第128話

「ちょっと男子! 廊下でふしだらな行為は……あ! ショーキチお兄ちゃん!?」

 この声はスワッグと……なんとポリンさんだ。一名と一羽は何やら大量の書物を抱えて廊下を歩いてきた。

「あ、ポリン! ショーキチにいさんがウチらの制服姿を上から下まで隈無くチェックする為に来てくれたで!」

 ちゃうわい! とツッコミたかったものの学生服を着た美少女エルフというのはなかなかレアで、実の所言うと女子高生そのものとニアミスした経験も(男子校出身ゆえ)悲しいかなレアで、このチャンスに割としっかり見ていたのは事実である。

「ショーキチおにいちゃん、貴方は生徒の保護者ですが節度をもった対応をお願いします」

 駆け寄り口頭でそう注意したポリンはブレザーのボタンをしっかり止め髪をまとめ、腕にはなんと赤い腕章をぶら下げていた。翻訳の眼鏡が無いので書かれた文字は分からないが、恐らく何かの委員なんだろう。

「もーポリン、委員の仕事に入ると固いって!」

 なんだかんだ言ってその言葉で俺から身を離したレイさんはブレザーの前をオープンにし良く見ればスカートの丈も膝上で、形の良い太股が剥き出しである。委員らしいポリンとは好対照なちょい不良女子、といった外見だ。

「ごめん、俺もちょっと不意を突かれて。てかポリンちゃんてもう委員の仕事なんかしてるの?」

 そう訊ねつつも思い出してみれば、彼女は湖畔で俺がサッカーを教えていた子供達の中でも最年長でリーダー的存在おねえちゃんだった。アローズに連れていってしまえば年少さんだが、同世代に入ればそういうポジションになるのだろう。

「そうだぴい! ポリンは成績も素行も優秀で瞬く間にクラス委員長へ任命されたぴよ。ちなみに俺は非公式副委員長だぴい!」

 ポリンの代わりにスワッグが返事をし、自分の首に巻かれた帯を羽根ゆび差した。

「そうなんだ! 偉いね!」

「別にそんなことないよ! 兄弟姉妹や面倒をみている子が多かったからちょっと慣れてるだけで。でもショーキチおにいちゃんに褒められるのは嬉しいな……」

 言いながらその整った顔を赤く染めるポリンさんは、ナリンさんに良く似ていた。照れ方も含めて。

「ポリン、先生の評判もクラスメイトの人気も高いんやで! 上の学院への推薦状だったらなんぼでも書いたるわ! って先生いるし、手紙と言えばラブレターかて……」

「ちょっとレイちゃん!」

 既に赤くなっていた顔を更に真っ赤にしてポリンが慌ててレイさんの口を塞ぐ。その際に落としそうになった書物は……スワッグが寸前で回収した。できるグルフォンだ。

「だってほんまのことやん!」

「そうだけど! それを言うならレイちゃんだって上級生から何度も告白されているじゃない?」

「おっとそれは初耳だぞ!?」

 ステフが驚きの声を上げた。俺も同感だがステフお前、『ドロドロした恋愛関係見たい』とか言ってた癖に、その目は節穴か?

「お二方とも青春であるな。拙者には縁の無かった世界でござる」

 こちらリストさんは遠い目だ。

「ちなみに近づこうとする若い燕からは、鳥類の王たる俺がガッチリガードしているぴよ」

 マジかよつくづくできる鳥だ。いやでも若い燕ってエルフの年齢でどう解釈したら良いのか分からないけどな。

「えーでもウチはどうせ卒業したらショーキチにいさんとけっ……」

「それで今回きた理由なんだけどさ!」

 レイさんが危険な事を口走りそうになったので慌てて口を挟む。

「おおそうだ。JKの制服を観察する以外に何か予定あったのか?」

 ステフが危険な事を口走るのはいつも通りだった。

「違うし! おほん、実は放課後ステフとレイさんに協力して欲しい事があるんだ」

「なになに? ダブルデート?」

「デートじゃなくてリクルート! あ、ここで立ち話もアレだから……」 

 さっきからの流れでずっと衆目が集まったままだ。俺は皆を廊下の端に集め、放課後の段取りを伝えるのであった。


 俺たちは残りの授業時間、学校関係者やクラブ活動の指導者との面談に費やし、放課後に再合流して王城へ向かった。

「リクルートってどんな人材を獲るん?」

 船の縁に腰掛け、靴を脱いだ素足を運河に浸らせながらレイさんが訊ねる。放課後になって更に短くなった――もちろん自動でなったのではなく、校舎から出るなりレイさんが折り込んで短くした――スカートの下から伸びる藍色の生足が眩しい。

「基本的には会計とか事務関係なんだけどさ。資料見る?」

 同行しているのはリストさん、レイさん、ステフだ。俺を加えて4名、王城までの道のりも難しいので船で慣れた運河を行く事にしたが、揺れる船上で読むとさっきのリストさんみたいに酔うかもしれない。

「えー要らんわ。面白くなさそうやし」

「右に同じ」

 お前等……。と思ったものの確かに事務員候補さんの履歴書を彼女たちが読んだところでどうした? とも言えるな。

「ステフたちにお願いしたいのはこの人、いやこの人たちと言った方が良いのかな? の面接なんだ」

 俺はそう言って特別なファイルを彼女たちに見せた。一読するなり、レイさんは「なるほどね?」とばかりに眉を上げ、ステフが嬉しそうな顔で笑った。

 リストさんは船酔いがぶりかえしていた。

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