第110話
「おう、ただいまです。お三方は練習終わり? お疲れさ……うわあ!」
話を変えるチャンスと三名に挨拶をしようと声をかける途中で、猛ダッシュしてきたユイノさんに抱きつかれて俺は思わず悲鳴をあげる。
「えっ、なになにどうしたの!?」
「こらユイノ! 離しなさい!」
「監督ぅ~。ニャイアーさんもリーシャも鬼なんだよぉ~! 手加減するように言ってー!」
ユイノさんはリーシャさんの制止も構わず、俺をぎゅっと抱き上げぶんぶんと身体を振る。流石にラビンさんには負けるが……この子、こんなにボリュームあったっけ?
「ユイノさん振り回さないで! ていうか少しゴツくなった?」
「ええ。ユイノさん、私が来た時と比べて肩周りが5cmモウ増えたんですよ」
ラビンさんが俺の疑問に即答する。
「ちょっとラビンさん!? 乙女の秘密をあっさり公表しないで!」
ユイノさんはドスンと俺を落とすと今度はラビンさんの肩を掴んで振り回した。その光景に一同思わず笑みを漏らす。
「改めて、監督おかえり」
「あ、ありがとう」
落とされた時に尻餅をついた俺に近づき立ち上がるのに手を貸してくれながら、リーシャさんが言った。なんだか彼女の方はより
「俺達がいない間も充実したトレーニングが行えたみたいだね」
なので俺が口にしたのはより当たり障りのない感想だった。
「まあね。ニャイアーコーチ、私の方にも付き合ってくれたから」
そう言ってリーシャさんはニャイアーコーチーの方を見る。フェリダエ族のイケ猫GKコーチは真っ先にナリンさんの元へ猫まっしぐらして話し込んでいる。
「ニャイアーコーチ、選手としても全然やっていけると思う。ユイノを相手にしてる時と違って全く歯が立たなかった。でも彼女からゴールを奪えるようになったら、誰が相手でも勝てる様な気がする。フェリダエチームでも、ね」
ニャイアーコーチを見るリーシャさんの目に炎が灯った。凄い、なんだかスポ根ものみたい!
「そうかそれは良かった。じゃあちゃんとお礼を言っておかないと。ニャイアーさん、不在の間はありがとうございました!」
俺は言葉の途中からニャイアーコーチ達の方へ向かって移動しながら言った。
「ああ、監督お帰りなさい。ユイノ君リーシャ君もまだまだだけど、少しはモノになってきたと自負しているよ」
ニャイアーコーチは俺の肩に手を起きながら応える。
「そちらの視察旅行の方はどうたったんだい? ところで……」
と、俺の肩に置いた手から静かに爪が伸び、力強く肉へ食い込んだ!
「僕は耳が良くってね。ちょっと聞こえたんだが……ニャリンと二人っきりで寝泊まりした時期もあるのかい?」
えっ、あの距離で聞こえてたの? 怖い! でも旅の中で分かったけどこの世界の種族、だいたい人間より耳が良い!
「いや、ほんの僅かな時期だしアレはナリスとショーであって……」
俺はニャイアーコーチの声と爪に怯えながら応えるが、正直どこから説明したら良いのか見当もつかない!
「ま、まあその辺りの積もる話も食事をしながらだなあ。ラビン、準備をお願いしていいか?」
素早く割り込んだザックコーチがなんとか収拾をつけてくれた。その後の夕食の場は結局、コーチだけの会議ではなく参加者全員の報告会や俺の弁明に費やされた……。
「やっと帰れた……」
食堂での夕食及び報告会は予想外の盛り上がりをみせ、俺が湖畔の家に帰れたのは真夜中頃だった。
やっとたどり着いたスイートホームの見た目は何の変わりもない。定期的にリーシャさんとユイノさんが訪問してチェックしてくれている筈である。俺は特に何も考えず階段を登り、寝室へ入って柔らかいベッドへ倒れ込んだ。
「痛いのだ!」
「痛いのです!」
「うわぁ!」
おかしな感触がして悲鳴が上がった。柔らかい筈のベッドは確かに一部が柔らかく、一部が柔らかくなかった。良い匂いもした。
「何!? 誰かいるんですか!?」
俺は慌てて飛び退き、壁に張り付く。シーツがモゴモゴと動いて下から二名の少女が姿を現した。
「おう、監督が帰ってきたのだ」
「きたのです!」
そこには見た目がそっくりなエルフの美少女が二名いた。金色のさらさらヘアーに長い睫。目は切れ目というよりも丸く瞳も大きい。高くはあるが尖りすぎていない鼻の下にはぷっくらした唇が鎮座していて、今はそれがせわしなく動いてステレオで俺に向かって音声を放っていた。
「アイラなのだ! シャマーちゃんに言われてお姉ちゃんとここへきたのだ! 左サイドはトップからDFラインまでアイラさんにお任せなのだ!」
「マイラなのです! シャマーちゃん……にゃんのお願いとあらば仕方ないのです! マイラ、どこでも頑張っちゃます!」
お、おう。また強烈な選手が来たな。しかし良く似ている……双子か? アイラさんは普通のショートカットだがマイラさんはツインテールで、辛うじてそこで見分けがつくくらいだ。
「あ、シャマーさんのおっしゃってた二人ですね? わざわざどうも。俺は監督のショーキチです。失礼ですがもしかして双子さんですか?」
シャマーさんが選んだ左SB候補の二名だと思うがまさか双子とは思わなかった。しかもキャラの癖が強い。彼女の目に叶ったからには腕に、もとい脚には覚えがある選手だとは思うが。
「まあ! やっぱりそう見えちゃうのです?」
俺の問いにはまだ応えず、ツインテールを揺らしてマイラさんが嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねた。笑顔の上で二本の尻尾のような髪が激しく揺れる。そう言えばこの世界のエルフにはツインテールいないのかな~? と寂しく思っていたから出会えて嬉しくはある。
「うん、まあそこなのだ……」
一方のアイラさんはやや表情を曇らせるとベッドを降りて俺の側まで歩き、衝撃の事実を小声で言った。
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