第14話
「うわあ! あ、審判さん!」
そこには例のドラゴンさんがいた。
「あの……その……お言葉お上手ですね。貴方もクラマさんから日本語を?」
慌てて立ち上がり、腰を低めに対応する。
「いいえ。彼と面識はありましたが、私は魔法で済ませています。この中でも、自分だけは許可しているのでね」
ドラゴンさん……いやドラゴン氏に格上げしておこう、は目を細めて上空を見やった。
「あの……その……色々とご迷惑をおかけしました」
早めに謝っとけ俺。
「本当です。今回は見逃しましたが、二度とああいうズルは許しませんからね」
おわ、怒ってらっしゃる! そして「ああいうズル」が思い当たり過ぎてどれの事か分からない!
「そちらですよ」
意外な事にドラゴン氏は助け船を出してくれた。俺の首から下がったスタッフパスを指さす。
「他人のパスを借りてベンチに入り込むまでは良かったですが、あそこまで派手に立ち回られるとは……」
あはは。確かに、「影の指揮官」どころか「ライン際で叫びまくる謎の人物」だったもんな。
「次回からは、監督でもコーチでも良いですからちゃんと事前登録の上でベンチに入って下さいね」
「俺が監督ですか!?」
「ええ。あんなに見事な策でチームを勝利に導いたじゃないですか?」
「いいや、今回の勝利は運と……選手が頑張ったからです」
「ご謙遜を」
牙と鱗を持った巨大なトカゲに反論するのも気が引けるが……て試合中は抗議して逆らったんだった。演技と言ったがあの時はアドレナリンが出ていたんだな。
「えっとですね……。俺の世界にペシミストな監督がいましてね。彼が言うには『チームが勝った場合、監督がその勝利にもたらした影響は……多くても10%程度だ』だそうです」
「なんと!」
その言葉を聞いて大きな龍は羽根まで広げてかかと笑った。
「その言葉が真実かどうかは……彼女たちに聞けばいいでしょう」
羽根先で選手達を指す。
「クラマさんはこの世界にサッカードウをもたらしてくれました。今度は貴方が『サッカードウの戦術』のイノベーションを起こしてくれるのではないかと思っていますよ」
イノベーション! 胡散臭い台詞だがどちらかというとそんな言葉を知っている事に驚いた。
「俺が……ですか」
「ところでさっきの言葉ですが、負けた場合はどうなんですか?」
「確か『負けた場合は、その責任のすべて』と」
「ほほう」
ドラゴン氏は少し考え込んだ後、少し低い声で言う。
「やはり貴方には今回のズルのペナルティを与えることにしましょう」
「うぇ……まじっすか……」
なんだ、ちょっとネガティブな事を言い過ぎて気分を害したか?
「その、着てらっしゃるユニフォームを下さい」
「へっ!? これで良いんですか?」
俺は鱗を持つ巨体の気が変わる前に急いで代表ユニを脱ぐ。下には何も着てないので寒いがそんな事は言ってられない。
「試合後に、審判さんとユニフォーム交換するのは初めて見ますよ」
「交換……確かに何か着る物が要りますね。何か希望はありますか?」
「えっ? 希望が言えるんですか?」
助かる。交換するのが鱗だったりしたら乳首くらいしか隠せない。美女のビキニアーマーなら兎も角、俺の鱗ブラに需要は無いだろう
「ええ、魔法で出しますので。着たい衣装を頭の中で思い浮かべて下さい」
そんな事もできるのか。ドラゴンの魔法すげえ。
「じゃあ、お願いします。確かに上半身裸でエルフさん達に合流はできないですからね」
俺は脳裏に強気なポルトガル人を思い浮かべた。
「ほほう……それですか」
そう呟きドラゴン氏は尻尾で地面を数度叩く。すると風が俺の身を包み、次の瞬間にはブルーのイギリス風スーツ姿になっていた。
「ザ、モウリーニョスタイル!」
てめっちゃ監督やる気やん俺! とは誰も突っ込んでくれない。
「その姿でエルフのお嬢さんたちへ合流ですか……それはそれで問題だと思いますが、まあ良いでしょう。健闘を祈りますよ」
最後に意味深な事を言い、俺のユニフォームを羽根先に引っかけた龍は飛び去って行った。
そろそろウイニングランを終えたエルフチームが帰ってくる。服装が変わったら見分けが付かないかもしれない。俺は「おーい、俺だよー!」とばかりにみんなに手を振った。
『おお、人間さん! えっ、やだセクシー……』
『ふーん、エッチじゃん』
『みんな、無礼なことを言ってはいけません!』
『そうですよ!』
何か言ってるシャマーさんやティアさんを制止し、ナリンさんが圧巻のダッシュで駆け寄ってくる。後に続くのはダリオさんだ。
「ショーキチ殿! その姿は?」
「審判さんに叱られちゃって、ユニフォームは没収されました。これはその代わりです」
「なんと……」
残念ながらエルフ女子に意外と受けが悪い。監督によっては勝負服なのになあ。って試合後に着る勝負服って何だ!?
『チームが落ち着かないし個人的な話しもあります。ちょっと二人だけで話しましょう。ナリン、翻訳して下さい』
『姫! 二人だけとは……』
『大事な話なのです。監督室で。あちらなら魔法も使えます。あと貴女には勝利監督のインタビューも必要でしょう?』
ダリオさんがキリっとした顔で何か告げる。俺はナリンさんの通訳を待った。
「大事な話があるそうであります。姫に着いて、監督室までついて行って下さい。……もし何か不本意な事を強要されそうになったら、断って下さいであります。自分は、ショーキチ殿と一緒に国境まで逃げる覚悟はあるであります」
最後はちょっと小声で早口だったので分かりにくいが、たぶんそんな内容だった。何を強要されるんだ?
悩みつつも俺は歩き出したダリオさんについて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます