第161話

「更にもう一つ。こちらはシーズン後ですが……『オールスターゲーム』の開催を提案します!」

 マンデーナイトの衝撃が冷めやらぬ間にシャマーさんは畳みかける。これまた予定通りではあるけど。

「なんですかそれは?」

 スターという言葉に強く反応したトナー監督が訊ねる。

「センシャに変わるファンサービスの一種で、ファン投票によって選手をリーグから40名ほど選抜し、2つチームを作って対戦させるという夢のゲームです!」

 その声と共に映像が変化する。今度は試合中心のモノだが、スワッグの巧みな編集によりフェリダエ族の選手の美しいセンタリングからトロール族のFWがシュートを決めるシーン等が流れていた。

「ノートリアスのような混成チームをファン投票で作ると?」

 この質問はライリー監督だ。

「はい! 投票次第ではありますが、各チームのエースが共闘するような夢のチームを作る事ができるのです! それも二つ!」

 シャマーさんがさっと手を振る。その先には俺とナリンさんがそれぞれ並べ直したア・クリスタルスタンドがマットの上に22体、並んでいた。

 今度はダリオさんとリストさんだけではない。他のチームの人気選手――既存の画像しか使えないので仮のモデルとして作成したやつだ――も混ざっている。言わばマットの上で架空のオールスターゲームを開催しているようなものだ。

「わーイ! あたしにもやらせロ!」

 ゴブリンのカー監督が嬉しそうによってきた。俺は場所を譲り、丸めた紙をボール代わりに置いてあげる。

「しゅばばば~!」

 カー監督はア・クリスタルスタンドの選手にドリブルさせて指で紙を弾いてシュートをさせる。楽しそうだ。

「ふむ……」

 他の監督達は彼女のように無邪気に喜べないが、何名かは羨ましそうな顔でその様子を見ている。しかしカー監督、実際の試合だけじゃなくて駒を動かして遊ぶのも好きなんだな。この世界にもウイ○レサッカーのゲームがあれば良い対戦相手になってくれただろう。

「なるほど。そんな試合があると相乗効果でそれも売れそうですね」

 ストックトンさんが嬉しそうに言った。

「ええ。と言うかこれを買わないと投票できませんし」

「エっ!?」

 シャマーさんの声にカー監督が手を止めて驚いた。

「投票……無料じゃできないノ?」

「はい。オールスターの投票券はスタンドにだけついてきます」

 俺は彼女の説明に併せてスタンドと投票券が一緒になったパッケージを取り出して皆に見せる。

「あー! ウチの握羽券と同じだ!」

 トナー監督が嬉しそうに叫んだ。

「まあ、そうなりますね」

 俺はこそっと彼女にだけ告げる。その間にシャマーさんが重々しい感じに口を開いた。

「自分の種族のチームを強化し自分の種族の人気だけを上げる……失礼ですが、それだけを考えていれば良い時代は終わりました。これからは共存共栄の時代です。ア・クリスタルスタンド、センシャの廃止、マンデーナイト、オールスター……。これらは全て、サッカードウ全体の利益を考えての事なのです!」

 言葉の途中からシャマーさんはテーブルの上に立ち、両手を広げて訴えていた。その演説が終了すると同時に監督たちが一斉に拍手を送る。

「なんとそこまで考えておったか!」

「いやもっとも儲かるのは我が種族かもしれんぞ?」

「なんか分からないけど楽しそう!」

 これはいけるかもしれない! 机の上のシャマーさんにスポットライトを当てつつ、俺は影でナリンさんと悪い微笑みを交わす。

「でもウチ、もう水着買っちゃったよ。きわどいの。どうしよう?」

 ふと、オークのサンダー監督が呟く。いやそれはあまり聞きたくなかったなあ。

「あ、ウチもだー」

 トナー監督も呟いた。それに続いて何名かの監督も追従する。

「まあそれはチャリティにでも回せ……」

 俺は慌てて口を開きかけたが、残念ながらストックトンさんの声にかき消されてしまった。

「今回はエルフ代表から素晴らしい提案を何件も頂きました。全て採用の方向で考えますが、センシャの廃止だけは既に水着を購入しているチームもあるので……来季からでどうでしょう?」

「「賛成!」」

 殆どの監督が賛同の声を上げる。その中で、重鎮らしくポビッチ監督が一言付け加えた。

「来季での廃止も時期尚早ではないか? いやいっそどうだろう、提案者のエルフ代表がリーグかトーナメントで三位以上になれたら採用というのは?」

 おい何を言い出すんだこのドワーフ!?

「アタシもそれは良いとおもうぞ!」

 サンダー監督がそれに同意する。ちょっとドワーフとオークの歴史的合意がこんな簡単に!?

「なるほど。それが妥当かもしれませんね。ではそれで決定とし今回の会議は以上とします!」

 青ざめる俺達三人を置いて、会議出席者全員が頷いた。ふと目を合わせるとストックトンさんの口が静かに動いた。

「(す・き・ほ・う・だ・い・さ・れ・た・の・で・す・こ・し・お・か・え・し・で・す)」

 それはトナー監督がやったような、俺にだけ聞こえるメッセージ。しかしより明瞭なものだった。


 一ヶ月後に開始する一部残留を賭けて戦う筈のリーグ戦。しかし絶対ではないがかなり必要な目標として、三位以上というのが課せられてしまった……。


第九章:完

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