第109話 ゴーレムの進撃
エーデルバルム側の魔導士たちによって召喚されたゴーレムたちは、大きな地響きを鳴らしながらエルヴバルムを侵攻していく。
あまりにも規格外の巨体から繰り出される攻撃にエルフたちは反撃する手立てが見つからずにいた。
「退けー!」
「退却だー!」
降りかかるゴーレムの攻撃を躱そうと、エルフたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。
「今こそ好機! 魔導部隊よ、このままゴーレムを進軍せよ!」
魔導部隊の魔導士たちはランドルフの命令を受け、ゴーレムたちを前へと進ませる。
一歩一歩、大地を揺らしながら歩くその姿はまるで巨人のように見える。
「い、いったい、なにが起きているんだ……?」
突然のゴーレムの出現にまだ状況を把握できていないソルドレッド。
退くべきか、迎え撃つべきか、あのゴーレムに対抗するための判断に迷いが生じてしまい、立ち尽くしていた。
「く、くそっ! ……っ!?」
どう動くべきか、ソルドレッドが悩んでいたとき、またもやゴーレムの拳が退却しているエルフたちに襲い掛かろうとしていた。
「に、逃げろー!」
「『スピリット・プロテクション』!」
「っ!」
ゴーレムの攻撃に迎え撃つように数人のエルフが前に出て防御系の精霊魔法を唱えた。
そして、何枚にも現れた精霊の盾とゴーレムの拳が衝突した。
大きな衝撃音を鳴らしながらもあの巨体から繰り出された拳に見事耐えきって見せた。
「オォッ!」
さらに、振り下ろしたゴーレムの拳になんとひびが入っていた。そのひびは腕から肩に掛けて広がっていき、しまいには片腕がボロボロと音を立てて崩れ落ちていく。
「見たか! これこそ精霊魔法の力だ!」
精霊魔法を唱えたエルフの一人がエーデルバルムに向かって得意げに叫んでいた。
「これならもしや……」
ゴーレムに対して精霊魔法は通用する。
その現場をはっきりとその目に焼き付けていたソルドレッドは、そう確信していた。
通常の魔法で対抗する手もあるが、あれだけ大きなゴーレムを相手にするならばそれだけ強力な魔法を使用しなければならない。
しかしそうなると、詠唱に時間を取られてしまい、攻撃の機会を相手に与えてしまう。
その点、精霊魔法なら詠唱の時間がほとんど必要としないため今は精霊魔法だけが頼りとなっている。
(この際、無駄撃ちなどと言っている場合ではない。あのゴーレムどもを倒さなくてはこちらの被害が増す一方だ。やるしかない)
ゴーレムを前になりふり構っていられないと判断したソルドレッドは、エルフたちに精霊魔法での撃退を命じようとした……そのとき、
「……修復開始」
崩れ落ち、片腕を失くしていたゴーレムに新たな腕が形成されていた。
そして、数十秒ほどで前と変わらない新しい腕が再生してしまった。
「……くっ!」
あれでは、たとえ精霊魔法で対抗したとしてもまたすぐに再生してしまう。
対抗手段を失ったソルドレッドは、悔しそうに拳を握りしめていた。
「陛下! ここは一時撤退を」
「そうです。このままでは無駄死にするだけです」
ソルドレッドを護衛していたエルフたちは撤退を口にするが、ソルドレッドはまだ諦めた様子ではなかった。
「まだだ! あのゴーレムを操っている術者が向こうにいるはずだ。場所さえ掴めればゴーレムなど制御できないはずだ」
「し、しかし……この状況で敵本陣に忍び込むなど厳しいかと思われます」
「……っ!?」
このままでは打つ手がなくなってしまう。
どうするべきか、再度思考を巡らせていると、
「失礼します。陛下、ただいま帰還いたしましたッス」
危機的状況の中、突然ソルドレッドの前にシーアが現れた。
「……ん? き、君は確か……アイザックのところの……」
「ハイ。自分はアイザック殿が体調を務めている遠征部隊の一員のシーアと申します。前は諜報部隊に所属していましたッス。」
ソルドレッドを前に片膝をつきながら自分の名前と所属を口にしたシーアは続けてソルドレッドに報告した。
「陛下より帰還命令が出されたため急ぎ帰還いたしましたッス」
「そうだったな……。君らにも今回の戦いに参戦してほしくて呼び出したんだ。……ところで、アイザックは今どこに?」
「隊長でしたらあのゴーレムに対抗するべくフリードリヒ王子たちと合流するとのことで代わりに自分が報告しに参りましたッス」
「……そうか。しかし、どうやってあのゴーレムどもと相手をするつもりだ? あの巨体ではそう簡単に破壊することも難しいうえ、再生もするのだぞ」
「それでしたらご安心するッス。あのゴーレムを操作している術者たちの居場所を掴んできたッスから」
「な、なんだと!?」
シーアの言葉にソルドレッドは驚きの声を上げた。
「ハイ。ここに来る途中、敵本陣に忍び込んで偵察していたときに見つけました」
「て、敵本陣に……だと……」
「大丈夫ッスよ。これでも元諜報部隊所属ですから、これくらいのこと難しくないっスから」
「そ、そうか……。それで向こうの様子はどうだった?」
「全勢力が向こう側に集結していました。ただ、あのゴーレムたちに攻撃を任せているようでエーデルバルムは戦闘には参加していませんでした」
「くそっ! 奴らめ……完全に舐めくさりおって……」
ゴーレムの出現により、エルヴバルムに余裕を見せているエーデルバルムにソルドレッドは苛立ちを見せていた。
「そ、それで……術者の居場所についてですが……」
「そ、そうだったな……。数はどれほどだったか?」
「ハイ。数は40人ほどいました。おそらく4人で一体のゴーレムを操っているのだと思われます」
「……なるほど。それなら一人でも欠けてしまえばゴーレムも制御できなくなるはず……」
「ハイ、その通りです。ですが……術者の周りには多くの騎士団や冒険者の存在を確認したッス。あれほどの包囲網はそう簡単に崩せそうにありませんでした……」
「やはりうまい具合にはいかないか……」
「ぐわああああっ!」
「っ!?」
シーアからの報告を聞いていると、近くからエルフの叫び声が聞こえてきた。
叫び声の方向へ顔を向けると、そこにはゴーレムの姿が。
しかも、ゴーレムの攻撃が届くほどまで進軍を許してしまっていた。
「なっ!? い、いつの間に……」
「っ!? 陛下、お逃げください!」
「くっ! こうなれば、止むを得ん……」
退却を決意するソルドレッドたちだが、ゴーレムは天高く拳を振りかざし、無情にもソルドレッドたち目掛けてその拳を振り下ろした。
「っ!?」
「ひいいいぃっ!」
岩石のように硬く重い一撃が直撃されようとしていた。
ソルドレッドは、迎撃するため精霊魔法を唱えようとしたそのとき、
「ハアアアアアアッ!」
「――っ!?」
突如、森の中から飛び出してきたそれは、ゴーレムの腕を一振りの剣でぶった切り、颯爽とソルドレッドの前に現れた。
「フ、フリード……」
「父上、遅くなって申し訳ありません」
ソルドレッドの前に現れたのは彼の息子であるフリードリヒだった。
「お前……いったいなにをした……?」
「ああ、これですか。先ほどクリスに付与系の精霊魔法を剣にかけてもらったので、それであのゴーレムの腕を切り落として見せました」
「クリスもこの場に来ているのか?」
「ええ、もうじき合流できるはずです。……それよりも父上。ここは危険ですからすぐに後退してください」
「ば、馬鹿を言うな! 敵に背を見せて逃げろというのか!」
その言葉にフリードリヒは静かに首を横に振りながら答える。
「いいえ。今から敵の術者を倒しに行きます。ゴーレムが消滅したときすぐさま戦闘態勢に入れるよう父上には皆に指揮を執ってほしいのです。父上の言葉であれば、私たちはまだまだ戦えます」
「敵の術者には多くの護衛がいるそうだが……勝算はあるのか?」
「ええ、もちろんです」
ソルドレッドの問いかけにフリードリヒはニッと笑って見せながら剣を構える。
フリードリヒの登場を機にここからエルヴバルムの反撃が始まろうとしていた。
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