第37話
残念ながら、試合はそれほどおもしれーものにならなかった。序盤のオフサイドトラップでフェリダエチームの度肝を抜いたドワーフチームだったが、その後の攻め手にはさして目を引くものをみせられない。
更に守備では個人能力の差を見せつけられた。相手の右WGを
エルフ代表程度(と言ってしまうのも悲しいが)には通じた彼女たちの組織力と粘りは、テクニック身体能力ともに段違いのフェリダエ代表には殆ど通じなかった。
終わってみれば5ー0。順当な結果で、見所はフェリダエ代表のテクニックと得点ショーしかなかったかもしれない。しかし、俺は確固たる収穫を幾つか持ってスタジアムを後にするのだった。
……と言いたい所ではあったが。
「あれ? 観て行かれないのでありますか? ショーキチ殿?」
出口へ向かい歩き出した俺にナリンさんが問いかけてきた。
「へ? 何をですか?」
「センシャでありますが」
センシャ……洗車! 忘れてた! 負けたチームがやる、勝利チームを称える
「アレってカップ戦だと直後にやるんですか?」
「ええ。決勝と三位決定戦は中三日しかなくスケジュール的に詰まっているであります」
なるほど。言われて周囲を見渡すと、あまり帰ろうとする客がいない。今日負けたのはミノタウロスと……ドワーフ!
みっ、観たい!!!
「そうですか。でも一刻も早く今日の試合を分析したいので、宿に帰りましょう」
しかし、口を開いて出たのは心とは裏腹の言葉だった。
「了解であります!」
ナリンさんは勢いよく答えると、俺に並んで歩き出す。そうだ、彼女に俺が鼻の下を延ばしている姿を見せる訳にはいかない。
「しかし、あの『センシャ』てやつですけど」
毒を喰らわば皿まで。俺は聞いてみたかったが聞けなかった繊細な事を確かめることにした。センシャだけセンシャティブ……てやかましいわ!
「はい?」
「必要ですかね?」
「はあ。クラマ殿からは『大事な儀式だ』と聞いているでありますが」
そうか。
「個人的には、不要で辞めるべきだと思います」
俺は今、心の中で血の涙を流している。
「そうでありますか?」
「ええ。選手の一番の仕事はサッカーをすることです。センシャする姿を見せる事ではありません。それに試合後に余計な事をするとコンディションを崩す可能性もある」
アイシングとして氷風呂に入るとかなら分かるんだけどな。
「考えた事は無かったでありますが、言われてみるとそうであります」
ナリンさんは感心して頷く。
「シーズン開幕前の監督カンファレンスで提言してみます」
「了解であります。では提案書を準備するであります」
「それは助かります。ありがとうございます」
俺の心境は複雑だ。感情は続けて欲しいし理性は辞めるべきと言っている。とりあえず提言してみて、後は
それで辞めないなら俺の責任じゃないし!
「こちらこそありがとうございますであります。ショーキチ殿は本当に選手想いでありますね!」
辞めろナリンさんの笑顔が辛い。
「いえ、俺はただ面白いサッカーが観たいだけですから」
俺は内心で
「DSDKが却下してくれないかなー」
と思っていた自分を汚く感じながら今度こそ本当にスタジアムを後にした。
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