第242話
『ただいまの得点は……エルフ代表チーム、背番号10! ダリオ選手!』
オークチームのキックオフで試合が再開し、少ししてノゾノゾさんのアナウンスが流れた。少しして……というのには理由がある。今のは本当にゴールか? だとしたら誰のゴールか? というのが予備審判さんとコミッショナーの方でちゃんと確認され公式記録として残され、試合運営――今回はエルフのホームなのでエルフサッカードウ協会となる――に情報が行き更にそれがスタジアムDJに渡され……という手順を踏むので時間差が起きるのである。
この辺りの「間」がスタジアム観戦での可愛い所でもある。だが俺はそれを可愛いだけで済ませるつもりもなかった。
『ゴールを決めたのは?』
アナウンスから一転、ノゾノゾさんがビジネスライクな口調から楽しげな口調に変わって問いかけた。
『『ダリオ!』』
サポーターが声を合わせてその問いに答える。
『気高き戦姫ー!』
『『ダリオ!』』
『世界いち?』
『『可愛いよ!』』
『どーもありがとっ!』
選手紹介時と同じく、ノゾノゾさんとサポーター……と言うか
この『試合再開してからの得点者名C&R』は地球でもリーグやスタジアムによってやっていたりいなかったりするが、なかなか絶妙なタイミングで行われるもんで得点した側は今のゴールを反芻できて嬉しいし、失点側はさあ反撃だ! って時にイラっとさせられるので面白かったりする。
そしてもちろん、これはホームチームだけの特権だ。更に言うとこの世界ではどこのチームもまだやっていなかったので、俺たちアローズだけのモノと言える。いずれ真似されるとしても。
「良い盛り上がりでありますね!」
ナリンさんが嬉しそうにそう言い、俺も笑顔で頷いた。確かにお客様の非常に楽しそうだ。ノゾノゾさん、サクラの皆さんはじめスタジアム演出部の努力の成果だな。後でステフとスワッグを褒めないと。
「ただ……何か違和感があったんだよなあ」
俺は一人、呟く。原稿は一応チェックしたけど実際のやりとりはエルフ語だし最後の方はよく分からなかったし。
『ただいまの得点者はエルフ代表チーム背番号10。ダリオ選手』
そう首を捻る間にもう一度アナウンスが流れた。今度は対戦チームのオーク語で、の筈だ。その事務的過ぎるノゾノゾさんの口調に思わず頬が緩む。もしこれがオークチームの得点だった場合は更にテンションが低い、ギリギリ無礼にならない程度の冷たい声になっていただろう。
これまた地球でもスタジアムの担当者さんによるが、相手チームの得点時にハッキリと不機嫌さを感じさせる声でアナウンスする方もいて暖かい気持ちになれる所だ。
「この勢いで畳み掛けたい所ではありますが……次はどれで行くでありますか?」
「うーん、流石にスリープ2連発は効かないだろうし……」
ナリンさんに問われ俺はベンチに置いていたセットプレー用のプレイブックをめくりながら考え込んだ。
プレイブックというのは主にアメリカンフットボールで使われるモノ及び言葉で、簡単に言えば作戦書だ。アメフトはサッカー的感覚で言えば殆どセットプレーで進行され、全選手の細かい動きがチームで定められている。俺は軽くそれを剽窃させて貰っていた。
因みに『スリープ』というのは低レベルから使える割にやたらと致命的でファンタジーRPGで有名な呪文の名前ではなく、さっきやったセットプレーの名称だ。FKから直接ゴールを狙うでもなく高いボールを入れて誰かにヘディングシュートさせるでもなく、少し離れた位置の選手にパスしてフリーでシュートを打たせる作戦だ。
と説明すれば単純だが実際に成功させるのは簡単ではない。守る側だってその『少し離れた位置の選手』を普通はフリーにさせない。ましてその位置がゴールを狙える距離で、その選手がシュートの名手だったら尚更だ。
しかし、である。もしその選手がゴールに背を向け、あまつさえベンチの監督と何やら相談をしていたら……? 流石に密着マークをつけたり注意を払い続けたりするのは難しい。よしんば該当選手にパスが出されても、その選手だってボールとゴールに背を向けているのであるし……。
そこがこのセットプレー『スリープ』の狙いであった。なお名前の由来はフィニッシュ担当選手が試合に集中していないかのように、つまり
まあ今回の担当はダリオさんで、彼女は眠っているどころか俺と話し合っているかのようにしていたのだが。そこはまあアレンジである。
ともかく、そうやってオークの守備と意識からダリオさんを消した上で、前もって決まったコースにアイラさんがパスを流し、前もって決まったタイミングでナリンさんが合図を送り、ダリオさんが振り向きダイレクトでシュートを撃って決まった訳だ。
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