第160話

 昨シーズンまでの成績で言うと、エルフチームは明らかに弱い。強さも発言力も。だから弱いチームがその言い訳に

「センシャの負担が大きくて……」

と訴えているだけ……と思われても仕方ない。

 それに競技としては公平を謳っていてもビッグクラブや強豪チームの方が意見が通り易い、というのは地球でもある事象だ。

「センシャをただ廃止する事は難しいですね。何か代替えできるモノがあれば別ですが……」

 ストックトンさんは沸き上がった声をまとめるように言った。再び鶴の一声ならぬドラゴンの一声が会場を落ち着かせる。

 だが俺は彼の声と目に、

「貴方はただ無策にここへ来た訳ではないでしょう?」

という響きが込められているのを感じ取った。

 ええ、もちろんですよ。俺はシャマーさんの左手を机の下でぎゅっと握った。

「そうですね。本来センシャを行っていた月曜日ですが、そこへ1試合だけ、注目度の高い試合を持ってきて大々的に大陸中へ放映する事を提案します!」

 それが合図だった。俺とナリンさんは事前の仕込み通り魔法の装置を作動させ、前もって許可を貰っていた通り中央の球体へ映像を流す。

「題して『マンデー・ナイト・フットボール』! 憂鬱な月曜の夜をちょっとした楽しみに変える、魔法の仕掛けです!」

 そう言ってシャマーさんが中央を指さすと、華々しい文字や試合、それを魔法のスクリーンで楽しそうに観戦する親子の様子が音楽――提供はもちろんスワッグステップ――と共に流れた。

「『月曜日が大好き』って方はおられますか? 少なくとも、私の生徒にはおりません」

 シャマーさんが芝居がかった声でそう語り出すと、音楽は落ち着いたモノにトーンダウンし映像は魔法学院の教室と登下校の模様を早送りで流すものに変わった。実際にアーロンの魔法学院で撮影したものだ。

「月曜の風景、火曜水曜……ときて金曜。違いが分かりますか? 金曜は行きもヨイヨイ帰りはゆっくり。授業中も落ち着きません。みんな、『週末はどうしようっかな~?』と楽しげです。しかし月曜となると……」

 映像は再び月曜に戻った。こんどはワザと等倍速だ。

「『また月曜日だ……授業ダルいな。放課後? 呑みに行く? 冗談言え、一週間始まったばかりだ。今日はとっとと帰って家でゆっくりするよ』みたいな感じ?」

 シャマーさんがアテレコした通り、映像の中の生徒たちは面倒そうに登校し授業を受けると、さっさと帰ってしまう。音楽も悲しげだ。

「そう、月曜の夜は世界で一番、みんなが家にいる時間! つまり最も試合中継を見て貰える日でもあるのです!」

 その叫びに監督たちがおおっ、とどよめきシャマーさんがドヤ顔になった。教えたのは俺ですが。

 いや伝えたのが俺で、考えたのはたぶん地球のアメリカのTV局の人だ。もとは在宅率の高い日、時間にたくさんの人にNFL(アメリカンフットボール)の試合をTVで観て貰おうと考え出された概念だが、幸いにもこの世界にはクラマさんによって地球と同じカレンダー、生活習慣が導入されている。ならば同じ事が狙える! ……と思って提案する事にしたのだ。

「月曜の夜! なるほど、それは盲点だったかもしれんのう」

 ポビッチ監督が呟く。監督生活が長い彼を始め他の皆さんも主に選手やコーチ人生を歩んできており、いわゆる『勤め人』を経験した方は殆どいない。

 だから学生やサラリーマンの『月曜の憂鬱』等は想像もつかなかったのだろう。

「自分は二ヶ月近く、ショーキチ監督と各国を視察しました。その過程で気づいた事ですが、各地のサポーターはいま自分が応援している種族チーム以外の事を殆ど知りません」

 ナリンさんがここぞのタイミングでチェンジオブペース話題変更をかける。

「……ですが『マンデー・ナイト・フットボール』でしたらサポーターも他のチームの試合でも観るでしょう。そうすれば他チームの知識も増えますし、ひょっとしたら多種族代表のファンになるかもしれません」

 この『多種族が我が代表のファンになるかもしれない』はトロール族やゴルルグ族のような、強いけど人気がない種族の琴線に触れたようだ。表情が分かり難い彼ら彼女だが、目に見えて興味を持ってくれたように思える。

「更にもう一つ。こちらはシーズン後ですが……『オールスターゲーム』の開催を提案します!」

 マンデーナイトの衝撃が冷めやらぬ間にシャマーさんは畳みかけた。俺は心の中で

『行け、シャマーさん!』

と声援を送った。

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