第19話
「あと人事権。まず選手の選考ですけど、現状やっぱり偏りがある感じですか?」
「そう……ですね」
改めてナリンさんの口から聞く。ドーンエルフはダリオ・カイヤ・シャマーの三名のみ。ティアさんがドーンエルフとデイエルフのハーフで、ルーナさんは人間とドーンエルフのハーフ。後はみなデイエルフと。
「あ、ルーナさんハーフエルフなんだ!」
「はい? ええ。私たちはハーフヒューマンと呼びますが」
それもそうか。しかしこれであの二名のちょっと変わった感じと彼女たちが仲良い理由が分かった気がする。
というかこれは重大な情報だぞ。ヒューマンとエルフの間に子供ができるということはアレとかそれとかもできる訳で。
いやしちゃいけないけどさ。俺は。
「確かにナイトエルフやディープエルフにも門戸が開かれるべきかもしれませんね」
ナイトにディープな門戸を開くって!? いや真面目な話だった。
「え? まだいるの?」
ここでまた新情報。ナイトエルフは「大洞穴」という地下に済む藍色の肌をした種類、ディープエルフは海に済む緑色の肌をした種類とのこと。
「開かれてないのは……偏見から?」
下品な自分を恥じつつ社会的な話に備える。
「偏見は確かにあります。が、それ以上に生活圏の違いが大きいです」
大洞穴というのはこの世界の地底に広がる広大なエリアで、実質もう一つの世界と言っても差し支えがないほどの広さだそうだ。で海の方は俺の世界と同じく塩水で大陸を包み深さも分からないほどの深さ……。
長い歴史を誇りしかも律儀に記録してきたエルフたちにすら、いつから自分たちの一部がそこへ移住し適応し、今どんな生活を送っているかは正確に分からないらしい。
「でもこの世界のサッカードウ協会的には、エルフ代表チームに登録して問題ない感じ?」
「はい。ドラゴンサッカードウ協会、私たちはDSDKと呼びますが、公的な見解ではそうです」
なんやその通称の作り方。じゃなくて!
「分かりました。公的にセーフでもし戦力になり相手方も了承するなら、俺的にはどんなエルフさんでも登用するつもりです。監督の選手選考に口出しせぬこと、くらいは入れさせて貰いましょう」
俺はまた一つメモを付け足した。
「最後に人事権のもう一つ……コーチやスタッフです。こちらも似たような希望があります。有能であれば種族を問わず登用したい。制限はありそうですか?」
俺は控え室の様子を思い出していた。脱ぎ散らかされた下着、着替え中の選手、恥じらう顔……。
違うよね。医療チームやコーチや用具係りのみなさんね。みんなエルフだった。
「制限はありませんし契約書にも条項がありませんが、『エルフ以外を登用する』という発想が無かったと言う方が正確かもしれません」
邪な回想シーンを呼び出している俺を余所に、ナリンさんは契約書をめくりながら言った。
「ですが今回、ショーキチ殿を監督として迎え入れる決断をした時に考えを改めたのだとは思います」
「そうですね。そう願いたい。ここはより強く明記しておきましょう。監督の人材登用については、種族思想信条を問わず口出しせぬこと、と」
エルフ代表の低迷には様々な理由があるだろう。相手チームとの関係もあるし。だが基本的には「組織の硬直化」が一番の理由に思える。
画一的な選手を並べ、古い戦術に固執し、外部の血や知を入れない。聞けばかつては栄華を誇った古豪チームらしいが、それが枷となって進化できずにいたように見える。
「はい。恐らくそういった変革を求めたエネルギーがショーキチ殿をこの世界へ招いたのかもしれません」
大げさな! 理由の半分くらいは
「そうだ、求めると言えば……俺はナリンさんも欲しいんです」
「え!? あ、はい。お伝えした通り私もコーチとして全力で……」
「いや、それだけじゃなくて個人的に欲しいんです。めっちゃ拘束時間長くなる感じで」
「個人的……! 拘束!! 分かりました。覚悟しますぅ……」
俺は窓まで歩き、外を眺めながら説明する。
「チームの活動時だけじゃなくて、個人マネージャー的に雇ってずっと一緒に色んな所へ行きたいんです。一つ、エルフの生息地全てを回って選手を発掘したい。さっきの大洞穴や海もね。危険がない範囲で、ですが。二つ、相手チームのスカウティングもしたい。チーム作りに着手する前に、各地を旅して他チームの身体能力や戦術のレベル、思考まで知っておきたい。三つ、その過程でずっと隣にいて貰って、クロスチェックをしたい。二人で観察する方が確実ですし、道中でこちらの事を習ったり、逆に俺が地球のサッカーの事を伝えたり。何か起きたらナリンさんに監督代行を頼むことがあるかも……あれ?」
振り返るとナリンさんはベッドに俯せに倒れていた。顔は向こう側で見えないが、ピクリとも動かない。
「やべ! 話長すぎたな……寝ちゃったか」
それも当然だな。あんな精神的にくる試合を経て王城へ来て深夜に作戦会議……過酷な一日だったもんな。
「お疲れさまでした。ありがとう」
俺はそう呟きながらそっと彼女にシーツをかけた。
「俺もそろそろ寝るか」
幸い、でかい椅子がある。俺はさっきの個人マネージャー云々だけメモを書き足すと、服を脱いで用意された寝間着に着替えて眠りについた。
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