第260話

 今回の試合にリーシャさんとペイトーンさんは互いの呼び名をかけて勝負をした。というか、しなかった。結果、エルフ代表がオーク代表に勝利したが彼女たちは直接対決しなかったのでその賭はご破算となり、先ほどステージ裏でそれを告げてきた。

 同時に俺とサンダー監督も賭をした。オーク代表が勝てば俺は自分の子種を提供――遠回りな表現だな――し、エルフ代表が勝てばオークの名コックさんを引き抜かせて貰う。つまりどちらが勝っても何かが抜かれる訳だ!

 などと心の中で下ネタを言っている場合ではない。実はこの賭にサンダー監督はある仕込みをしていた。彼女が連れてきた代表スタッフのコックさんたちが、揃いも揃って美女だらけだったのである!

 これまたご丁寧に人間である俺から見ての、美人だ。人族が美形だと感じる種族とのハーフを選抜することでそれを可能にしたらしい。しかも彼女たちはサンダー監督から密命を受けている。

「ショーキチ監督をたらしこめ」

と。

 もし俺がそれにひっかかり手を出しコックさんが子を生んだら、この世界に俺の遺伝子を引き継ぐオークの混血児が誕生する。そしてその子をオークが引き取りオークとして育て上げたらどうか?

 結果として俺の子種を手に入れたのと同じである。つまりどちらが勝っても俺の子種をオークが手に入れる訳だ。それが倫理観が地球とは違う異世界ならではの、サンダー監督の策なのだ。


 と言った内容を、俺はほぼ全て把握しながら誰にも対処法を相談できずにいた。コーチ陣とは腹を割って何でも話し合う、と宣言しておいて恥ずかしい話だが内容が内容だし、まさか

「あまり可愛い子を選んだら俺が手を出してしまいそうで」

などと言える筈もない。

 しかも話を現在及び具体的な所へ持ってくると、『身体からローションを分泌し精のつきそうな料理を出す色っぽいお姉さん』であるマトプレイさんなぞ、アウトもアウト、論外オブ論外だ。

「いやでもシソッ湖は淡水だけど彼女はたぶん海水で……」

「モウしかして、水棲種族が苦手だったりします?」

 しどろもどろになりながらも何とか説得しようとした俺の手を、ラビンさんが優しくとった。

「あ、いあいあはすたあ……」

 俺は混乱のあまり水棲種族どころかその王ハスターを召喚しそうな声を出す。そうだ、この優しい料理長ラビンさんを助ける為に助手を雇うのだ。私心や打算に塗れている場合ではない。潔くローションに塗れるべきだ。

 いや何を考えているの、俺!?

「なにをオタオタしてんだ? 凄い汗だぞ?」

 珍しくステフまでが俺を心配して気遣う。何か言わなければ……と焦る背中に、予想外の声がかかった。


「なんかチョー調子わるそうじゃん! 大丈夫?」

「オタくんだっけ? これ飲みなよ」

 その声に振り向いた先にはなんと、ミニ丈のメイド服に身を包んだ金髪褐色肌のギャルと黒髪白肌のギャルがいた。

 ただしどちらもオークで、例に漏れず筋肉はムキムキ、顔面は豚鼻に鋭い犬歯で地元のヤンキーも裸足で逃げ出しそうな強面だったが。

「(黒ギャルと白ギャル!?)」

「ありがとうございます! ショーキチ殿、頂いてはどうですか?」

 見とれて何も言えない俺に代わりナリンさんが礼を述べ、白ギャルの方が差し出した器を受け取った。

「くんくん。良い匂い! それなに?」

「あーしたち自慢の料理!」

「トーンジールっていうスープなのさー」

 鼻聡く嗅ぎつけたユイノさんが訊ねると、二頭……二人は昔のギャルが良くやっていた逆さピースをしながら答えた。

「美味しそう! 私も貰って良い?」

「全然おけまる!」

「飲んでみ……飛ぶぞ?」

 二人は嬉しそうにそう言うと、自分らのモノらしいブースへ戻り、テキパキと何人分もの器を用意しだす。恐らく、ここの全員分をくれるつもりだ。

「この世界にギャルいないかなあ? と思ってたけど、まさっかそっちからきたかー」

 俺は誰ともなしに呟く。自分がいなくなった後の日本の事は何もしらないが、たぶんもうこんな感じのギャルは残ってない気がするぞ……。

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