第8話 異世界証明と世界について
天羽紫音は異世界から来た人間である。
そのような
「ぷっ…あはははは…」
と、馬鹿らしいとでも言わんばかりに腹を抱えて笑っていた。
フィリアの反応を間近で見た紫音はムスッと、苛立ちを覚える。
「な、なんだよ! 笑うほどでもないだろ」
「ご、ごめんなさい……だってあなたが自分は異世界から来たって……そんな馬鹿な話、言うもんだから思わず……」
ところどころ、笑いをこらえながら弁解した。
「言っておくけどウソじゃないからな。俺は本当に異世界から来たみたいなんだよ」
「そこまで言うんだったら証拠はもちろんあるのよね?」
「……え?」
フィリアの質問に対してすぐに答えることはできなかった。
元々、自殺するのが目的だったため所持品など持ってきてなかった。どうせ何もかも終わるのだから財布も携帯も持たずに飛び降りたためそれらがあれば、もしかしたらフィリアを信じさせる材料になっていただろう。
制服を見せれば、と紫音は一瞬思ったがすぐに断念した。
今の紫音の服装は学校指定の制服であり、ブレザーにズボン、中にワイシャツを着ており、ネクタイを締めている格好。この姿はおそらくこの世界では珍しいと思われるが、いまいち信憑性に欠ける。
紫音は他になにかないかと慌てて服の中を調べる。
すると…、
「……あっ。これならどうだ?」
と、フィリアの眼前に突きつけたものはブレザーの内ポケットに奇跡的に入っていた生徒手帳である。
「……なにこれ? 手帳……かしら…?」
怪訝な表情を浮かべながら紫音から生徒手帳を受け取る。
「この程度の代物で私が信じるわけ無いでしょ」
「とにかく、大事なのは中身だからよく見てくれよ。……たぶん、お前が見ても分からない文字ばかりだと思うけど……」
「あら、バカにしないでちょうだい。これでも私、この世界の言語について一通り勉強したからこの私にわからない単語なんて……」
そこまで言いかけたところで、手帳を読み進めていた手が突然止まった。
「……な、なによこれ、全然読めないじゃない! どこの国の文字よ! この私は一つも理解できないなんて……これ本当に文字なんでしょうね? あなたがデタラメに書いた落書きって言われたほうがまだ信じられるわ」
頑なに手帳の存在を認めないフィリアは難癖をつけ始めてきた。
「これは、俺が暮らしていた国で使っている文字だよ。ほらここの文字なんかは天・羽・紫・音って俺の名前なんだがやっぱり読めないか?」
紫音は手帳に記されてあった自分の名前を一文字一文字指でなぞりながらフィリアに聞かせるように発音していく。
「……そ、そうね。全然読めないけどあなたが教えてくれた『天羽紫音』って名前だけはとりあえず覚えておくわ。…………ところであなたって本当に人間?」
なんの脈絡もなく、突然当たり前のことを訊いてくる。
「当然人間だけど……どうしたんだ急に……?」
「ただの人間があれほどの強さなんか持っているわけないんだけどね……。私の力を凌駕するなんて生身の人間には不可能だし、認めざるをえないわね」
紫音の答えを聞いた途端、フィリアはため息を吐きながらうなだれていた。どうやら紫音の馬鹿げた力を体験して異世界から来たということを認めたようだ。
それならと、紫音はかねてより疑問に思っていたことをフィリアに投げかける。
「今度はこっちの質問に答えてもらうけど、この世界のことについて詳しく教えてくれ」
「…ええ、いいわ。そうね、まずは……」
少しの間、答えの内容について考えを巡らせたのち、そっと口を開いた。
「この世界では、多種多様な種族が暮らしているわ。人間はもちろんのこと、私のような竜人族にエルフ、獣人族、魔族などの種族が世界各地にいるわ」
「……っ!?」
人間以外の種族が普通に暮らしている世界、今の話を聞いた紫音は改めて異世界なのだと痛感した。
「多種多様な種族がいるようだが、種族間での争いとかはあるのか?」
「そうね……争いというなら人間どもとの争いならいつもあるわ」
「人間……と? お前みたいなドラゴンなんかに変身できるヤツと人間が戦うのかよ。……絶対勝てないだろう」
ドラゴンと人間では圧倒的にドラゴンのほうが有利であり、大人数でもなければ対抗できないはずだ。
「そりゃあそうね。人間側もわざわざ私達を襲ってくるような馬鹿な真似はしないだろうし、そもそも竜人族は外界との交流を閉ざした種族なのよ」
「あれ…? でもお前は……」
「えぇ、私の場合はちょっと事情があってね……」
紫音の問いかけに少し言葉が詰まったかのように言い淀んだ。
「まぁ、私のことはいいのよ。それより話を戻すけど、人間との争いについてだけど昔からこの世界では人間による異種族狩りが盛んに行われているのよ」
「異種族狩り……?」
聞き慣れない言葉に紫音は小首を傾げる。
この世界はどうやら平和な世界ではないようだと、ここまでの話を聞いた紫音は胸中で悲観した。
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