺たちも行くぞ。さっき言ったように俺が敵の相手をするからお前らはその隙に仲間の救出に向かってくれ」
と紫音は二人に指示を送る。
リースとレインは紫音の指示にこくりと頷き、2人もまた自分の役割を果たすために動き出した。
リースとレインも見送った紫音は、ひとまず挨拶代わりに一発かましてやろうと意気込む。そのためにも紫音は、自分に身体強化の魔法をかけ、基礎身体能力を上げる。
(……あっ。そういえば剣持ってくるの忘れた。急いできたせいで忘れてしまったが……まあいいか)
今さらながらフィリアに貰った剣を持ってきていないことにこの状況で気付く。
紫音の唯一の武器だったが、忘れてしまったものはしょうがない。紫音はすぐさま頭を切り替える。
そして軽い準備運動を行い、準備万端の状態にしたところで勢いよく走りだす。男まで一歩一歩と距離を詰め、一定距離まで来たところで大地を蹴り上げ、跳躍する。
その状態で足の裏を男の方へと向け、
「ウチの王様になにしてんだよ!!」
紫音の助走を付けた飛び蹴りが男の顔面へと叩き込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます