第450話

「まず次の行動を話しましょう。記者会見にはナリンさんとニャイアーコーチが出て下さい。俺は出れないし、挑発的なイヤラシイ質問も飛ぶでしょうから、ザックコーチとジノリコーチはちょっと……」

 隣室に着くなり俺は率直な見解を込めてそう言った。

「おう、うむ……そうだな」

「しかたないのじゃ」

 ミノタウロスとドワーフは少し悔しそうな響きを滲ませつつも頷く。

「会見に呼ばれている選手は?」

「リストさんっすね」

 俺がアカリさんに訊ねると彼女は何も見ずに即答した。おう、PK外した張本人というか張本エルフをご氏名か! 今までも地下の独自試合で散々煮え湯を飲まされてきた相手を、落ち込んでいる時に呼びつけて公開処刑という訳だな?

「なるほど、確かに陰険じゃな……」

「まあまあ。でも彼女を出す訳にはいきませんね。代わりを考えないと」 

 ゴルルグ族の素早いフラグ回収に唸るジノリコーチを宥めつつ、俺は考えを巡らす。

「ニャイアーコーチ、ボナザさんはどうですか? あ、そもそもボナザさんの出席も大丈夫ですか?」

 さっきから何故か上機嫌な顔の猫族に、そういえば確認していなかったな? と彼女自身も含めて問う。

「僕もボナザも問題ない。ナリンと初めてするタイプの共同作業にワクワクしているよ!」

 ニャイアーコーチは耳をパタパタさせながら答える。あ、ナリンさんと出られるのにテンション上がってた訳ね? 婚約会見みたいな気分になっているんじゃないよな? ちょっと不安になってきたぞ。

「ゴルルグ族はフェリダエ族を苦手としていますし、ボナザは経験豊富です。自分も保証できます」

 俺の顔色を見てナリンさんが助け船を出してくれた。そう、あの策謀家の蛇人たちは猫人を天敵としているのである。サッカードウにおいて小細工がほぼ通用しないというだけでなく、種族的な組み合わせとしても苦手らしい。まあ蛇と猫だもんな。

「ありがとうございます。ではそれで。あともう一点」

 それはそうとしてナリンさんの名アシスタントぶりに感謝しつつ、別の話題を切り出す。

「トロール戦ゴルルグ族戦とコーチ陣の皆様にはたいへん迷惑をかけました。申し訳ありませんでした」

 全員の顔を見て深く頭を下げる。

「そんな、監督に非など!」

「し、仕方ないよ! ここの面倒臭さを、あ、あたしも伝え足りなかったし!」

 慌ててザックコーチとサオリさんが俺に頭を上げさせた。他のコーチ陣も同様の気持ちらしく、首を横に振ったり励ますような目で俺を見つめてきたりしてくれる。

「そのお詫びと言うか慰労と言うかなんですが、ナリンさん以外のコーチ陣の皆様に休暇を出したいと思うんです。ハーピィ戦の前日まで」

「「何!?」」

 俺の発表にナリンさん以外の全員が驚きの声を上げる。

「考えたら選手には今回みたいな休みを出してますけど、コーチ陣には無かったじゃないですか? この2試合の負荷も高かったし、ここらで一度リフレッシュして頂こうかな? と」

「それは有り難いがチームの面倒は……」

「ハーピィ戦は大事な6ポイントマッチっすよね!?」

「なぜニャリンは休ませないニャ!?」

 続く言葉に間髪入れず質問詰問が飛んでくる。俺はまあまあと両手で宥める仕草をしながら告げる。

「ハーピィ戦はちょっと特殊な必勝の策があるので、俺とナリンさんで十分なんです。そもそも高校サッカーの弱小チームなんか顧問の先生とマネージャーの生徒だけでやってますし」

 と言ってみたものの皆ぽかんとしていた。いや話は本当なんだが、高校サッカーと言われても分からないよな。

「必勝の策っすか。そう言えばアホウでは潜入工作とかも直々にやってたんっすよね?」

 アカリさんが辛うじて分かる部分の方へ食いつく。

「ええ、それの分もあります」

 握手会ならぬ握羽会への参加が潜入工作と言えるなら、そうだ。俺はナリンさんと視線を合わせ、あの時の出来事――追っ手を撒く為に恋人同士の演技をした――を思い出して互いに顔を少し赤くした。

「にゃんだ!? 今の雰囲気……!」

「いえ、別に……」

「ナリンさんには他の仕事もお願いしているので! 休みはそれはそれでどっかで出します!」

 俺は猜疑の目を俺たちへ向けるニャイアーコーチに必死に弁明する。試合開催の相談を審判さんやマース監督たちと行った際に、ある仕事を彼女にお願いしていたのだ。

「ええ、そうなのよニャイアー。あまり詳細は言えないけど」

 ナリンさんも援護射撃的な事を口にするが、その内容を思い出してかやや後ろ暗い顔になっている。

「怪しいニャー? やい監督、ニャリンにふしだらな事をさせる気じゃにゃいだろうニャー!?」

 が、その顔色を見たニャイアーコーチが当然のツッコミを入れる。ナリンさんその顔と言い方は駄目っすよ! エルフって射撃が得意じゃなかったのか!?

「あの、そろそろ……」

 追いつめられた俺に廊下から救いの声が振ってきた。そちらを見るとゴルルグ族の係員さんが俺たちを見ながら、たぶん困った顔をしていた。

「あ! 記者会見ですか? はい、すぐ行きます!」

 俺はこれ幸いとニャイアーコーチの背を押す。

「おい! まだ説明を聞いてにゃい!」

「まあまあ! ほらニャリンさんとの共同作業!」

「そうよニャイアー! きりっとした顔をして!」

 俺とナリンさんはそう言ってニャイアーコーチをはぐらかし、何とかその場を撤収するのであった……。

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