第2話
気付いたら俺は仰向けに寝そべって更衣室にいた。それもサッカーのだ。ベンチが壁際にあってボールやユニフォームっぽいものが転がっている。
最初に思ったのは「ゲームの世界に入り込んだ!?」という事だった。さっきまでウ○イレやってて、モニターに空いた穴に吸い込まれたのだから。だが冷静に考えたらウイ○レは第三者視点だし、今は目を左右に動かせば世界も動いている。この視点ならリベ○グランデの方だ。
と言うかリベロ○ランデでもないな。動かした視線の先に、耳の長い綺麗な顔立ちの女の子達がいっぱいいるし。
「キャー!」
という悲鳴を上げて一斉に女の子達が騒ぎ、逃げまどう。一つ、あーこの子たちはエルフとかいうやつですね。ゲームに出てくる種族の。二つ、このエルフさんたちはサッカーをやっているのかもしれない。ユニフォーム着てスパイク履いているし。三つ、……俺はひょっとして着替え中の女子更衣室に乱入した痴漢として射殺されるのでは!?
「エルエルエル! エル……エル?」
騒乱の中、勇気のあるエルフさんの何名かがモップらしき長柄の棒やボールを手に俺を囲んで戸田和幸った。否、たぶん問い質したんだと思う。いやいや分かり難いボケをかましている場合ではない。俺を倒す為に呪文を唱えた可能性だってあるよな!?
「すみません、不可抗力なんです。モニターの穴に吸い込まれて気付いたらここで。いま見たものは全て忘れますので命だけはご勘弁を……!」
俺は目を瞑ってそう叫ぶ。男子寮をあげての大ドッキリでないとしたら、ここはたぶんゲームの世界か異次元とかで、場合によってが女子の下着姿を見た罰で俺の命なんか芥子粒のように扱われる世界観かもしれないからだ。
「エルエル? エル!」
んーなにを言っているかさっぱり分からん。そして目を閉じているから状況も見えない。なんでよりによって女子更衣室みたいな所へ来たんだ?
「あのー。その姿からして貴官はもしかして地球の……サッカードウ関係者ではありませんか?」
急に、意味が分かる言葉が聞こえた。俺はそっと薄目を開けながら返事をする。
「え! 言葉分かるんですか!? はい、そうです! 地球の日本からきました! えっと……目を開けて良いですか?」
「はい? ああ、どうぞ。立ち上がって下さいであります」
その言葉と同時に誰かが俺の手を引き、ぐっと立ち上がらせた。目を開けた先には綺麗なエルフの女の子の中でも際だった顔だちの、黒髪美少女が俺の手を握って見つめていた。彼女はユニフォームではなくジャージ姿だ。
「あ、すみません。ここって……どこなんですか? 貴女は?」
「ここはリーブズスタジアムで、自分はサッカードウエルフ代表のコーチをしています、ナリンであります」
そっと手を離して訪ねる俺に、そのエルフさん……ナリンさんは直立不動で答える。いや、場所と言うか世界を知りたかったんだけどな……。
「ごっご丁寧にどうも。俺はコールセンターでSVしてます、将吉と言います」
名字は無い世界かも知れない。取り敢えず相手に合わせて挨拶をしてみた。
「コールセンターSVのショーキチ殿ですね。そのコールセンターSVとはハンブルガーSVのようなものでありますか?」
いや最近まで二部落ちしたことなかった名門じゃなくてさ。(酒井高徳くんは悪くないと思う)ただのパソコン操作ご案内電話センターですよ……てかなんでそんなチーム名まで知ってる!?
「良かった、お願いします! 我がチームは……絶対絶命なのです! 貴官の力を貸していただけませんか? 地球のサッカードウで、私たちを救って下さい!!」
何とか離した手を再び握られてしまった。そしてずいっと顔を近寄せられる。美人が迫ると迫力あるな。
『ナリン、姫が交代急いでって!』
『そうだったわ! ヨン、ユイノの代わりに入って。ポジションは姫と相談して!』
何を言われたか分からないが、ジャージの彼女に呼びかけられた選手らしきエルフの女の子――かなりの長身で俺より大きい――が慌ただしくユニフォームの裾をズボンに入れながら部屋を出て行く。あーこれドキュメンタリーとかで観たような風景だわ。
「待って待って。状況が良く飲み込めないけど、君たちもサッカーをやってらっしゃる?」
「はい! 自分たちは貴官の世界から持ち込まれたサッカードウを長くやっています。しかし今……エルフ代表は二部降格のピンチなのであります!」
何やらちょっとマニアックな世界へ飛ばされたみたいだぞ?
「えっと、持ち込まれた?」
「はい。今から50年以上前、貴官と同じ世界から来たクラマ殿が我々にサッカードウを教えて下さいました。幸い、自分はクラマ殿の晩年に少々師事を受けることができまして、言葉もその時に」
なるほど。以前に、俺と同じ……たぶん同じ世界から来た人がいたのか。ところどころ引っかかる情報があるが。
「1チーム11人でボールを追っかけてGK以外手を使っちゃ駄目な、あのサッカーだよね?」
「はい。『サッカードウとは単純なスポーツだ。22人の女達が90分間一つのボールを追いかける。そして最後にオオアライジョシが勝つ』てやつです」
待ってリネカーそんなこと言わない。俺、リネカーのガチファンじゃないけど飛影も蔵馬もリネカーも絶対にそんなこと言わない。
「でも今回は自分たちが勝たないと……ああ! 来て下さい!」
彼女か説明を始めた直後に、スタジアムに歓声と悲鳴がこだました。……のだと思う。俺たちは更衣室に届いた残滓を聞いただけだが。
『どうなったの!?』
『やられました! あとDF同士が交錯して痛んだかもしれません!』
スタッフらしきエルフさんと言葉を交わしながらどこかへ進むナリンさんのとやらの後を追う。途中の部屋で頭部から血を流す長身の女性が目に入る。負傷交代した選手か?
「ああっ……1点ビハインドであります……」
トンネルを抜けた先でナリンさんが立ちすくんでいた。そしてその先にあったのは紛うことなき『スタジアム』であった。
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