第67話 隠してきた能力

 あの後、森の中で話をするわけも行かないので紫音たちは一度家に戻り、メルティナの部屋にて話を聞くことにした。


 部屋には紫音とフィリア、そしてリースと興味本位で付いてきたディアナの面々がメルティナの話を聞こうとしていた。

 ちなみに先ほどまでいたローゼリッテは、紫音に警備をサボっていたことがバレてしまい、あえなく警備の仕事に戻る羽目になってしまった。


「ティナ、話したいことっていうのはいったいなんなんだ?」


 誰も口を開かず沈黙が漂う中、その静まり返った雰囲気を壊すかのように紫音から切り出してきた。

 そして覚悟を決めたメルティナは勇気を振り絞り、口を開く。


「は、はい……。話というのは私がみなさんに隠してきたある能力ちからについてです」


「……能力?」


「はい。私はこの能力のせいで幼い頃に異種族狩りと呼ばれる人間に誘拐されたことがあります」


 ふとメルティナの見ると、体が震えておりひどく怯えている様子だった。どうやらその時のことを思い出してしまっているようだ。

 この様子からどれほどつらい思いをしたのか、誰の目からも見てとれる。


「幸い奴隷商などに売られる前にお父様たちが助けられたのですが、それまでに異種族狩りの人たちに暴行など加えられてきました。もともと、人見知りだった私でしたが、その時のことが原因で人見知りに拍車がかかって人と接するのが極端に怖がってしまうようになったのです」


「それでそんなメンドくさい性格になったのね」


「オイ、フィリア。 言い方」


 紫音はあまりにも失礼な言いぶりをするフィリアに対して呆れた声で注意をした。


「はあ……それで、本題に入るけどティナの能力ってのはいったいなんなんだ?」


 メルティナの前置きが終わり、いよいよ本題へと移ろうとしていた。

 紫音の言葉を受けたメルティナは、目が隠れるほどの前髪を手でかきあげ、紫音たちから綺麗な目が見えるようにしながら言った。


「はい。……実は私には生物の魔力をる能力があるのです」


 メルティナの意を決して発した告白だったが、紫音たちの反応は思いのほか薄かった。


「あ、あれ……? あの……なんでみなさんそんなに平然としているのですか?」


「いや……なんというか。その能力ってそんなにすごいもんなのか? そういう専用の魔水晶もあるし、確かディアナもそんなことできたよな?」


「ん、そうじゃな。範囲は狭いが儂ならやろうと思えばできるぞ。まあ。誰でもできるというわけじゃないがな……」


「そうね。攻撃に役立ちそうな能力でもないし、利用価値なんて本当にあるのかしら?」


「み、みなさん、言いすぎですよ……。ティナさんも泣いちゃいそうになっていますよ」


 リースの言う通り、丸見えになっているメルティナの目に涙が溜まっており今にも溢れそうになっていた。


 さすがに気の毒だと思った紫音はコホンと咳払いを1つしたのち話を戻すことにした。


「そ、それで……その能力というのは具体的にどういう風に視えるんだ?」


「……えっ? あ、はい。あのですね……私の目には魔力がオーラのような形になって視ることができます」


「オーラか? ということは俺たちの周りにはそのオーラっていうのが形となっているのか?」


「はい、その通りです。そのオーラも人それぞれで魔力量によって形や大きさも違う風に視えます。魔力が大きい人はオーラが大きく濃い色を発しており、小さい人はその逆になります。まったく同じオーラはないためオーラを視るだけでそれが誰なのかもわかります」


(……話を聞く限り、やっぱりそれほどすごいものではないな。誘拐した奴らはいったいどこに利用価値を見出していたんだ?)


 メルティナの説明を聞いてもやはり価値のある能力とは思えず謎が深まるばかりだった。そこで紫音は、一度視点を変えてその能力について訊くことにした。


「なあティナ? その能力はほかにどんなことができるんだ?」


「ほ、ほかですか……? そうですね……先ほどディアナさんは狭い範囲でならできると言っていましたが私の場合はその範囲がとても広いのです」


「……具体的にどれくらいなんだ?」


「正確に測ったことはないのですが、少なくとも私の視界に映るものすべてです。それとこの能力は木や壁といった障害物を無視してオーラを視ることができます」


(ん? 障害物を無視して……)


 そこで紫音は、なんとも言えない引っ掛かりを覚える。


「ねえ、一つ質問なんだけど私オーラって言われてもピンと来ないのよね……。いったいどういう風に視えているのかしら?」


「イメージとしては炎を思い浮かべたほうが分かりやすいと思います。遠くのオーラを見た際は炎の揺らぎによく似ていますので……」


「ふうん、炎ね……。そういえば最初の頃、あなたなんにも知らなかったのに国民の数を知っているような口振りだったけどその目で視ていたからだったのね」


「は、はい、そうです。窓から見た限りフィリアさんが言っていた数より少なかったのでもしかしたらと思い口走ってしまいました」


 そんなフィリアとメルティナの会話を聞きながら紫音はいろいろと他にも思い当たる節があった。


 ディアナやフィリアを最初に見たときメルティナはなぜか怯えた表情をしていた。いかにも魔女風の格好のディアナならともかくフィリアに至ってはただの少女にしか見えない見た目。怯える要素などなかったはずだ。

 おそらくメルティナの目には計り知れないオーラが視界に映っており、それが原因で怯えていたのだろう。


 そのほかにも紫音たちがティナの部屋を訪れると、まるで待っていたかのような様子でティナが待ち構えていたことも多々あった。


 あれらもすべてメルティナの目の能力によって視えていたことだと知った紫音はなんだか胸のモヤモヤが晴れたような気持ちになっていた。


「なるほどの……。それでそいつらはお前さんを誘拐したのだな」


「え? どういうことなんだディアナ?」


 一人で納得したような発言をするディアナ紫音はたまらず答えを聞き出そうとする。


「メルティナのこれまでの話をまとめると、かなり利用価値があるということじゃよ。魔力量が視えるというのもあるが、一番はやはりその目を使うことで敵の数や配置が丸裸にすることができる。……つまり、偵察の場面において最も役に立つ能力なんじゃよ」


「ああ、そういうことか」


「たしかにそれはすごいですね……」


「え!? なんでみんな分かったのよ。……か、隠してないで教えなさい」


 ディアナの答えのおかげで紫音が先ほどまでの胸の引っ掛かりがなんだったのかようやく知ることができた。

 しかし、フィリアだけは理解できていない様子で悔しそうな顔をしながら答えを求めていた。


「隠すも何もさっきディアナが言った通りだよ。数や配置なんかは敵を知るためには十分な情報になり得るし、それに障害物なんかを通り越して視れるってことはティナの前にはどこに隠れようと無駄だってことなんだよ」


「なるほどね。それを知ったうえでその異種族狩りの連中はあなたを攫ったってわけなのね」


「そういうことなのです。私の能力は情報という面において高い利用価値があります。だから私はまた同じ目に遭わないようにこの能力について今まで黙っていました。……ですが、みなさんと接していくうちに悪い人たちではないと知り、思い切って話してみました」


「そうか。ありがとな、秘密にしていたことを話してくれて」


 紫音は自分たちを信用するようになってくれたことに嬉しく思い自然と笑みがこぼれる。


(しかし、ティナの反応を見る限り私的な目的で使わせないほうがいいみたいだな……)


 メルティナの能力について知り、いろいろな場面で活躍できそうだと考えていた紫音だったが、過去の出来事から能力を使わせるのは自粛したほうがいいなと胸中でそう誓った。


「別に今の話を聞いたからってお前の能力を使ったりしないから安心しろ。それよりも今日はひどい目に遭ったからもう休め」


「え? あ、あの……」


 何か言いたげなメルティナを横目に紫音は部屋から立ち去ろうとする。


「し、シオンさん。……最後にお願いがあります」


「ん? どうした?」


「わ、私と……け、契約を結ばせてください」


「契約って主従契約のことか? 確かお前、嫌がっていただろ」


 一度、提案した際にメルティナは奴隷時代のことを思い出してしまうということで契約を結ぶことを拒んでいた。


「そ、そうですが……今回のことは私が契約さえ結んでいればみなさんが必死になって私を探す必要もなかったのです。だから……」


 メルティナなりに今日のことについて責任を感じているようだった。要望通り契約してもいいのだが、震えているティナを見て紫音はあまり乗り気ではなかった。


 しかし、このままではメルティナも引き下がらない。

 そこで紫音は代案を提案することにした。


「分かったティナ。それじゃあ仮契約でいいからしようか」


「か、かりけいやく……ですか?」


「ああ。まあ簡単に言えば期間限定の契約のことだよ。仮契約は契約期間ぐらいしか違いはないし、それに期間と言っても数か月程度だ。それに解約はティナのほうでいつでもできるから安心してくれ。それならどうかな?」


 ティナに問いかけるように言いながら紫音はそっと手を伸ばした。


「……はい、よろしくお願いします」


 紫音の問いかけに応えるようにメルティナも了承をしながらそっと紫音の手に触れた。


 この時をもって二人は晴れて契約者同士となった。それと同時に信頼関係も前よりも深まってきたと、そう二人は感じていた。

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