第105話

 昼頃、俺たちはエルフの国『残雪溶かす朝の光』王国へ帰った。都は変わらず湖の西にクリスタルの尖塔を並べ、光で街や住民たちを照らしている。都合一ヶ月ほどだけ離れていた計算になるが、既に懐かしく故郷へ帰ってきた気分にもなっている。

 真っ先に家へ帰ってお布団ダイブしたい! という気持ちは山々だが勤め人雇われ監督である我が身ではそうも行かない。この旅のスポンサーであり旅の仲間の新たな雇用主でもある存在に会いに行かねばならない。

 俺たちは『彼女』に会う為、シソッ湖を北へ迂回し真っ先に街へ、そして王城へ向かった。


 城の一角にあるエルフサッカードウ協会の方は様変わりしていた。新しい建物が建ち設備が増え……見慣れない種族のスタッフがパタパタと作業をしている。

 それでも俺は記憶を頼りに例の場所へ向かった。するとなんとその部屋には前室が出来た上に受付け嬢がおり、彼女から照会を受けた後でやっと彼女の元へ通される、という状況だった。

「よう、ダリオ。ただいまー!」

 ステフが友人の部屋に入るような気軽さでドアを開けて中へ入る。そこには前に見たのよりもずっと大きな机があり、一名の女性が書類に何かを書き込んでいた。

 エルフ王国64代目の姫殿下にしてアローズの10番で元キャプテンでエルフサッカードウ協会会長、ダリオ姫だ。

「お帰りなさい。散らかっていて申し訳ないですが、なんとかスペースを見つけて座っ……あら凄い数」

 言葉の途中でやっと書類から目を上げたダリオさんが驚きの声を漏らした。俺達は総勢8人で押し掛けている。あまりに狭いのでスワッグには小鳥サイズに変身して貰っているくらいだ。

「どうもすみません。帰りました。俺達もですけど、随分とスタッフが種類人数共に増えましたね」

 俺は途中で見た風景を思い出しながら言った。

「ええ、あの記者会見以降『アローズで働きたい』という人材がどっと押し掛けて来て。正直、面接もまだ半分ほど残ってるくらいです」

 ダリオさんはぞっとするモノを思い出したかのように息をついた。因みに今日もボタンを大胆に開けたシャツにタンカースジャケットだ。ため息と共に揺れる胸に、俺よりもナイトエルフ三娘の方がどよめいている。

「あら、その方たち?」

「ええ。表敬訪問とか視察旅行の報告とかもありますが、何はともあれナイトエルフの三名と正式契約を結んで、彼女たちをどこかへ放り込……落ち着かせようと思いまして」

 危うく本音が出かけた。協会のこの有様を見るに俺にもすべき仕事が山積みだろう。早く彼女たちの世話を誰かに任せなければ。

「こちらからリストさん、クエンさん、レイさんです」

「どうもでござる!」

「姫殿下にあられましてはご機嫌うるわしゅうっす!」

「おばんです」

 勢いで三名を紹介すると、ダリオさんは優しく微笑んで挨拶を返した。

「こちらこそ宜しく。協会としてもチームメイトとしても歓迎します。そうですね、連絡を受けてから準備はしてあります。必要な書類を出すのでお待ち下さい」

 そう言うとダリオさんは立ち上がってキャビネットへ向かい、こちらに背を向け腰を折って紙の束をガサゴソと漁る。ぐいっ! と突き出されたお尻と腰のラインを見て

「(凄い大人の色気でござる……!)」

「(このスタイルでお姫様は無理っしょ!)」

「(いつになったらウチもあんなん醸し出されるん? あと5年? いや3年? 1ヶ月?)」

と三娘がざわめく。あのね君たち、もうちょっと自重して。あとレイさん短くなる訳ないやろ。

「お待たせしました。契約の説明を手分けしてしましょう。ナリン、お帰りなさい。挨拶もじっくりできてないけど手伝いお願いします」

 棚から目当ての契約書を見つけたダリオさんが控えていたナリンさんに声をかけた。そこは流石に阿吽の呼吸か、ナリンさんも素早く受け取り机に向かう。

「みなさん、重点的にチェックして欲しい部分を教えますので……」

「あ、ウチはショーキチにいさんに教えて欲しい! こっちきて」

「ショーキチさん4番テーブル指名入りましたぴい」

 椅子に腰掛けたレイさんからリクエストが入り、空かさずスワッグが叫ぶ。

「スワッグ手伝わないならせめて茶化すなよ。ステフとルーナさんを見習って。じゃあナリンさん、レイさんは俺が受け持ちます」

 俺は小鳥にツッコミを入れつつレイさんの机へ向かう。言葉に出てきた通りステフとルーナさんは部屋の窓辺に座り、外で働くスタッフや城の兵士に勝手なアテレコをして遊んでいる。

「あ、ショーキチにいさん眼鏡なん?」

 眼鏡をかけつつ難しい文面を読む俺にレイさんが嬉しそうな声をかけた。

「ああ、翻訳のアミュレットは文字まで作用しないからね」

「やったラッキー! あん時はじっくり見れへんかったけどやっぱええなあ。なあ、何かドSなこと言ってみて!」

 そんな無茶ぶりを!

「レイさん、真剣に読んで下さい。真面目にやらない娘には後でおしおきですよ?」

「ほう。まあまあやるやん」

 しまった鍛えられてきた瞬発力関西人の血が裏目に!

「なあどんなおしおきするん? やっぱえっちなん?」

「せんわ! レイさん、こっちは不本意ながらリクエストに応えたんだからそっちもちゃんと読んでサインして!」

「はーい」

 そんな風に俺が苦闘しているとダリオさんが

「ちょっと失礼します」

とリストさんに断りを入れてステフ達の元へ行った。

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