第36話
会場的にはダブルヘッダー、本日の第二試合はリーグカップ準決勝のもう片方「ドワーフvsフェリダエ」だった。
この試合はエルフにとっての
ずばり「この世界のドワーフ女子はどんなパターンかvsこの世界の猫娘はどんなパターンか」マッチだ。
まずはドワーフ。一般的にゲームで見るドワーフは背は低いががっしりしていて、鉱山に住み鍛冶が得意で、というヤツ。しかしそれの女子となると?
俺の知る限り、大きく分けて2パターン。一つは「男性ドワーフのそのまま女性」ケース。その場合は男性と同じく同じく中肉小背。女性だけにやや筋肉は劣るが、やはり逞しい感じで場合によっては髭もある、みたいな。
もう一つは幼女。小柄なのは一緒だが、合法ロリと言うか大人なのに少女のような体型。で男性と並ぶと「これ夫婦って大丈夫なのか?」みたいなビジュアルになるやつ。
はたしてどちらか? はたまた別のパターンか? と、言う問題はフェリダエにも言える。
フェリダエは2足歩行の猫人的種族で強くしなやかな筋力と反射神経、柔軟な関節に絹のようなボールタッチ……とまさにサッカードウをする為に産まれてきたような特性で、リーグ最強の名を思うがままにしている。
そんな彼女たちの「顔」はどうなのか? 猫人族の「猫」そのままに顔面も毛で覆われ闇夜に目が光り髭まで生えているのか、はたまた顔の造りは人間に近く耳だけ獣のモノが髪の毛の隙間からひょこっと飛び出ているだけなのか? いやいや某ミュージカル映画化みたいに悪い所を凝縮したような可能性もある!
と大げさに語ったものの正直、見当はついていた。クラマさん――この世界にサッカーを伝えたあのちょっと趣味に走り過ぎなガルパ○オジサン――の性癖を考えれば自ずと分かる。
俺は内心の興奮をナリンさんに見つからないよう、隠しながら両チームのウォーミングアップを待った。
第一試合と第二試合の間には選手スタッフの入れ替えや会場の再セッティングが必要であり、彼女らがフィールドに現れたのはミノタウロスvsトロールが終わった30分後。入場と同時に大きな歓声が上がった。
「やだーかーわーいーい!」
と俺の心の中の
「えいえいおー!」
と練習開始時から円陣を組んでフィールドに散らばる幼女たち。いやしかしその統制された動きや足腰の座った様子からは確かに土の種族を感じる、ドワーフ女子代表チーム。
「にゃーん」
と現代地球では苦境にあるオッサンが主に使う言葉になってしまった鳴き声を実際にあげるモデルのような体型と美貌の軍団、無秩序にボールと戯れつつもコントロールは失わない、フェリダエ女子代表チーム。
可愛いは正義。可愛いは世界を救う。しかし正義の反対は悪ではなくまた別の正義。今日、正義vs正義の戦争を人々は目にする事になるのだ! おのれクラマさん……あんたは何て罪作りな男なんだ!
「あの、ショーキチ殿? 大丈夫ですか?」
心の中でかなりキモイ苦悩を語っていた俺を心配して、ナリンさんが肩を揺すった。
「え……はい、大丈夫です。では打ち合わせ通りお願いします」
ドワーフ女子とフェリダエ女子の可愛さが凶悪であってもなくても、一人で両チームの練習をじっくり見る事など出来ない。俺たちは第二試合については最初から、練習から試合中の動きまでそれぞれ担当を決めて分析することにしていた。
ナリンさんがフェリダエ担当、俺がドワーフ担当だ。エルフとドワーフは宿敵、例え冷静なナリンさんでも
「安心して下さい、ナリンさん。イエスロリコン、ノータッチの精神で行きます」
「はい?」
俺はナリンさんに言葉の意味を説明せず、いや出来るわけないが、目の前の風景に集中する事にした。
ドワーフ女子代表は全体的に小柄ではあるが逞しく、意外にも丁寧なボールタッチを持っていた。そういう意味ではさっきまで見ていたトロール女子代表と似ているかもしれない。
但し上背は遙かに劣る。代わりに彼女たちが備えているのは組織力だった。練習から片鱗をみせていたそれは、試合が始まったら驚くような形で発揮されるのだった。
「今のは……オフサイドトラップでありますよね!? ショーキチ殿?」
開始早々からテクニックを見せるフェリダエチームに翻弄されているかのように見えたドワーフ代表。果敢にボールを奪いにいった選手が鮮やかにかわされ刺すようなスルーパスを通された……! と思った直後に副審の旗が上がりオフサイドが宣告された。
「そうですね。間違いない」
5人のドワーフDFラインは見事に揃っている。してやったり……の顔を見るまでもなく、彼女らが狙って今のプレーを行ったのは疑いなかった。
「過去のドワーフは違いますよね?」
「はい。チャレンジ&カバーを愚直に繰り返すタイプであります」
愚直、という言葉にナリンさんのエルフとしてのプライドを少々感じる。そうなのだ、糸を引くようなパスと華麗なドリブル突破を武器とするエルフ代表、それに根性と団結力で食らいつくドワーフ代表。といった図式が俺が映像で観た
その中でドワーフがラインDFをしたり、オフサイドトラップをかけたりということは一度もない。
「あの試合を観てから今日までで、仕込んで来たか」
「まさか……ドワーフ代表が……」
ナリンさんはかなりショックを受けた様子だった。それもそうだ、監督になってから彼女と何度も話し合った通り、ラインDFでオフサイドトラップを多用するスタイルは俺たちエルフ代表チームの肝だ。それをこんな短期間で他のチームが、それもライバルであるドワーフたちが習得し披露しているのだ。
「ほーやるやん?」
だが、俺の方は楽しくなってきていた。クレーマーの電話にビビっていてはコールセンターのSVなどできない。
相手が策を講じてくる。それをこちらの策で無効化したり打ち破ったりする。それこそ俺の求めていた戦場だ。
それに、もう俺はアチラの弱点に気づいてしまった。
「へー。おもしれーおんな」
俺はドワーフベンチ前で指示の声を送るドワーフの女性を見ながらそう呟いていた。
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