第27章:ハーピィ戦観戦
第474話
アリスさんと一緒に座席に紙を貼り、大まかな打ち合わせをしている間にハーピィ代表がやってきた。俺は明日、世話になる予定のエルフ女性を警備員として見学エリアへ追いやる、という茶番を演じて彼女と分かれる。
「(じゃあね、ショーキチ先生! 『われても末に 逢わんとぞ想う』って事で!)」
アリスさんは去り際にそっと、聞き覚えのある歌を囁いてスタジアムの外へ消えた。うーん、それは俳句じゃなくて短歌の下の句だし、詠んだ人の生涯を考えると監督である俺に言うのもどうか? ってやつなんだけどなあ。その辺りも今後、教えて行くか。
「そうだよな、今後か。どこでしよう?」
実は打ち合わせの最中、俺たちの協力関係は今回だけではなくなった。これから暇をみつけてはこっそり会い俺は彼女に日本語を、彼女はレイさんポリンさんの様子やエルフの文化史などを教える事になったのだ。相互学習というヤツだな。故に『ショーキチ先生』なのだ。
「練習と授業の終わった後で、どちらの地元でもない所で、か」
クラブハウスや学院に部外者を招き入れるのは最低限にしたいし、会っている所を誰かに見られるのも良くない。だってあんな魅力的な――抜けてはいるが美人だしスタイル良いし、明るく話し好きでもある――女性を連れているのを見たら選手の内の何名かに何て言われるか! あとアリスさんの方にも彼氏さんがいるって言ってたし、余計な火種を起こしたくない。
「ディードリット号の上とかになるかな……」
船の上なら見られても相手は漁師さんか鳥だけだ。ユウゾさんヤカマさん――いつぞやのヨットレースで世話になった釣り仲間だ。考えてみれば俺は色んなエルフに助けられているなあ――といった漁師連中は木訥で結束力が堅い。俺たちを見ても言いふらしたりしないだろう。
後は鳥だが彼らは普通、喋ったりしない。今、眼下で練習を始めた鳥乙女ハーピィを除いて。
「きゃっきゃ、うふふ」
それを喋る、に含めて良いのか分からないが、公開練習に挑んだハーピィの皆さんは可愛らしい嬌声を上げながらサッカーバレーに興じていた。
サッカーバレー、いわゆる手を使わない以外はほぼバレーと同じルールのその球技は、柔らかいボールタッチを要求し高度なコンビネーションと高高度なパスを多用する。まさにハーピィの為にあるかのような存在だった。サッカードウではなくこちらが普及していれば大陸の覇者は間違いなく彼女たちだっただろう。
実際、ボール扱いの感覚を高められるし、レクリエーションの要素もあるので俺たちも練習の一部でよくやっている。が、彼女たち程にはできない。
「スカッと爽や! ってやつだな」
ハーピィ同士のサッカーバレー対決はやっているレベルの高さと裏腹に、あくまでも美しく健やかだった。美男美女ならぬ美女美女の集団が爽やかな汗を流しながら笑顔でじゃれ合う。そのまま炭酸飲料のCMに使えそうな風景だ。
そもそもあれ系のCM、台本や指導は無くて見た目の良いモデルさんたちをビーチなんかへ集めてなんとなく遊んで貰ってそれを撮影している、モデルさん側も需要を分かっててややオーバーに汗を拭ったりリアクションしたりしている、と聞いた事があるが本当だろうか?
「ビーチか。ビーチサッカーとかビーチバレーも良いな」
ハーピィの美女たちが水着姿になり、ビーチでビショビショになりながらそれらの球技に勤しむ……。うむ、売れそうだ。新たな競技としてこの異世界に流行らせるか、もっと簡単にWillUの次の曲のMVとして採用するか?
うーん、ダメだ。今の俺にはクラマさんの様な行動力も、ツテもない。それに何よりエルフ王家と契約し、エルフ代表チームの利益を最優先しなければならない身だ。ハーピィさんにえっぐい水着を着て貰ってビーチバレーサッカーをしたりする興業を考えるのは、デッドオアアライブな監督業を引退してからにしよう。
「ふわ~、そろそろか」
そんな事を考えている間に、ほぼサッカーバレーに費やされた練習の公開部分が終わりそうだった。俺は再び警備員さんの仕事として見学エリアから記者やファンを――アリスさんの姿はもう無い。ハーピィの練習は観ずに帰ったか――追い出し、本練習の偵察へ入る。そうしないと監督引退の時期が早まりそうだもんね。
……それはそれで楽しそうだけどな!
「まだやってる……」
本練習が始まって30分。ハーピィ代表はまだサッカーバレーを続けていた。もちろん、メンバーは組み替え順々に休ませながらではあるが。気合いを入れてスパイ活動していた俺は肩すかしである。
「そもそも練習のレパートリーが無いのかもなあ」
確かゴブリン代表も紅白戦ばかりだったし。
「いや、『勝ってるチームはイジるな』でもあるか」
そう、小鬼のチームは連敗続きで小鳥のチームは好調。同じ昇格チームでも明暗くっきりだ。そして勝っているチームはアレコレと手を入れず、コンディションの維持に勤めるというのが集団スポーツの定石だ。ましてハーピィチームはシーズン中でもアイドル活動を続ける異色の集団。遊ばせリラックスさせつつ、主力の体調を整えるのがベストと言えるかもしれない。
「……と、なると俺の仕事もそっちか」
俺はそう言いながら、トナー監督と話し込むドミニク選手をじっくりと観察するのであった。
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