第463話

 何とか落ち着いたポリンさんとレイさんを加え、午後練習は開始された。俺は今度は守備側選手に混じり、午前と同じく手を使ってチートにプレイする。

「ふーん、やらしい動きするやん。知ってたけど」

 ポリンさんからレイさんへ飛んだ鋭いパスを俺が掌で弾くのを見て、ファンタジスタは訳知り顔で呟く。

「何を知ってるって言うんですか!? いやいかん、へいじょうしん平常心……」

 恐らくこれはレイさんの仕掛けたマインドゲーム、心理戦だ。俺が思わずツッコミを入れて余所見した隙に逆の位置でパスを受ける気だろう。

「あ、だめ。えっと、ダリオさん!」

 振り返りポリンさんを見ると、本当に今にもパスを出しそうな構えだった。しかし変幻自在なキックを誇るデイエルフは俺が気づいた事に気づき、キックフォームを少し変えてレイさんからダリオさんにターゲットを変えた。

「ちっ、やっぱりじゃん! 油断も隙もない学生ズめ……」

 俺はパスを受けたダリオさんがティアさんの激しいチャージにボールを奪われるのを見ながら呟く。明後日のハーピィ戦はこの学生コンビがどちらも先発予定だ。

 何もクラスメイトを招待するからスタメンにする、という訳ではない。午前の練習である程度守備のめどがついたので、魅力的な攻撃陣を試してみたくなったのだ。

 つまりリーシャさん、ダリオさん、レイさん、ポリンさんの4名がFWと左右の攻撃的MFのポジションを自由に入れ替えながら攻める、テクニカルでファンタスティックな布陣だ。

 この中に純粋なFWはいない。リーシャさんはWGからFWへ改造中のスピードタイプ、ダリオさんは万能MFでゲームメイカー。レイさんはアイデアとテクニックに溢れるファンタジスタで、ポリンさんは魔法の右足を誇るパッサーだ。

 強いて言えば最も大人なダリオさんは身体が強く、屈強な相手チームのCBを背中で抑えながらパスを受けたり、ヘディングで競り合ったりできるだろう。ただそれも数試合だ。例えば1シーズン通してその役割を任せたりしたら、たぶん彼女の身体はボロボロになる――そして俺は全国民から恨まれる――だろう。

 だから俺はそんな役割をダリオさんに、そしてもちろん他の3名にもやらせるつもりはない。彼女らには相手DFと身体をぶつけあってボールをキープするのではなく、相手DFから逃げるように動いてボールを受け、ワンタッチでパスを返し、再び動き直してボールを受け……という攻撃で相手を翻弄して貰いたいのだ。

「ダリオさん、まだ未練がありますよ! もっと簡単に、猛犬が来る前にボールを離してポジションチェンジして!」

 俺はダリオさんに向かって声を飛ばした。姫様はティアさんに吹き飛ばされたあと、まだ尻餅をついたままでなんとも艶めかしい。が、心を鬼にしなければ。

「そうだ、私は猛犬だぞ! 獰猛で肉食系なのは私の長所! がるるる……」

「ショウキチさん、助け起こしには来てくれませんのね。残念。そして貴女は何を言われましたの?」

 隣で牙を剥くティアさんに何か言いながらダリオさんはぴょん、と立ち上がった。大丈夫、今の接触で怪我はしてないしいろいろと健在な様だ。

「アレが恵体ってやつなんやな……」

「へっ? えたい? ああ、ダリオさんがチームからの信頼を得たい、てこと? 今でも十分だと思うけど」

 また背後からレイさんが話しかけてきたが、今回は練習も完全に止まっているので俺は相手をすることにした。

「ちゃうねん。ウチが言うてんのは育乳の成果がよく出てる身体やってことやねん!」

「はあ?」

「何の話? それよりもあんた、もっと前に早くパスを出しなさいよ」

 レイさんが再び謎な話をする間にリーシャさんもやってきて、独特の感性をもつナイトエルフに注文をつける。

「えーでもリーシャさん狙いばればれやもん。ショーキチにいさんにだって抑えられるわ」

「バレバレでも良いのよ先に触れば私の勝ちだし! もしかしてあんた、友達が来るから目立とうとしてパス出さないつもりじゃないでしょうね?」

 ナイトエルフの不良娘が放つ反論に、デイエルフの火の玉娘が噛みつく。

「はあ!? そんなんせんでも目立つし!」

「目立てば良いってもんじゃないのよ! チームが勝ってこそ……」

「はいはい、ストップ!」

 俺は両者がヒートアップする前にさっと割り込んだ。実は彼女ら、ここまであまり絡みがない。と言うかプレイはともかく、性格的には合わないんじゃないかな? とは恐れていた娘たちだ。

「リーシャさんが前で欲しがるのはスピードで抜く自信があるし、そこにいかなくてパスが引っかかっても相手DFの足を消耗させればどんどん皆がやり易くなるからで!」

 俺はそう言ってまずリーシャさんの顔を指さし、

「レイさんが派手なプレイをするのは、そうやって相手の目が自分に集まれば集まるほど他の選手がフリーになり易いからで!」

ついでレイさんの顔を指さした。

「どちらもセルフィッシュに見えてチームを勝たせたい気持ちはアローズで最も強い! そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」

 言ってから、しまった! と思った。

「えっ!? その、うん、まあそうだけど……あんたよく見てるわね」

「そんな、バラさんといてや! ショーキチにいさんがウチのことばっかよく気にかけてくれてるのは知ってるけど……。嬉しいけど……」

 今の流れはネットミームだと

「違うのだ!!」

と否定されてしてしまう流れの筈だった。だがニンジャでもブロッケンでもない彼女らは微妙な表情で恥じらい、何ともいえない空気が流れた。

「つまり、私たちがもっと頑張らなきゃ! ってことだよね? ショーキチおに……監督!」

 リーシャさんとレイさん、どちらとも親しく心優しいポリンさんが、ここぞとばかりに助け船をだした。

「はい、そういう訳で! じゃあ練習再開しましょう!」

 チーム最年少にここまで気を使わせてしまうとは心苦しいが、確かにそれで空気が変わった。俺もこの流れにのって大声を出し、トレーニングを再開することにした……。

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