第403話
「ちょっとウチの名前が聞こえたけど、何をしたげたらええん?」
レイさんはそう言いながら手を後ろで組み、身体を傾けて俺の顔をのぞき込んだ。第二ボタンまで開けた胸のシャツの隙間が自然と広がり、寄せて盛り上がった谷間が目に入る。
「あーいやーその、だねえ」
「アタクシ、音楽室をみたいザマス。案内を頼めるザマスか?」
俺ほど視線を奪われておらずアドリブにも強いステフが助け船を出す。
「あー、それやったら……テル君ビッド君!」
レイさんはそう言ってさっと振り返り、彼女に追いつこうとしていた上級生二名に話しかけた。
「この奥さん……えっと」
「リバーざます!」
「リバーさんを音楽室へ連れて行ってあげてくれへん? お・ね・が・い?」
そうリズム良く言って首を傾げるレイさんはテル君ビッド君よりもずっと音感が良く、官能的だった。
「もちろんだぜベイビー!」
「レイに頼まれたら仕方ねーな!」
ドーンエルフとドワーフの2名は恐らくクールを気取った口調で快諾した。いや思春期の少年らしい格好の付け方は異世界でも同じなんだな。
「やったあ! ウチめっちゃ嬉しい! 好きー」
こちらは自分の魅力を熟知した思春期の少女らしい言い方である。こやつ、手慣れておるな?
「おい、『好きー』だってよ」
「今のは俺に言ったんだぞ!」
「いや俺だ!」
「どちらでも良いから早く行くザマス!」
揉めそうになる2名を急かしてステフが出発した。
「うむ、宜しく頼むぞ!」
俺も後押しすべくエルフとドワーフの少年の背中を押して後へ続かせた。
「ほな、残った……」
「ボーンだ」
「ボーンさんか。失礼やけど、お子さんの名前は?」
「スワ夫だが?」
まさかそんな質問をレイさんからされるとは思わなかったが、俺は咄嗟にちゃんと答えた。設定しておいて良かったな。
「ふーん、そうなんやー。で残ったボーンさんはウチに何したい?」
「へっ!?」
いやしたいとかそういうことはなくて、俗に男はしたい女はいたいと申しますし……。
「したい……あ、質問がしたいねえ! この学院の授業のレベルはどうだね? ついて行くのが難しいとか無いかね? ウチのスワ夫はどら息子なのでそこが心配でねえ」
今更だがイメージの共有の為に、スワ夫はスワッグみたいな性格であると設定している。名前周りは日本の国民的アニメ、青い猫型ロボットのいけ好かないアイツだが。
「んー? ふつー」
レイさんはちょっと考えただけですぐそう言い放った。うわ、真剣に答える気がない態度!
「そうか。じゃあ君の成績は……」
「それより! この学校、体育の授業もレベル高くて余所にはあまりない器具もあるんやで? たぶんサッカー代表チームにも無いかも。見てみとーない?」
なにぃ!? いや話を逸らされている感は満々だが、それは見たい! アローズでさえ所持してないかもしれないヤツってどんなんだ!?
「あー、それは気になるねえ」
「やろ? ほなウチが案内したるさかい、行こっ!」
言うが早いが、レイさんは俺の腕を抱え引っ張り歩き出した。ここで強固に抵抗すると腕が胸に挟まれて――てかこんなに無防備な子だっけ?――しまう! 俺は必要以上に腕と胸が触れないよう、足を早めて彼女を必死に追った。
冷静に考えると運動用の器具という物は体育館の用具室か倉庫となっている建物に納められていて、そういう場所に未成年と二人きりで入る訳にはいかなかった。 もし発覚したら未遂に終わったとしても投獄される、或いは社会的に死を迎えるだろう。
「ちょっと思うのだがね、レイくんとやら……」
俺は彼女が導く先にさっきの予想通り、倉庫が見えてきたので口を開いた。
「道具を見ても見ただけでは何も分からないだろう? それを使う所を見ないと。何名かデモンストレーションができるメンバーを集めてくるのはどうだろう?」
その言葉の中程で俺たちは倉庫へ付き、言い終わる頃にはレイさんが素早く横開きの扉を開けていた。
「おお、中は割と普通で……」
地球の体育倉庫と変わりない、と言い掛けて俺は止めた。
「うん、言われてみればそれもそうやね」
「何が?」
「メンバーを集めてくるの」
あ、そっちか。そりゃそうだ。俺は中をキョロキョロ見ているレイさんに得意げに言った。
「だろ?」
「ほな、ご足労やけどボーンさん、あの奥の駕籠に入ってるボールだけ表に出しておいてくれはる? ウチ、呼んでくるし」
レイさんはそう言って隅の駕籠を指さした。なるほど、役割分担か。か弱い――と一応、言っておこう――女の子のレイさんが器具を運ぶのも大変だし、部外者である俺が校舎へ戻ってメンバーを集めるのも苦労するしな。
「ふむ、よかろう」
俺は腕まくりしながら頷き、中へ数歩入った。
「あ、駕籠の向こうの取っ手なんやけど……」
「なんだい? 外れ易かったりするのかい?」
レイさんの声を後頭部に聞きつつ、背伸びして奥へ目をやる。
「ううん。外れ難いようにして……と」
そんな声と共にガチャンという音と共に背後で扉がしまり、中が真っ暗になった。
「え!?」
「はい、いっちょ上がり!」
と同時にレイさんの嬉しそうな声と、強い衝撃が振り返った俺に直撃した!
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