第395話
逆探知――と言って正しいか知らないがまあそのへん目的の――装置をどうして良いか分からぬまま、俺は寝室へ戻る事にした。
「まあパソコンでも下手に電源を落とすくらいなら、そのままにしておく方が良いしな」
退社する時にサーバーマシンのコンセントを引っこ抜く掃除のオバサンと同じ轍は踏むまい。ただ適当な布だけそれらに被せて部屋を出る。
「明日、起きたら演出部に連絡して会議をなるはやでセッティングして、ブヒキュアの報告書読んで、ムルトさんの確認貰って……」
シャマーさんの事も気になるが俺にはすべき事がたくさんある。どの道、明日の朝には話し合う事になるだろう。俺はその後のタスクを手帳に書き記し寝室へ入った。
「……いない、か」
実はアレはフェイントでまた夜這いでもしてくるんじゃないか? と密かに期待……ではなく予想していたが外れた。
「はぁ~。久しぶりの我が家のベッドだ」
その気持ちを振り払うように呟き、倒れ込む。俺はそれこそコンセントを抜いたみたいに意識を失い、眠りへ入った。
「あー、やっぱりシャマーさん」
気づけば俺は派手なピンク色の布で装飾された何処かの寝室にいて、シャマーさんと対面していた。彼女の服装はシンプルな白のブラウスに黒く短いスカートだ。部屋のエロさと対照的に服は清楚系といった所か? うん、夜這いでなければ夢魔法で侵入して来ると思ってた。
『悔しいけど来ちゃった』
「あーまだ怒ってます?」
何かを諦めたような顔で俺の方を見ながら、彼女は黙っていた。どうやら場はセットしたがエッチな悪戯をしかける気にはなってないらしい。
『怒ってはないけどー』
「怒ってますね……。すみません、俺が悪かったです」
『いや怒ってないってば!』
「でも何か言って下さいよ……」
ちょっと泣き言っぽいがここは夢の中だ。恥はかき捨て、と俺は正直に言った。
『え? さっきから言ってるけど!?』
「俺が女心を分かってないのは事実ですけど。男だらけの環境にいたのと人間エルフの差。二枚の壁に苦しんでいるのは理解して欲しいんですよ……」
『音声だけ夢に入れてない? あ! ひょっとすると織収集装置の干渉かなー?』
「……ナリンさんとシャマーさんにだけは」
『ええっ!? それって……つまり……って話せないのもどかしい! ごめん、ショーちゃん、装置を停止させてちょっと入り直して来るね!』
「あ、待って下さい!」
目の前でシャマーさんが急に踵を返した。いやここまで恥をかいて逃がすのはもっと恥ずかしい! 俺は咄嗟に彼女の腕を掴んだ。
「行かないで! 幻滅するかもだけどちょっとだけ聞いて下さい」
『いやそうじゃなくてねー。ってその顔、狡いよー』
シャマーさんは困った顔になってその場に座り込んだ。どうやら去るのは辞めにしてくれたようだが、まだ口をきく気にはなってないらしい。
「俺は本当は未熟な人間なんです。監督としてみんなに不安を与えない為に、選手達へ弱味を見せる訳にはいかないけど」
俺は彼女と目の高さを合わせる為に同じく床に座り込む。おっと、床もピンクでふんわり柔らかい。
「いや、エルフのみなさんからしたら人間なんてみんな、未熟で赤ん坊みたいですよね。なに言ってるんだか」
『ううん。ショーちゃんは立派な男性だよー? なんて言うか、悩んでる顔もセクシーだし』
「まあともかく、ある程度強がりというか完璧でないといけなくて、でもそんな自分じゃない弱い自分を見せられる相手が必要で、それがナリンさんとシャマーさんなんです」
そう口にしてなんとなく、シャマーさんが怒った理由が分かってきた。俺はナリンさんを頼りにしていて……。今、気づいたが寂しく思っている。同様にナリンさんも俺がいなくて不安に思っているのだろう。
眠りにつく前に彼女が怒りを見せたのは、きっとそれに気づけ! という喝だったのだ。
『そんな事、考えてたんだ……。可愛いなー』
「そうか……。俺がそうやって支えて貰っているのと同じように、ナリンさんの支えにもなれ! って事ですよね?」
『え? いやちょっと違うかなー』
「それを言えばシャマーさんもですよ! 特にシャマーさんは精神的な支柱というだけじゃなくて、戦術的にも柱ですもんね。DFラインの統率もやって貰ってますし。と言うかシャマーさんのコントロールにオフサイドトラップからプレスから全部かかっててそういう属人的というか属エルフ的なやり方はあまり良くないと思っているで、代わりになる選手を育てて休んで貰えるようにしなきゃいけないんですけど、戦いながらスペアの選手を育てると言うのもいざやってみると難しくて……」
『まーた結局、サッカードウの話しになってるー。たまにナリンかジノリちゃん以外は正直、ちんぷんかんぷんになってるのに気づかず話すよねー。そう言う所も可愛くて好きだけどー』
そこまで話して俺はまた、自分の愚痴になっている事に気づいた。ドーンエルフの様子を伺うと彼女は少しため息を吐いているように見えた。
「すみません、また自分勝手でしたね。怒らせて当然だ。もう辞めます」
そう言って頭を下げ立ち上がろうとすると……
『あっ、待って!』
急にシャマーさんが俺の頭を抱え、強引に自分の膝の上に押しつけた。
「えっ!? 何ですか?」
『声は聞こえなくても……ここまですれば怒ってない事は分かるでしょ?』
更に彼女は俺の髪をクシャクシャと撫で回し始める。
「どういう事ですか?」
『よーしよーし。大丈夫だからね?』
身体を引きずり倒され強引に膝枕のような状況にされながら、俺は考え込んだ。何か変だ。様子も変だし何も話してくれなし、こんな状況なのに悪戯もしかけてこない。
「あ! もしかして声が聞こえないの……!」
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