第546話

「よく来たな! 二回目の観戦だって?」

「はい! 先週のハーピィ戦を観てハマっちゃって、たまらず来ちゃいました!」

 ステフの質問に元気に答える金髪姿は間違えようもない。今日も明るい赤色のワンピースで、スカートは膝上だ。そうか、サッカードウ観戦を気に入って今回は自費で来てくれたのか。これは嬉しいな。

 だたまあ、赤が好きなのは別にしてあのスカートでキックターゲットをするのはなかなか危険だぞ?

「ターゲットもみんなのハートも、私たちが射抜いてみせるからねっ!」 

 なかなか自分にマイクが向けられないのに業を煮やしたか、エオンさんが会話に割って入って観客席へアピールをした。貪欲なのは良いがFWで出場した時に前線までパスが来ないと、中盤に降りてボールを触りたがるのは悪い癖だぞ!

 と、その流れで付け加えると彼女には悪い癖がもう一つある。好調を維持できない所だ。前の試合では天才的なプレーをしたかと思えば、次の試合では

「出てたっけ?」

みたいなパフォーマンスをみせる。今回、エオンさんにキックターゲットへの出場を依頼したのも実はそれ絡み。普通に試合へ出せば何時もと同じパターン――ハーピィ戦が良かったので、今度はダメダメになる番だな――になりそうなので、イベントに出してリズムを変えようとしているのだ。

 決して

「前節のアレで人気が出てそうだから」

といった邪な理由ではない。

「じゃあそろそろ始めよっか! アレ、持ってきてー!」

 頃合いを見てノゾノゾさんが口を挟んだ。彼女の合図でスワッグが得点ボードや緩いズボンなどを運んでくる。普段、ジャイアント幼なじみと口喧嘩が絶えない癖に、なんだかんだと従順な奴だ。ありゃ将来付き合うようになったら尻に敷かれるな。

「こっちは着替えに時間がかかるから、ノートリアスチームから蹴ってくれ!」

 早速、スカートの下にズボンを履こうともぞもぞ動くアリスさんの横でステフがそう叫ぶ。一部の野郎の希望、じゃない杞憂は打ち砕かれ、じゃなくて解消された。

「自分がいぐでごわず! うぉー!」

 パトリシアさんがそう叫んで助走へ入る。因みに彼女らの声は少し上を飛ぶスワッグがカメラと集音マイクを向けて拾っている。ほら、やっぱりそれ的なマジックアイテムがあったんだよな。

「「おおおお!」」

 トロールさんの派手な声と裏腹にシュートはへなちょこで、ボールは大きく右に外れ枠にさえ入らなかった。しかし会場は大いにどよめき、地鳴りのような太い声が木霊する。

 いやいや、シュートはコースが重要。派手さに騒いでいるようではまだまだだな……。

「いやああん!」

 と、玄人っぽい感じを出している俺の耳に、アリスさんの悲鳴が聞こえた。見ると、スカートの裾を押さえながらズボンを履こうとして見事に失敗し、グランドに横たわっているエルフの姿がそこにあった。

 しかも赤い布は完全にめくれ上がり、白いアレと健康的な太股が数万の観客の目に晒されている。希望は打ち砕かれていなかった!

「ああ、さっきの歓声はこっちかー」

 俺は額を押さえ頭を上に向けて嘆息する。そうして見た上空には魔法のスクリーンが鎮座しており、カメラはバッチリとアリスさんの艶姿を捉えていた。

「いやはや紅白で目出度いなー」

 俺は額にあった手をスライドさせ、目を覆う。たぶん試合前のイベントから魔法中継が入っているから、この惨状は大陸中に放映されている筈だ。

「なんてあざとい……! じゃなかった、みんなみちゃだめなのっ!」

 そんな叫び声が聞こえ、俺は指に隙間を作る。どうやらエオンさんがアリスさんの上に覆い被さり、痴態を隠してくれたようだ。

 まあ、自分よりアリスさんが目立っているのが悔しい気持ちもあるんだろうけど……。

「こりゃ視聴率、また上がっちゃうな」

 俺は複雑な気持ちで呟いた。俗に、しっかり見えるよりも肝心な部分だけ隠された方がエッチだと言う。しかも今はアリスさんとエオンさんが絡み合っている状態だ。キジマタワーでなくても建設されているだろう。

「アローズがそんなコンテンツだと思われたら困るけど」

 前回はハーピィの爪に切り裂かれたエオンさんのユニフォーム姿、今回はアリスさんのパンチラ。期せずして、お色気イベントを連続で放映してしまった事になる。

「き、気を取り直して次のキック、いってみよー!」

 ノゾノゾさんが空元気を出して叫び、ノートリアスチームのチャレンジが続く。しかし、殆どの客の集中力は、乱れるエルフの美女2名へ向けられたままであった……。



「今回はあまり情報を入れられなくて、申し訳ないとは思っている」

 ほぼ一時間後。俺は準備が終わった選手たちとロッカールームで円陣を組んでいた。

「だけどチームには22個の目と22個の耳がある。口は11個。サブやコーチ陣を足せばもっとだ。よく見てよく聞いて、分かった事を話し合って修正していこう」

 そう続けながら俺はさっき見た事を思い出す。キックターゲット勝負はアローズの圧勝だった。自分たちがあまり注目されていない事に苛立ったノートリアスは的を2つしか射抜けず、トラブルから立ち直ったエルフたちは6枚の的を落とした。エオンさんが5枚パーフェクトで、アリスさんが1枚だ。コオリバー君が邪魔しなければもっといけたかもしれない。

 ともかく、見事なキックと修正力だった。俺たちも見習おう。

「じゃあ、キャプテン」

 俺はそう言って中央をシャマーさんへ譲る。

「みんなー。ショーちゃんの二つの目がどこに向いてたかは言わなくても分かるよねー?」

「あの女のパンツだろ?」

「そうだすけべー!」

 主将の邪悪な前振りに、ボナザさんやティアさんが間髪入れずにのっかかる。今日はサブのGKとSBが積極的に声を出すって良い雰囲気だな……など言うと思ったか!

「いや違います! 俺は真面目に……」

「相手は気の荒い軍人さんだから、上手くジラしてやろー。3、2、1『チラリズム』でいくよ? 3、2、1……」

「「チラリズム!」」

 俺の抗議の声は、例によってシャマーさんの号令とみんなの唱和にかき消された。

「一番盛り上がったのがあのシーンだと思われないように! あげていきましょう!」

 ロッカーアウトする選手に、ナリンさんまでそんな声をかける。

「うう……」

「困ったものですね」

 しかし、選手が全員出払うとナリンさんは眉間を揉む俺に優しく笑いかけてきた。

「な、ナリンさん……」

 やはり彼女は俺の味方だ。きっとさっきのも、選手のテンションを上げる為に無理してのったんだろう。

「アレはパンチラではなくパンモロでした。今回は指摘しませんが、言葉は正しく使わないと」

「な、ナリンさん!?」

 彼女がそんなことを知っているなんて、クラマさんは何を教えているんだ!?

「ちなみにショーキチ殿はどちら派で?」

「しりません!」

 俺はそっぽを向いてロッカーから出る。なんでこう、俺をからかうネタだけは無限に出てくるんだこのエルフたち……。

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