第266話

「今は仕方ないですけど、リストさんやレイさんの個に頼った攻撃は水物ですからねえ。ナリンさんの言う通り安易な方法に頼った感があります。ここは突破を試みたリストさんが問題と言うよりは、彼女にパスを出した中盤の意識を変える必要がありますね」

 とは言え、メンバーをコロコロ変えて意思統一を難しくしている指揮官、つまり俺にも原因があるのだが。あ、もう一つ俺が原因と言える事情があった。

「それと、相手や自チームの人数が少ない時の練習もしましょう! 馴れてないから数的有利を生かせなかったんです。練習でやってない事は本番で出来ませんから!」

「そんな練習を?」

「お主の世界では普通なのか?」

 俺が朗らかに宣言すると、ニャイアーコーチやジノリコーチが驚いたように言った。

「人数不均等な状況ならやっていますが……」

「それじゃ不十分です。ちゃんと試合形式でやりましょう。確か自チームが三人足りない状況くらいまで練習してたそうです」

 ナリンさんが言っているのは普段のトレーニング、3vs4でシュートまで……等のシチュエーション練習の事で、俺が言ってるのはW杯で優勝した某国チームの逸話だ。

「局面練習はファイナルサードの崩しとかシュート意識とかカウンターの面では良いんですが、試合で実際に訪れる機会としてはそう多くないんですよ。試合、何とか人数確保してやりましょう」

 幸い、相手に心当たりはあるし別の目的もある。俺はナリンさんに退場してしまいそうな選手とその場合のシステム選別を依頼して、次の話題を振った。


「オーク戦はあのような戦況だったから、オフサイドトラップもプレスの回数は多くない。真価が問われるのは次のガンス戦以降じゃろう」

 ジノリコーチは魔法端末を操作して数少ないオーク戦の該当シーンをさらっと流した後、ガンス族の試合映像に切り換えた。

「知っての通り、奴らは良く走りおる。守ってはボールホルダー保持者に群れなして襲いかかるし、攻めてはライン裏にパスを送って猛ダッシュじゃ。ラインコントロールにはより繊細さが必要とされるじゃろうし、形としてはプレスの掛け合いのようなモノになるかもしれん」

 そう言って彼女が見せたのはガンス族vsバニット族――言及するのは初めてな、ウサギ型獣人種族だ。走力に輝くものがあるが全体的な当たりが弱く残念ながら降格して今期は2部を戦う。2足歩行する兎……みたいな可愛いモフモフ系もいれば耳だけ長いセクシーなお姉さん系選手もいて繰り返しになるが降格したのがつくづく残念だ――の試合だった。

「あー兎は寂しいと死んじゃうってヤツですか」

 その試合はもう、狭い所にGKを除く両チーム20人がひしめき合い、ボールを追いかける幼稚園児のサッカーのようだった。せめて手薄な逆サイドに一人でもスピードのある選手を開かせればなあ。

「なんじゃそれは?」

「いや、なんでもないです」

 俺が口にしたあるドラマの台詞、翻訳アミュレットには難しかったらしい。説明するのも難しいので真面目な事を言って軌道修正を計る。

「今回もライン安全め、プレスも控えめで行きますか? オーク戦の消耗もあるし、相手の土俵で戦う必要もありませんしね」

 一番の武器として鍛えてきた戦術が2戦連続で活躍しないのはやや寂しくもあるけどね。

「そうじゃな。まあ低い位置でのコントロールというのもまたチャレンジじゃろう。そっちで行くか!」

 ジノリコーチは俺の提案を前向きに捉えて頷いた。実際、何かに固執してしまうと柔軟性が失われるし、何よりコーチという種族は別に寂しくても死なないし。

「では僕もGKには飛び出しよりもDFとの連携を重視させるよ」

 ニャイアーコーチも頷く。そんな感じでジノリコーチの方針も決まり、いよいよ俺のターン、ガンス族対策となった。

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