第126話
「凄い人気があって、他チームのファンからも好かれる選手って意味」
「そんな! めっそうもない!」
今度はリストさん、バタバタと布で顔を仰ぎだした。
「だから一応悩みを聞きたくて連れてきたのもあるけど、実は選手としての華とかポテンシャルの意味では心配してないんだよね。ただそこへ辿り着くまでの間が辛そうならどうにかしたいなー、と」
「いやー、そんな、はっはっは」
頭から布を被ったリストさんの声が遠くなる。
「両方あるって言ってたけどさ。やっぱ約束事が多いサッカードウは難しい感じ? ムルトさんやジノリさんにかなり言われているもんね? リストさんだけ少し制約を緩めようか?」
緻密な現代サッカーでは一人の戦術的な綻びから守備が破られる事もある。しかし俺はここ異世界で少し昔のサッカーをやろうとしている。その条件下であれば前線付近に一人分くらい、組織的動きを行わない
「……見えないでござる」
少しの沈黙の後、覆い被さる布の下から声がした。
「そりゃそんなの被ってたら見えないでしょ」
そう言いつつ俺は視線を遮る遮蔽物を取り除いた。
「目が! 目がーっ!」
リストさんは両目を押さえて船底で身を捩る。なんだ? 俺の聞いてる事はムスカ? いや無視か?
「……目があまり見えないのでござる」
「えっ!?」
指の隙間から細目で俺の見つつリストさんが言った。
「夜の部の練習は大丈夫でござるが、昼はウィスプとかヘッドバンドの色が判別し辛うて」
なっ!? そんな事あるのか? いや、あるよな?
「ああ、大洞穴のナイトエルフさんだから明るい場所は苦手なんだ?」
「個人差はあるでござる。現にクエンはそれほど辛くないと言ってたでござる。しかし拙者、眩しい日はボールも見えないくらいで」
そうか。確かにクエンさんは普通だったし、まだ殆ど練習に参加していないレイさんも日常生活には支障ない様だった。ある意味、そのせいでこの事実に気づくのが遅れた訳だが。
「ごめん! 気づかなくて余計な苦労をかけたね。早速、サングラスを作ろう!」
「サングラスとわ?」
訊ねるリストさんに俺は簡単な説明を行った上で付け加えた。
「俺のいた世界でもダービッツって選手が保護のゴーグルをつけてたりしてたんだ。この世界でどんな性能のが作れて試合で使って良いかまでは調べないと分からないけど、すぐ着手するよ。格好良いのを作ろう!」
少なくともムルトさんが練習の時にスポーツ用のをつけてたのは見たもんな。
「そんな物が! 何から何までかたじけないでござる!」
リストさんは姿勢を正して頭を下げる。
「ムルトさんは眼鏡使ってるし、ジノリさんも鉱山や地下に住むドワーフだし、お二方に助言貰って作っても良いかもね」
「ええーそれはーあー」
泳ぎ出した目をリストさんが再び覆った。
「あー、あの二名が苦手なのも事実なんだ」
「……はい」
なるほど。考えてみれば普通にあの両者と接する事ができるなら、俺とこういう話しになる前に自分で彼女らに相談できていた可能性もあるもんな。
「じゃあなるべくあの二名を含む大人数で集まって相談した上で一緒にどこかの工房へ行こう。俺はもちろん参加するから、その間にこっそり観察してリストさんなりに話し易そうな話題や態度を探ってみてよ」
「うう……難しそうでござるぅ」
「俺がニアに突っ込んでDFやGKと一緒に潰れるから、リストさんはファーからこぼれ球を拾う、みたいな?」
「あ、それならなんとか! りょ!」
FWとしてもほとんど本能でやってるもんな、このエルフ。
「あとは頭数だなあ。俺、リストさん、ムルトさん、ジノリコーチの4人じゃ大人数とは言えないし、他に誰が来て欲しい?」
「ナリス殿!」
ああ、ナリンさんね。ブレないな。
「よし。じゃあどのみちナリンさんにスケジュールを調整して貰うつもりだったからそれで」
「ほうほうフクロウ。ショー殿の行動はナリス殿に管理されているのでござるな?」
なんやそれ? と思ったがリストさんがようやく笑顔になったのでここは良しとするか。
「そっちはそっちで頑張るとして。その分、今日はたくさん手伝って貰うからね?」
長話をしている間に街中へ繋がる運河が見えてきた。俺は魔法のオールを操ってルートの微調整を始める。
「御意! して、本日の任務は何でござったか?」
細かく揺れる船にビビる事無くリストさんは立ち上がって敬礼をする。
「学校訪問とリクルートだよ」
リストさんの三半規管なら大丈夫かもしれない。俺はここで読んだら船酔いしそうだから、と出すのを躊躇っていた資料を彼女に手渡した。
受け取ったリストさんは……船が停泊するまでに十分、酔った。
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