第152話
「あ、ボールくれステフ! 早く!」
「つーん」
ティアさんとステフだ。いつの間にかピッチを囲む人壁に混ざったステフがミュージシャン仲間の訴えにそっぽを向いている。
「あんだよアタシとお前の仲だろステフ! 早く!」
「えっと……給与明細番号1234のステファニーさん?」
「あいよ!」
ステフは嬉しそうに返事してムルトさんの足下へ丁寧にボールを投げ入れた。
「くそ、裏切り者!」
「親しき仲にも礼儀ありだぞ?」
「うっせー普段はステファニーって呼ばれるの嫌がってるだろ!」
そう言い争いながらもティアさんは猛ダッシュで守備へ戻る。いくらなんでも同じミスを何度も犯さないか。だがこの特殊ルールにあっても上がり続け、敵陣奥深くまで攻め込む攻撃姿勢は彼女らしい。
「しかしステフもしれっと混ざっているんだなあ」
「あのダスクエルフ、面白そうな事には絶対に首を突っ込むからのう」
ジノリコーチがややビビった声で呟いた。あの日――俺がこのドワーフとザックさんをコーチとして雇った日――にさんざんステフから脅されたりからかわれたりした事を思い出しているのだろう。
「あれ? でもステフがここにいるという事は……させんぞ!」
しかし俺が思い出したのは別の事だった。素早く後ろを振り返る。
「きゃ! どうしたのショーキチお兄ちゃん!?」
そこには学生服のポリンさんの姿があった。
「あ、ポリンちゃんか」
ステフがここにいるという事は学校で護衛任務を行っていないという事になり、それはつまり授業が終わっているという事でもある。
となるとレイさんがここにいる確率が高く、彼女が俺の背後に忍び寄る確率も高い。それを予測して振り返った訳だが……いたエルフが違った。
「うん。ステフさんとスワッグさんに送って貰ったの。ところでお兄ちゃん、『させんぞ!』って何?」
ポリンさんはピッチ脇で野次を飛ばしているステフとスワッグに手を振りながら問う。
「いや、深い意味は無いんだ。ところでレイさんは?」
「レイちゃんは今日も補習だって。何時になるか分からないから先に行っててって」
なんとまた補習か。何の授業か知らないが熱心だな。まさかイケメンの先生に『
「ねえねえ、これはどんなルールの試合なの?」
ポリンさんが興味津々に聞く。
「ああ、これはじゃのう……」
ちょっとスケベ親父みたいな妄想をしていた俺の代わりにジノリコーチが説明を行った。
「え、面白そう! ショーキチお兄ちゃん、私も入りたい!」
ポリンさんは大きく身を乗り出して言った。そもそも彼女は俺が湖畔で色々やらせてた子供たちの一人であり、こういった変則ルールには慣れっこだ。そりゃやってみたくもあるだろう。
「けっこう過酷だけど……残り時間も少ないしいいか。着替えやウォーミングアップは?」
残り時間は悪くないが、準備をしていると殆どなくなりそうだ。
「走ってきたから大丈夫! 下もショートパンツ履いてるし!」
ポリンさんはそう言うと学生服のスカートをばっと上へ上げた。
「ちょ! ポリンちゃん!」
「これこれ! はしたないぞ!」
俺とジノリコーチ、二人の大人が顔を真っ赤にしてポリンさんにスカートを下げさせる。
「えっ? 駄目なの?」
「試合が駄目なんじゃなくてそういうのが駄目!」
見えたのは所謂『みせぱん』だからセーフと言えばセーフなんだが、制服姿の美少女エルフがスカートをたくし上げ太股を剥き出しにする光景は俺とドワーフ幼女には刺激が強かった。
「そうじゃそうじゃ! とりあえずこうしてじゃな……」
ジノリコーチがスカートをショートパンツの中に巻き込ませ、昔のちょうちんブルマのような形にさせた。これで一安心だ、ふう。
……いやこれはこれでなんかアレだな!?
「それじゃ、どうしようかな?」
俺は意志の力を総動員して目を逸らし、ピッチの方を向いた。ポリンさんをどちらのチームで交代出場させるか決めなければいけない。普通に考えれば若手が集まっている赤チームだが……。
「じゃ、ポリンちゃんはこっちで宜しく」
そう言いながら俺は、ポケットからヘッドバンドを取り出して渡した。
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