第72話
「オールド・グレート・ミスインタプリテイション」
ナイトエルフの長、支部長クランさんは重々しくそう告げた。
「それが、我々ナイトエルフと他のエルフが道を違えた出来事であり、理由でもあるでござる」
それを聞いた俺たちは途方にくれるしかなかった。
そこまで、彼女との面会はあっけないほど簡単に進んだ。クランさんはエルフの遠い親戚であるナリンさんもステフも歓待し、日本から来た俺を特別に喜んだ。
クランさんはとりわけ俺のゲーム知識に関心を抱き、あるゲームで森○くんが
だが話がナイトエルフ側の事情に移ると口は途端に重くなった。ちなみに彼女の外見はリストさんやナリンさんよりもずっと若くステフと同じくらい、十代半ばの少女のようで、より内向的……端的に言えばオタクっぽい、だが年齢はかなり行っているらしかった。そして声も同じように若く、話し方はリストさんの様に独特だった。また役職名が「支部長」なのも独特だったが、理由を聞いても彼女にも分からないらしかった。
「詳しい説明はまずこれを読んでからにして頂きたい」
クランさんは部屋の奥から仰々しい箱を持ち出してきた。開いた中にはまず何かのアニメキャラが描かれたクリアファイルがあり、その中に一冊の年季が入った本が挟まれていた。
「失礼します」
俺はそう断って翻訳のメガネをかけ、クランさんから本を受け取った。表紙には優しく抱き合うエルフの男性とドワーフの男性の下手な……いや味のあるというか……情熱は感じる絵が描かれている。タイトルは
「滅びの炎より熱い恋い」
と書いてあるようだ。
「(もしかしてこの小説は!?)」
そう思いながらページをめくっていったが、予想は的中した。登場キャラクターは関係者が足を向けて眠れない
「えっと、これは……」
「まず全部、読んでくだされ」
そっすか。全部読まないといけませんか。
「でもみんなを待たせると悪いから要約だけでも……」
「あー大丈夫だぞ。アタシたちも、適当にそこらの本を読んで待ってるから」
ステフが俺の逃げ道を潰すような返答をした。
「そうでござるな。ショー殿の後でみなさんにも読んで頂くでござるし」
「ゲッ!」
やーいざまあみろ。
「ささ、ショー殿はやく! 残りのみなさんには拙者がお勧めの本でも紹介するでござるか……」
クランさんに促されてしまっては仕方ない。俺は覚悟を決め18禁マークが表紙にあるその本を読み進める事にした。
約1時間後。全員が読み終わり、みんなにとって辛い時間が終わった。いや、終わっていないかもしれない。この後ようやく「エルフとナイトエルフの仲違い」の話しを聞けるのだ。
「さて。みなさんに目を通して頂いた書物は、我々ナイトエルフの祖が親友である地上のエルフの長、今では『デイエルフ』と呼称しておるか? へ献上した物であるのだが……それが友人を激怒させてしまったのだ」
クランさんは彼女を囲むように並べた座布団に座る俺たちを見渡して続ける。
「何故だか分かるかな? はい、スワッグさん早かった!」
「男性同士の恋愛を描いてるからぴよ?」
最初に手、いや羽根を挙げたのはスワッグだった。
「いや。彼女はそちらもいける口だった」
あ、件のデイエルフの長は女性だったのか。その情報を聞いていれば間違えなかった……とスワッグは不満げに言い訳しながら座布団をクエンさんにへ渡した。あれ? いつの間に後ろに侍ってた!? やっぱ忍者かこのエルフ?
「はい! 原作では全然、絡みのないキャラ同士だから!」
「違う。ちゃんと出会って挨拶を交わすシーンが3行ほど描写してある」
次に手を挙げ答えたのはステフだったが、彼女の回答にもクランさんは首を横に振った。
「それでアリか! ちぇっ、原作知ってる事が裏目に出たぞ」
おい原作ってどれやねん? と悩む俺の前でステフも座布団をクエンさんへ渡す。
「分かった! その時代はまだサッカードウも伝わってなくて、エルフとドワーフが対立してたんだ! 対立種族同士を仲良くさせたから?」
俺は閃いてそう叫んだ。だがクランさんは三度、首を横へ振った。
「残念。彼女は
外れた。となるとめっちゃ分かった風で叫んだ俺、恥ずかしいな!?
「あの、ショーパイセン」
気づくと、羞恥に顔を赤く染める俺の背後にクエンさんさんが立っていた。
「ショーキチ、早くしろよ」
「進行が滞るぴい」
ステフとスワッグが非難の目で俺を見ている。
「あ、すみません」
俺は急いで座布団をクエンさんへ渡し、改めて床に直接座る。
「ってなんでやねん! なんやこのどこかで見たシステムとスムーズな進行!」
「あの、もしかしてですが……」
遅まきながらツッコミを入れた俺にナリンさんが被った。
「しっ! ショー殿は黙って! ナリス殿、回答をどうぞ」
「ナリンです。この物語の中では情熱的なエルフの青年が戸惑うドワーフの青年に迫っていますが、デイエルフの長はエルフではなくドワーフの方から愛を囁いて欲しかったのではないですか?」
ナリンさんは柔らかい表現で回答したがクランさんは一転、険しい顔つきになりナリンさんを睨みつけた。やがて言い放つ。
「ナリス殿。ファイナルアンサー?」
おい、システムが違うのに変わってるぞ。
「ナリンです。ファイナルアンサー」
ナリンさん俺より対応力あるな。
「うむ……」
クランさんは溜めた。それはもう、みのも○たさんばりに。味方のオーバーラップを待って必殺のキラーパスを通すゲームメイカーばりに。喜んだと思ったら重大な事を告げる為に悩んでるといった風にころころ表情が変わった。
(いい加減、顔芸ウザイな……)と思い始めた頃に、やっと彼女は口を開いた。
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