第261話

「なんだショーキチ、知ってたのか? アレはギャール族とオークのハーフだな」

「ギャール族? え、山姥とのハーフじゃなくて?」

 さらっと失礼な事を言いながらステフに問うと、物知りのダスクエルフはギャール族についてこちらもさらっと概要を教えてくれた。

 と言ってもそれほど語るほどの事はない。ギャール族は地球における伝説のアマゾネスの様な存在で、山奥に男子禁制の集団を作って暮らしているらしい。どうやって繁殖しているかは不明だが、そもそも種族の母数が多くなくサッカードウはやってない……と。

「ほんとだ! 美味しいー! 優しい味……!」

 俺が話に夢中で全然、手をつけないのを見て、ユイノさんがこっそり俺の分を奪って口に運んでいた。

「こら、ユイノ!」

「でも本当に美味しいんだよ?」

「え? じゃあ」

 リーシャさんの叱責にユイノさんが器を渡して返す。ユイノさん、何を食っても美味しいって言うし、優しい味って褒めるところが無い場合に言いがちだよなー、と思って見ているとなんとリーシャさんまスープを飲み驚きの表情を浮かべた。

「うん、確かに優しくて美味しい味」

 いや食べるんかい! んで同じ感想かい!

「あ、オタくん獲られちゃってるじゃーん! はい、新しいの!」

「熱いからフーフーし息で冷ましてあげよっか?」

 ツッコム間にギャル二人が人数分のトーンジールとやらを運び、俺たちのテーブルに並べる。

「あ、すみませんありがとうございます! フーフーは結構です」

 ようやくちゃんと礼を言って、俺はスープの入った器を受け取った。備え付けのスプーンで中を探ると、様々な種類の植物と細切れの肉らしきものが入っているのが分かる。

「頂きます。うわ、なんか懐かしくてやさ……いもいっぱい穫れそうで癒される味!」

 これは美味い! しかもデイエルフコンビが言うように薄味ながらしっかり出汁が効いて食べ応えもある味だ!

「ほうほう……。確かに優しい味で二日酔いの朝に良さそうな味だな!」

「優しい味なのに栄養価も高そうじゃないですか?」

「調理の手間もかからなそうで味だけじゃなくて料理人にモウ優しいですね!」

 俺が意地でも例の表現を使わないでいたのに、そんな事を気にしないエルフとハーフミノタウロスは率直な感想を述べた。

「あんがと! 褒めて貰えてあがるー!」

「オタくん語彙力あるね! やんじゃん!」

 黒ギャルの方は嬉しそうにガッツポーズをし、白ギャルの方はニコニコと俺の肩を叩いた。まあどっちもオークなので腕が太いし力も強くて怖くてちょっと痛かったけどな!

「いえいえ。てか俺は『オタくん』じゃなくてショーキチと申します。お二方は……?」

 たぶんステフが『オタオタすんな!』とか何とか言ってたせいで名前を間違えたのだろう。俺はちゃんと名乗った上で二人に訊ねた。

「あーしはナギサ」

「ホノカだよ」

 黒い方がナギサ、白い方がホノカというのか。二人はユイノさんの口元を拭ったりステフが落とした食べカスをさっと拾ったりしながら名乗る。見た目は怖いけど良い子だな。オタクに優しいギャルだ。

「お二人もオーク代表のスタッフなんですか?」

 ここにいて屋台を出しメイド服を着ている以上はそうなんだろうが、俺は念の為に確認する。確か一昨日、サンダー監督が連れていた美女軍団にはいなかった筈だが。

「知らんの? あーしら、癒しの料理名人で界隈で有名なのに!」

「ナギサとホノカ、二人はブヒキュアって呼ばれてるかんね!」

 いやあ、初耳っすわ! でもブヒキュア癒しか。確かに彼女たちの作る食事なら、疲労回復栄養補給にもってこいだろう。

「決めた!」

 俺はマトプレイさんへの未練――ごめん、実はちょっとあった――を振り切るように叫び、立ち上がってナギサさんとホノカさんの手を取った。

「ブヒキュアのお二方! どうか俺のモノになって下さい!」

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