第262話

 俺がナギサさんとホノカさんを選んだ事を伝えると、サンダー監督は複雑な顔をしてしばし悩み込んだ。

「よりにもよってブヒキュアかね……」

 場所はセンシャ会場の楽屋裏である。なにせ例のテンポで馬車が洗われる――洗われてない――ので進行は遅い。まだその日のプログラムは終わっておらず、プッシュアップバー腕立て伏せ用の道具やダンベルやビキニが乱雑に散らばる更衣室を様々な様子のオーク代表選手たちが走り回っている。

「駄目だったら賭そのものをノーカウントにしても良いですよ?」

 そもそもリーシャさんとペイトーン選手のも無効になっているのだ。俺たちの方だって無かったことにしても問題あるまい。食堂の人員補充は……また新たにかけよう。

「いやさ。彼女たち、大きなお友達にも小さなお友達にも人気だからさ」 

 そう言ってサンダー監督が説明してくれる所によると、ブヒキュアの二人の料理はオーク代表選手(大きなお友達)に好評なのはもちろんの事、彼女たちが食育教育の為に訪れる学校の子供達小さなお友達にも大人気なのだそうだ。そのキャラも含めて。

「えっ、そんな事までしてんすか!」

 負けた……。チームが学校を訪問し運動や集団行動を教える活動、いわゆる普及部については

「そのうち、必ずやる」

と思ってはいたのだが、手が回らないでいた。いや忙しかったし優先順位もあるしね。

 しかしそっちの方面でオーク代表に負けるとは……。

「子供たちと、子供に人気なお姉さんを引き離すほど俺は鬼畜じゃありません。やっぱりナシに……」

「まあでもエルフの餓鬼どもの性癖を早い段階で歪ませておくのも、アリ寄りのアリだよな! ブヒキュアがエルフ代表に嫁いでも、そっちで子供たちと触れ合う活動させてくれるならいいぞ!」

 サンダー監督、いま酷い事を言ってませんでした!?

「良いんすか!?」

 そう言う俺も、打算がない訳ではない。彼女たちの料理は確実にプラスになるし、普及部を立ち上げる際も力になってくれるだろう。それに何より、あの二人となら俺だって間違いなど起きる筈もない!

「良いだろう! あいつら性格も良いし、夜の方もマックスハートだぞ? いや小さいお友達には内緒だけれどよ!」

 サンダー監督はそう言ってニヤリと笑った。

「ありがとうございます! 彼女たちが楽しく働けるように助力は惜しみませんので!」

 俺も俺で、サンダー監督から見えない位置でニヤリと笑った。


 かくして黒ギャルのナギサさん、白ギャルのホノカさんがアローズのスタッフに加わる事となった。それぞれの監督の思惑と共に……。


 その後もそれなりに忙しかった。食べ比べ組のラビンさん、ユイノさん、ステフは会場に残ってブヒキュアの店の撤収を手伝い、俺、ナリンさん、リーシャさんは王城へ行ってダリオさんやエルフサッカードウ協会の事務員さんを探して契約書を作る。

 それぞれが終わった後にスタジアムと王城の中程にあるレストランの一室を借り切って契約を締結。残り全員+ブヒキュアの荷物がディードリット号に乗るのは無理があるので、スワッグと例の馬車を呼んで分乗して帰った。

 そうやってエルヴィレッジに帰れたのは夕方。この後、例の『マンデー・ナイト・フットボール』のフェリダエvsゴブリンを観てようやく長い、オフでもなんでもなかったオフの日が終わる……という感じだ。

 なお、スワッグはいつものごとくトモダチ手帳にナギサさんとホノカさんを加えてご機嫌だった。しかも彼女らはページへの書き込みも半端なく、もっとも盛れているプリ――正式名称はプラズマティック・リプレイスイメージとかいう魔法の技術で、自分たちの姿を電気的に小さな紙片に定着させる写真のような技術らしい――まで張り付けてくれたので、魔法少女モノのマスコットのようなグリフォンは二人にデレデレであった。

 スワッグよ、お前もまたギャルにちょっと優しくされたら舞い上がる悲しいオタクであったのだな……。

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