第62話
「これは想像以上に困難なミッションだぞ……」
二度目の握手の為に列に並びつつ、俺は思わずため息を漏らした。カペラさんは思ったより話し易い性格のようだが、与えられる時間は短いし先ほどの会話の続きから情報を聞き出す流れに持って行くのも不自然だしと障害が多い。
そして何よりも俺の緊張が半端ない。
「蒸し返すのもアレだから、次はサッカードウの事を聞くか……」
二回目の列は先ほどより短いので、俺は急いでメモを確認する。ナリンさんのとは少し異なり、そのメモにはちゃんと「前回のライブではなく合宿でのことを話す」と書いてあった。
いや駄目なメモの取り方だな。触れてはいけない事をわざわざ書いて記憶に残してしまっている。しないこと、ではなくやること、に集中しないと。
「あ、お揃いさん! またありがとう~」
そんな事を考える間もなくかなり早く再び俺の番が来て、カペラさんの方から話しかけてくれた。しかも覚えてくれているやんけ!
「どうも! 覚えてくれてたんですね! 嬉しいです!」
「だって
カペラさんは少し身を屈めて俺の首から下がるそれを見つめる。そうなのか、あまり分かっていなかった。これらのアイテムを手配してくれた担当者さんに会ったら、改めて例を言っておこう。
などど感心している時間はない! 俺は慌てて口を開いた。
「あの、俺はサッカードウもちょっと好きで、カペラさんにはそちらでももっと活躍して欲しいです!」
「ありがとう! 昨シーズンはあまり出場できなかったけど、せっかく一部に昇格したんだから今季はめっちゃ気合い入れたい! です」
そう言いながらカペラさんは羽根をガッツポーズの形にする。くっ、可愛い……。俺はこんな娘さんから情報を得ようとしているのか……。
「はい! 頑張って下さい! チームが一部昇格したから、俺も余所のチームも見て予習しようと思うんですけど、カペラさんが憧れている、真似したいって思う選手はいますか?」
「あー真似したい選手か~」
と彼女が考え出した所で
「はい、移動して下さいブヒブヒ~」
再びオークさんの爪が俺の肩に食い込んだ。
「え、でも答えが……あ、頑張って下さい!」
「はーい!」
笑顔で羽根を振るカペラさんに何とか声をかけつつ、俺は再び彼女の前から去る事となった。
「俺、何回『頑張って下さい』て言ってるんやろな……」
botみたいだな、と自嘲しつつ三度目の列に並ぶ。幸か不幸かその列はもうかなり短く、俺はすぐカペラさんの前に姿を現すことになる。
「お揃いさん! 三回もありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ!」
カペラさんは明るく羽根を振り俺と握手を交わすが、周囲はやや閑散とした雰囲気だ。
「もう良いですよ」
「……オスブヒ」
カペラさんが例の剥がし役さんに言葉をかけると、オークさんは「限度を弁えろブヒ?」と俺を軽く睨んで裏に消えていった。
そう、これが彼女の現状だった。三度目の握手に並ぶファンは殆どおらず、余った時間で残った人と話していても問題ない程度の人気。
「さっきの質問だけど」
「はい?」
彼女の代わりに少し黄昏ていた俺に、カペラさんは不意に声をかけた。
「『真似したい選手』ね。ちょっと考えたけどあまり浮かばないんです」
その質問は何とか俺が絞り出した『策』だった。カペラさんのポテンシャルや成長曲線は未知数なれど、真似したい選手やそのプレースタイルを知っておけばある程度、予想できると思ったのだ。
まあ目当てが外れた訳だけど!
「いや、一部の選手ってみんなスゴいし、私なんかが真似できる訳ないと思っちゃって。ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ変な事を聞いてすみません」
互いに顔の前で羽根と手を振って頭を下げる。
「でもね、『憧れている選手』だけはすぐに言えます」
そう言ってカペラさんは壇上のある地点を見上げた。
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