第116話
「この方たち……だれ?」
ポリンちゃんだ。もともとテーブルの逆側に座っていた筈だが、いつの間にか俺の真横に立ち隠れるようにしている。
「そうだね、紹介していかないと」
俺は立ち上がり、デイエルフ達とナイトエルフ達の事を交互に伝えていく。
「こちらはリーシャさん。元はWGだけど今季はCFをやって貰う予定だ。スピードとドリブルはチーム随一だ」
「よ、宜しく」
リーシャさんは少し照れながら頭を下げた。
「こちらはリストさん。同じくFWと、たまにCBをして貰おうかと思っている。身体の強さとテクニックを併せ持つタイプだ」
「宜しくでござる。お噂はかねがね。ふふふ、心配しないで良いでござるよ~。同じFWと言えユイノ殿からリーシャ殿へのパスは横取りしないでござる。『百合に挟まるお邪魔虫は14へ行け!』でござるから」
リストさんは笑顔で首を掻き切るポーズをした。
「百合? 何を言ってるの? 14って背番号?」
困惑するリーシャさんだがごめん、俺も時々リストさんの言う事がさっぱり分からない。俺は説明を放棄して次へ進んだ。
「こちらはユイノさん。CFだったけどGKに転向して練習中。リーシャさんとは幼なじみ、てのは知っているのか」
「ちょっと待って……ユイノです! 頑張ろうね!」
ユイノさんは食べかけのケーキを飲み込みながらもたもたと立ち上がろうとする。
「こちらはクエンさん。リストさんと先輩後輩コンビでCBを組んでた選手だけど、その守備能力と戦術理解力を生かして中盤の底をやって貰うつもりだ」
「クエンっす! GKさんっすか!? 難しいシュートが行かないように自分が身を張るっすよ!」
クエンさんはユイノさんが立ち上がるのを待ち、真正面に立って敬礼をした。そして両者数秒、見つめ合った後に呟いた。
「う……」
「え……」
「「大きい! って言われないって新鮮!」」
二人はそう叫ぶとガシっと抱き合う。
「嬉しいっす! みんな無遠慮にデカい大きいっていつも言うから!」
「そうだよね! こっちは身体は大きいけど心はか細くて乙女なんだから!」
そう言いながら抱き合ってピョンピョンと飛び跳ねる二人は申し訳ないがサイズのせいで迫力がある。怖さ半分ほのぼのさ半分。公園で偶然、出くわした
「で、こちらはポリンさん。まだ若いけど右足の精度が抜群なのでチームに加わって貰う事にした。今日、親御さんとの話も終わってスカラーシップに参加するから、レイさんと一緒に学校へ……」
「ホンマ!? こんな美少女さんと一緒に学校行けるん? やった! ウチ、レイって言うねん! サッカーでは何でも出来るけど、見ての通り内気で人見知りな性格やんか? 実は地上のエルフの学校行くの、内心ビクビクでひざガクガクやってん! 嬉しいわ~!」
嘘付けどこが内気で人見知りやねん! と突っ込む間もなくレイさんはポリンちゃんの手を取ってひらひらと踊る。
「きゃ! わ! あの、レイさんわたしポリンと言います、ショーキチおにいちゃんにサッカードウを……」
ポリンちゃんもなんとか自己紹介をしようとするが、身体を回されながらなので覚束ない。
「もう、一緒に学校行く身なんやからレイって呼んでや~。ん? 『ショーキチおにいちゃん』って言った?」
と、回転を止めてレイさんが俺の方を見る。
「ショーキチ兄さん、まだ増やすん?」
「何をだよ!」
「教えて欲しいのだ!」
「私も知りたいのです!」
また増えた。別のテーブルで食事をとっていたアイラさんマイラさん姉妹だ。いつの間にか近くに来て、紹介されたそうな顔をして立っている。
「これ食い放題ってマジ?」
「バランス良く接種するのが肝心ぴよ」
この台詞はステフとスワッグだ。食堂に入りつつ皿を物色し目を輝かせている。後ろにはナリンさんたちコーチ陣もいる。
「ショーキチ殿、明日到着する選手たちの一覧ですが……」
ナリンさんは手に持ったリストを俺に届けながらも、賑やかなテーブル周りを見てやや驚いている。
「ナリンちゃん!」
「ポリン! 今日はお疲れさま。そうだ、これから選手とコーチの関係になるからみんなの前ではコーチって呼んでね」
「なになにどういう関係?」
話し合うポリンちゃんとナリンさんにレイさんが問いかけ、他の皆の目も集まる。
「もがもがすげえな! お、こっちも食べ放題かショーキチ?」
そこへ料理が山盛りになった皿を抱え、既に何口か頬張っているステフが歩み寄ってきた。
「食べんわ! てか行儀悪いから座って食べなさい」
「なんか知らない顔がいるぴよ。俺にも紹介して欲しいぴい」
スワッグも目を輝かせながらトモダチ手帳を取り出す。
「いや、毎回小出しにこれやってたら収拾がつかないぞ! 全員揃ったらまとめてそういう機会を作るから、今日は各自で勝手にやって下さい! じゃあ俺は帰る!」
指揮官が職場放棄で逃げるなんて最悪かもしれない。だがこの場はそうするしか手が無いように見えた。
「あ、それ一番美味しそうなやつ!」
俺はステフの抗議を無視しつつ彼女の皿から大きな肉の塊を取ると、様々な声に手を振って強引に食堂から歩み去った。
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