第131話

 面接はダリオさんが言っていた通り、机や椅子が既に準備された会議室で行われた。たった一人……というか一人で二頭のアカリさんサオリさんを、俺ダリオさんリストさんレイさんステフが机を挟み半円で囲むように座る形だ。

 俺とダリオさんは責任者なので当然だがリストさんとレイさんも同席させたのは、彼女たちがナイトエルフで大洞穴の住人同士としてゴルルグ族に詳しい、と睨んでだ。

 まあ変装には気づいてなかったけどな。そこは船酔いリストさん若輩レイさんいう事で勘弁しよう。

「……それで『俺のせい』と言うのは?」

 アカリさんサオリさんの立派な経歴――一部所属全てのチームのスカウティング経験あり――や優れた技能――変装潜入は既に見たが、分析の方も――をみんなで聴取した後、俺は気になっていた事を訊ねた。

「はい。実はあたしたち、昨年からナイトエルフチームの担当になったんすよ。前から希望しててやっと? 的な。変態的で面白いサッカーするからずっと担当したかった? みたいな」

 変態的で面白い……言葉は酷いが言い得て妙だ。

「でもその、リストクエンて2大スター選手が抜けて。将来10番を背負うの確定なレイも抜けて」

 呼ばれているぞ変態! 唐突に名前が挙がって、ダリオさんの髪の匂いを嗅いだりリストさんポージングを真似したりレイさんしていた二名がはっとゴルルグ族を見た。

「いや~照れるでござるね」

「でもウチ、サッカー続けられてたか分からんし」

 リストさんレイさんは二者ニ様な反応をする。

「それで、やる気が無くなって抜け殻のようになっちゃったんすよ。まあリアルで脱皮する事もあるのでどっちが抜け殻だ? って話っすけど」

 アカリさんはそう言って笑ったが、サオリさんはずっと思い詰めた雰囲気だった。が、ふと立ち上がりレイさんに近づく。

「ちょっとサオリ!」

「レイさん、ごめんなさい。あたしたち、貴女の身の回りの事を知って、ぜんぶ知ってたのに何もできなかった。『蛇の目』から手出しを禁止されてたのは事実だけど、それ以上に無かった。その、勇気が」

 レイさんの身の回りの事……家庭の事情が拗れてサッカーから離れそうになってた事だ。

「そんなん謝らんでええよ! アレはウチのふざけたオカンのせいやし、敵に塩を送る必要なんてないし」

「ううん! 貴女を失うことは、えと、敵味方どうとかじゃなくて、なんか、サッカー界全体にとって、勿体ない。えと、損失だから」

 アカリさんに比べるとサオリさんは確かに口下手のようだ。だが想いは十分に伝わった。

「偉い! よく言えたね~。でももう一人、謝っておく人がいるんじゃない?」

 アカリさんは自分の頭のすぐ隣の頭をしみじみと眺めた。それを聞いてサオリさんが今度は俺の前に来る。

「ショーキチさん、『大洞穴の太陽』をサッカーに連れ戻してくれてありがとうございました。あと、『おまえのせい』とか言ってごめんなさい。あとあと、なんでサッキのACミランなのか分からないけど、面白そうなサッカーをエルフに教えてくれてありがとうございます」

「いやそんな! ところで『大洞穴の太陽』って何? サッキのACミランって……そこまで知ってんの!?」

 俺が否定しつつも驚きの声をあげると、サオリさんは目を空に泳がせて考えるモードに入った。空かさずアカリさんが口を開く。

「すんません、この子、選手にポエティ詩的なキャッチフレーズを付ける癖があるんすわ。『大洞穴の太陽』はレイ選手の事です。あとサッキのは大洞穴に流れ着いたビデオで知ってて、エルフの練習も盗み見で知ってて……た感じです」

 さすがアカリさん説明が早い。

「なるほどそういう意味で。サオリさん、あの、レイさんの不在がサッカー界の損失だって気分は俺も同じで、でもそれ以上に彼女がサッカーする所を俺が観たいってのも本音で、だから本人が隣にいるのに口にするのもアレだけど、私利私欲みたいなもんで」

 俺は正直に自分の想いを話す。

「だからお礼を言って貰う必要はないです。あと俺の勝手でナイトエルフチームのスカウトという、貴女たちの仕事を奪ったのも事実で。そっちの謝罪の必要もないですよ」

「そうそう。ショーキチにいさんは欲望のままにウチを求めてるねん」

 レイさんはもっと言葉を選ぶ必要がある!

「レイさん言い方!」

「言わなきゃいけないこと言えたから帰ろっか?」

 アカリさんはサオリさんにそう言うとさっと踵を返す。

「あ、待って!」

 俺は咄嗟にサオリさん――右手だからたぶんサオリさんだろう――の手を握って止めた。

「貴女たちの能力が高いのも、サッカーに対して真摯な想いを抱いているのも分かりました。是非とも貴女たちが欲しい! 行かないで下さい!」 

 サオリさんが硬直して立ち止まる。蛇頭だから分からないが驚いているようだ。固まる俺たちにアカリさんがそっと声をかける。

「あの~。言うこと言ったから席に戻って面接の続きを受けようかな? と思っただけなんすけど?」

 マジか! 何か家へ帰ってしまいそうな空気だったから思わず手を握って止めてしまったぞ。

「あ、そうだったんですね! すみません、引き留めてしまって! どうぞお座り下さい!」

「いやアレはワザとだな。手を握る口実だろう」

「見え透いた手口でござる」

「やっぱり。ショーキチにいさん相変わらずエリア広いわ。ボックストゥボックスやわ」

 三者はまた言いたい放題言って!

「違うわ! 優秀なスカウト担当が逃げそうで焦っただけだ!」

「みなさん席に戻って落ち着いて。ショウキチ監督はさっきそう言いましたが、エルフサッカードウ協会としてはもう少し確認したい事がありますので面接を続けましょう」

 ただ一名ダリオさんは冷静だった。彼女の言葉でなんとか場が収まり、俺たちはその後無事、ゴルルグ族の面接を終えるのだった。

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