第232話

「問題ありまくりだぴい!」

 俺の説明を聞いたスワッグが嘴を尖らせて――て元から鋭く尖っているな――抗議の声を上げた。

「なんで? 楽しそうな子じゃん! 声も通るしルックスも良いし、アタシは気に入ったぞ!」

「ホント!? 嬉しいこと言ってくれるぅ!」

 スタジアム演出部部長補佐は異議があるようだが、その上役たるステフは秒でノゾノゾさんと意気投合していた。

「ノゾノゾは生粋の風の眷属、俺以上の根無し草で適当な性格をしているぴよ! それにサッカードウやアローズの選手の事は何も分かってないぴい!」

 風の眷属で根無し草、と聞くと脳裏にエアープランツみたいなものが浮かんでしまうが、たぶん関係ないんだろうな。

「知らんのはお互い様やん? 今からでも知ってけばええんやし。なあなあ、ノゾノゾねえさんも学校へ通うん? ナイトプールでめっちゃデカい浮き輪に乗ってたりするん? ワンナイトラブの相手の部屋からエナドリエナジードリンク飲んでそのまま出勤したりする?」

 レイさんがまた物怖じしない性格を発揮してノゾノゾさんを質問責めにする。てかなんだよそのパリピへの偏見。

「普段の僕が乗れるような浮き輪や泊まれる部屋はそんなに無いよ~。あったら良いんだけど。そうだ、こちらも君たちの事を知りたいんだけど」 

 意外と真面目に回答しつつ、ノゾノゾさんはスワッグの方を向いて片手を差し出した。

「トモダチをつかまえて心の中を調べる道具、出して」

「わ、わかんないっピ……」

 その迫力に押されたのか、スワッグはいつもと少し違う様子で答える。

「あ、アレのことだろ! トモダチ手帳! はい、どうぞ!」

 横で聞いていたステフがノゾノゾさんの要求していたモノに思い当たり、すぐさま差し出した。

「あーそうだった! そんな名前だったね! ステファニーさんありがとう!」

「良いって事よ! あ、呼び方もステフで良いぞ!」

「上司なのに?」

「そういう堅苦しいのは無しだ。な? スワッグ?」

 ステフそう呼びかけられたスワッグは反応せず、ただ小さくなって毛繕いを始めた。何だか可哀想でもあるな。ノゾノゾさんから聞いた感じでは彼女とスワッグは『悪戯小僧とそれを諫める近所のお姉ちゃん』みたいな関係だったらしいが。

「ふんふーん。スワッグ、頑張って集めてるじゃん。選手は……この辺りからか。ふむふむ」

 ページを次々とめくるノゾノゾさんではあったが、途中からやや眉を潜めチラチラとこちらを見てくるようになった。

「ねえスワッグ……は忙しそうだからステフ? これってみんなトモダチが自分で書いているんだよね?」

「ああ、そうだぞ。たまに馬とか子供とか字を知らない奴らの代わりにアタシが代筆する事もあるが」

「あーうちどんな事書いたっけなー? 一緒に見てええ?」

 ステフが返事をしレイさんがそれにのっかると、ノゾノゾさんはにっこりと笑ってポンポンと自分の膝を叩いた。

 ってそこかい!?

「失礼しまーす」

 レイさんはぴょんとノゾノゾさんの膝に腰掛ける。いや普通に乗るんかい!

「わお! レイちゃん良い匂い」

「わーい! リクライニング柔らかい!」

 ごめんちょっとツッコミが追いつかなくなってきた。

「でさ、レイちゃん例えばこれなんだけど」

「ほうほう、ふむふむ」

 ノゾノゾさんに促されてレイさんもトモダチ手帳を読み出したが、やがて彼女も眉を顰めてこちらを見るようになった。

「(好きなタイプ……『サッカードウに詳しい』『年下だけど包容力のあるタイプ』『ユーモアとインテリジェンスのある男性』やて!?)」

「(こっちなんてもっと露骨だよ? 『思いやりがある男性なら種族は問いません。人間でも可』だって)」

「(マジで!? アカン、思てたよりショーキチにいさん狙いのライバル多いやん!)」

「(あ、レイちゃんってもそこ狙いなんだ!?)」

 何を話しているのか分からないが、二人は随分と盛り上がっている。レイさん一人で判断してしまうのもどうかと思うが、どうやらノゾノゾさんと選手の相性も悪くない様だな。

「じゃあ大丈夫みたいだし、本契約からスタジアムで読む原稿までステフとノゾノゾさんで詰めて貰えますか?」

「おう、いいぞ!」

「おっけー!」

 俺がそう依頼すると二人は笑顔で応えた。

「あ、原稿と言えば……ノゾノゾさん言葉が堪能なのは分かってますけど、エルフ語の読み書きはどうなんですか?」

 俺は翻訳のアミュレットに頼り切っているが、彼女は自力で仕事のやりとりからエルフ語のラップまでやっていた。しかし文字の方はどれほどのもの何だろうか? 王城での仮契約の時はあまりしっかり確認していなかったな。

「僕は文字もいけるよー! と言うかエルフの国で働くんだから、その辺りを勉強してから来るのは常識だよね!」

 ぐさり! そう、DA・YO・NE~♪ って言ってる場合じゃないわ。

「それは良かった。じゃあ俺は監督室へ戻って仕事するんで、後はお若い者同士で……」

 その場にいるのは年上ばかりだが、痛い所を突かれたくなかったので俺はそそくさと食堂から退散した。

「やっぱ俺もエルフ語を勉強しようかな……」

 でも監督の仕事は忙しいし、俺にはナリンさんもいるし魔法の道具もあるし。そんな言い訳をしながらエルヴィレッジの夜はふけていった……。

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