第164話
「なあなあ! ショーキチ兄さん、これどう? 可愛い?」
フリーになった俺を目敏く見つけたのであろう、レイさんが軽快に俺の前へ走りより、明るい緑色フレームの眼鏡をかけてポーズを取る。
「あ、うん、似合ってますけど……。視力、不安なんですか? 学校の黒板、ちゃんと見れてます?」
普段でも大きくてキラキラしているレイさんの瞳の光が更に強調されて、俺は思わず目を逸らして言う。
「なんやのそのオカンみたいな言い方! これは視力補助じゃなくて伊達やで。なあ、もっとちゃんと見て?」
水着イベントで言いそうな台詞を先に使いながら、レイさんが俺の周囲をぐるぐる回る。ふと、困り果てた俺と目が合ったダリオさんが歩み寄ってきた。
「ショウキチさん。これならより変装できているでしょうか?」
ダリオさんは逆台形フレームの眼鏡の位置を直しながら訊ねる。
「んー。可愛いし無難やけど、ウェリントンだと眼鏡側の主張が薄いから変装としてはいまいちちゃうかな? ちょっと待って……」
俺の代わりにレイさんが応え、背後の棚を漁り出す。よく分からない俺は湘南や福岡で活躍した屈強な
「姫様、こっちはどう?」
「これですか?」
レイさんに渡されダリオさんが次につけた眼鏡は、太く濃い赤フレームが激しく主張する長方形型のものだった。
「こっこれは……」
「うーんしくじった。エロ過ぎやったかな?」
嘘つけわざとだろ! ここまでの、セクシー系のグラビアかもっと……なもんでしか見いひんわ!
「そう……なんですか?」
レイさんの言葉に困り眉で首を傾げるダリオさんは顔だけでもう駄目な感じだった。元は少し派手とは言え上品なお顔なのに、赤いフレームが見せる錯覚で頬が上気し目が潤み、感じてはいけない快感を堪えているお姉さんの様に見える。
って何を言ってるの俺!?
「あれ? でも絶対に私とは気づけないですよね?」
意外と気に入ってる!? 鏡に映った自分に見とれるダリオさんにどう対処して良いか分からず、俺は助けを求めるように周囲を見渡し、水盤の前で難しそうな顔をしているシャマーさんに気づいた。
「あれ? シャマーさんどうしたんですか!?」
「うひゃい!」
予想外な事に、シャマーさんは聞いた事がないような驚きの声を上げて振り向く。
「うわ! びっくりしたー」
「もう、そっちこそどうしたのショーちゃん!」
驚かされたのは俺の方なのに、シャマーさんは逆ギレしたかのように叫びつつ右手を振った。その手の動きで水盤に浮かんでいた景色が消え去る。
あれ? なにやら見覚えのある食堂のようなものが見えたが……?
「シャマーさん……それでどっか覗き見してたんですか?」
「覗き見……? う、うん、そうよ!」
確かここは魔法の眼鏡および遠見道具屋さんだったよな? と言う事はシャマーさん、お店の道具を勝手に借りてそんな事を!
「駄目ですよシャマーさん、そんな事をしちゃ。さっきの、食堂でしょ? ユイノさんが盗み食いしてる所でも見えました?」
「ユイノ……ううん、今は特に面白い事はなかったわ。それよりそっちはどう? あら、あれ楽しそう!」
シャマーさんはそう言うと俺の手を引いてリストさん達の方へ誘う。
「あうう……。優しくして欲しいでござる……」
その場には様々な器具が伸びた寝椅子の様なモノがあり、上に寝かされたリストさんが初めての歯医者さんで想像以上の恐怖に動けなくなった子供の様に震えていた。
「別に痛い事はありませんわ! むしろここでいい加減な調整をすると、つけてる間ずっと不快な思いをしますのよ!」
「そうじゃ! それにレンジャースさんはドワーフの名工じゃぞ! ミスなどするものか!」
ムルトさんとジノリさんはリストさんをピシリと叱りつける。だいたいいつもこんな調子なんだよな。だから彼女も怖がるんだけど。
「では参りますぞ」
眼鏡マイスターのレンジャースさんが装置を動かすと、まず器具が動いて飾り気のないゴーグルのようなモノをリストさんの頭部に装着させた。するとどうだろう、やや大きめに見えたそれは彼女の眼部のラインに併せて大きさを変え、ピッタリと収まった。
「(ほう、凄い)」
「(サイズ適応の魔法よ。匠が使えば
作業の邪魔ならないよう、俺とシャマーさんは小声で話し合った。彼女の身体が俺に密着し耳元に吐息がかかるが不可抗力だろう。
「(板金鎧ってあの騎士が着るようなガチガチのですよね? それを変化させられるなんて……。あれ? じゃあ水着も別にフィッティングとかいらないんじゃ……)」
「(しっ! 次は遮光効果を付与させて定着させた後でモロモロの魔力を消すの)」
シャマーさんの言葉通り、魔法のアームが眼鏡のレンズ部分を変色させて俺の知るサングラスっぽくする。因みに魔力を消すのはそれが試合で使う為の条件だからだ。基本的にはフィールド内はドラゴンさんが魔法を消す結界の様なモノを設置しているのだが、予期せぬ魔法の消失を繰り返すのは色々と面倒らしい。
「そっそれは何でござる!?」
次に出てきた腕の先で回転するドリルを見て、リストさんが身体を震わせ悲鳴を上げた。
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