第111話

「(マイラちゃんはアイラさんのお母さんのお母さん、つまりソボにあたるのだ。でもそれを言うと怒るから双子の姉という事にするのだ)」

「へ? ソボ……てお婆ちゃん!?」

 この見た目とキャラで!? 俺は思わず大声を上げた。

「あら? 何か言ったのです?」

 急に部屋を冷気が包み空気が凍り付いた。いや比喩ではなく実際に吐く息が白くなり、ストーブに封じ込められていたサラマンダー(覚えているかな? 暖房として設置されてたやつ)が悲鳴を上げる。マイラさんの表情は笑顔のままだ。だが魔法を使えない俺でもはっきりと、これは彼女の仕業であるということが分かる!

「いえ、ソボおば……側に置いてプレーした方がやりやすいですか? って聞きたくて」

「そっそうなのだ! アイラさんはお姉ちゃんと同時に出る事だってできるのだ!」

 俺とアイラさんがそう言うと、冷気は現れた時と同じくらい唐突に消えた。

「確かになのです! マイラがSBでアイラにゃんがWGとか、マイラが中盤の底でアイラにゃんがSBでもいけるのです!」

 マイラさんが笑顔でそう言った。いや笑顔はずっとそのままだった。だがさっきは明らかに何かが違った気がする。

「(よくフォローしたのだ。マイラちゃんが魔法で暴れたら、止められるのは弟子のシャマーちゃんだけなのだ)」

「(てことはマイラさんはシャマーさんの師匠!? それは相当な腕前でしょうね)」

「(そうなのだ。だから以後気をつけるのだ。アイラさんとマイラちゃんの関係はシャマーちゃんしか知らないから他のエルフには内緒なのだ)」 

 シャマーさんてばよくこんな選手を引っ張り出してくれたな! 因みにこの「よく」とは「よくもこんな凄い選手」と「よくもこんなやっかいなキャラ」という二つの想いが籠もっている。

「何をこそこそ言っているのです? あ、そう言えばシャマーにゃんから預かっているのがあるのです」

 そう言うとマイラさんは懐から手紙らしい紙を取り出した。

「どうも、ありがとうございます」

 俺は恐る恐るマイラさんに近づき彼女からそれを受け取った。

「ふむふむ。『愛しのショーちゃんへ。お願いされてたSB候補の選手を二人送ります。アーロンに移り住んで永いドーンエルフの一族なので王国での知名度はないけど、かなり優秀な二人です。追伸:どこへ行かせれば良いか分からなかったので、取り敢えずショーちゃんの家へ行くように指示しました。じっくり検分して下さい。でも可愛いからって本気にはならないでね。味見程度でね』か。」

 中の手紙にはそんな事が書いてあった。シャマーさんらしい言い回しだな。てか俺、彼女に家を教えてないよな? どうやって知った……怖っ!

「まあ、そんな感じでここにいたのだ。ところで味見って何なのだ?」

「さあ? マイラ、分かんないのです!」

 いや少なくともアイラさんのお母さんを産んでいるんだからマイラさんは分かってるやろ! と思っているとふと、二枚目の紙に気がついた。

 それは当初、白紙だったが手に取り見つめる間に文字が浮かび上がってきた。

『マイラちゃんはアイラちゃんのお祖母さんで、私の魔法の師匠でもあります。凄い年齢です。でもそれを指摘すると嫌がるので、彼女たちは双子姉妹という事にしておいて下さい。キャラ作りも痛いけどショーちゃんなら扱える筈です。ガンバ! 追伸:こちらの手紙は読後すぐ燃えます』

 その文字通り、二枚目の手紙は読み終わって直ぐ一瞬で燃え上がって塵になった。凄い魔法と心配りだ。できれば事前に教えて欲しかったが。

「まあ! シャマーにゃんの魔法だわ! どうしたのです?」

「いえ、何でもありません! 取り敢えず事情は分かりました。明日から早速チームに合流して頂きますので宜しくお願いします。因みにチームの宿舎はすぐそこなので空き部屋にでも」

 ルーナさんが既に一部屋占領したが、まだまだ空きはある筈だ。

「分かったのだ。じゃあマイラちゃんと行くのだ」

「いやん! マイラ、こんな夜に森を歩くの怖いです~」

 嘘付けカマトトぶんな! たぶんだけどこの森全体を凍り付かせる程の魔力持ってそうやんけ!

「あーじゃあ今晩だけはここで寝て良いっすよ」

突っ込みを入れたかったが俺が口にしたのは別の言葉だった。

「え? いいのか?」

「良かった! あ、さては一緒に寝たいのです?」

 寝んわ! 今から宿舎まで戻って説明するのが面倒くさいからだよ!

「いいえ、俺は客室に寝ますのでお二方はそのままそこで寝て下さい。起きたら一緒にクラブハウスまで行きましょう」

 他にもある考えがあった俺は彼女たちにそう言い残すと、寝室を後にして客室へ向かった。愛しのマイお布団との再会はあと一日だけ延びる様だった。

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