150話『過去のトラウマが殺しに来る』セリカ編

セリくん達がセレンに会いに出掛けてる間、私はお留守番だ

天使はリジェウェィとたまにお話するのも楽しいみたいで私は天使の笑顔を見守っていた

「リジェウェィさんスゴーイ!!なんでも知っててなんでも出来るんだね!」

天使がキラキラと目を輝かせて驚くのも無理はない

私だって、リジェウェィの話すコトややるコトに凄いの一言しかないもの

似てないけど確かイングヴェィのお兄さんって設定だったよね

前世の記憶がある私はリジェウェィのコトを知っていた

あの時のイングヴェィは…私の知ってるイングヴェィじゃないように見えて…

「あっ誰か来たよ?誰だろ~?」

私は聞こえなかったけど、誰かが訪ねて来たコトを察した天使はもうそっちへと気が向く

知らない人かもしれないでしょって止める間もなく天使はエントランスの方へと行ってしまった

「もう天使は…でも、リジェウェィもなかなか懐かれてるね」

「何故だろうな、オレは子供は苦手なんだが」

リジェウェィは苦笑しながらも、いつも天使が来ると嬉しそうにするのを私は知っていた

天使に微笑まれたら拒絶なんて出来ないか

……心が汚れてない限り(レイとか)

天使の魔法はリジェウェィにとってまだまだ興味深いコトみたいだし、天使は天使で構ってくれるリジェウェィに心を開いてる

そんな天使はこの城の人達からも好かれている

明るくて人懐っこくてよく笑うから、みんな可愛がって甘やかす

そんな環境のせいか、天使の大切な人がいる世界に帰った時に

「どんどん幼くなってない…?」

って言われたコトにショックを受けたとか怒って泣いてたな~

でも、どうしても私達は天使が子供に見えてしまいどうしても子供扱いしてしまう

見た目はセリくんなのにね

天使は大人だもんって威張るけど、そこがもう子供なのだ

「それじゃあ、私は天使が心配だから行くわね

変な奴が来てたら天使に悪影響になっちゃうから」

「気配からして悪いものではないが、良い気配だからと言って悪影響ではないとは限らないものだ

天使を頼んだぞ、セリカ」

リジェウェィに言われて私は頷き天使を追い掛けた

エントランスに来ると天使の前にいたのはラスティンだ

「ちぃーっす!セリカ!」

「……どちら様で?」

すっかりキルラに影響されたラスティンはラナみたいになっていた

「そんなセリカ冷たい!?」

天使を私の傍へと引き寄せラスティンに近付かせないようにする

「わかってるわ、今週の食事でしょ

ラスティンは人間を食べないと生きられない身体だものね」

「そっすそっす!ありがたやセリカ!」

前からのコトだ

ラスティンは人間を食べないと生きられない

だから私は定期的にラスティンに自分の腕をあげている

私の腕は回復魔法でいつでも食べられる、なくならない食料だ

天使に中庭で遊んでいなさいと伝えて、私はラスティンを連れて自分の部屋へと入る

「たまにはもっとお肉付いてるところがいいな~?」

私が腕を切り落として上げると物足りないってチラッとラスティンは私の足を見る

「それで十分でしょ」

腹を満たすのは人間の肉じゃなくてもいいみたいだから腕1本で十分

普段は動物の肉を食べてるみたいね

「セリカは細いけど、肉がないってわけじゃないから文句はないんすけど

もっと食べたいって言うかぁだってセリカの肉ってこの世で1番美味い!

見た目の肌はきめ細かくて真っ白でスベスベサラサラ、肉はなめらかで柔らかくてサラッとした真っ赤で綺麗な血が喉の渇きも潤いながらの…とにかく最高に美味しい味!!」

「あらそう、褒めて貰って嬉しいわ」

白虎に人肉評価されてもね…

「セリカは怒ってる?僕がキルラの仲間になった事」

白虎は私の素っ気ない態度が不安になったのか恐る恐る聞いてくる

「怒ってないわよ?

ラスティンが急に知らない人みたいに変わってビックリしてるだけよ

(ある意味知ってる人みたいに変わって驚いてるのかも)

ラスティンが変わってもラスティンなコトには変わらないのにね」

不安にさせて申し訳ない気持ちになった私は私の腕を加え口の周りを血塗れにしたラスティンの頭を撫でた

こんなグロいの天使に見せられない…

それでも私がニコッて笑うとラスティンは安心して笑ってくれた

その笑顔はいくらキルラに悪影響を受けて変わったからと言っても、私の知ってるラスティンと変わらない顔をしている

「他の肉だと骨は残すけど、セリカなら骨まで食べれる!!」

「はいはい、そんなに急いで喉に詰まらせても知らないわよ」

ふふっと笑ってラスティンを見ていると、急にドアが乱暴に開けられた

そこから数人の骸骨天使が部屋へと流れ込む

「うーん、私は鈍いから気付かなかったわ

困ったわねこの状況」

人差し指を頬にあて、困ったな~と笑う

この骸骨天使は私だけを狙ってる

神族の僕である骸骨天使が他の人を無意味には襲わないとわかっているから

天使にもウサギ達にも他のみんなも危ない目に合わないとわかってる余裕かしら

って、私は殺されちゃうんだけれど

「全然困ってるように見えないけど!?

セリカ下がって、僕が守るから!」

ラスティンは私の前に立つ

その姿はいつかの逃げ出したラスティンとは違って頼もしく見える

ラスティンはパパに牙も爪もないならと棒を渡され棒術を叩き込まれたみたい

気が弱かったラスティンも白虎だったから元々戦闘力やセンスも高くあっという間に会得し、今では何故か魔族の四天王にまでなるほどの強さを持つ

これなら和彦もラスティンのコト見直すね

「セリカちゃん!!大丈夫!?」

部屋の外から天使の声が聞こえたかと思うと天使は部屋の中で群れる骸骨天使を踏み蹴って私のところまでやってきた

踏み蹴られた骸骨天使は、天使の意外な脚力に骨をバラバラにして地面に伏してる

「意外に…強かったのね天使」

何も出来ないか弱い子供だと思ってたから

あの骸骨天使が背後を油断してたのもあるだろうけど、骨をバラバラにするほどの力は結構強いような…

ちょっとやそっとじゃバラバラにならないのに

「えっ?当然でしょ、せりかちゃんと2人暮らしだったもん

男の俺が強くないといざって時に守れないもん」

えっへんと天使は威張る

私が見た限り、せりかさんの方が強かったような……

「俺が倒してあげるね、それでここから逃げようセリカちゃん」

そう言って天使は残りの骸骨天使へと立ち向かう

その時に天使が通り過ぎたすでに倒れていた骸骨天使が復活して、天使を捕まえようとした

「あっ…」

骸骨天使は光魔法じゃないと倒せない

不死身だから…

私は天使を捕まえようとする骸骨天使へ走り跳ぶとその顔を踏みつけもう一度バラバラにして床へ寝かせる

一度天使にバラバラにされて脆くなっていたみたいで私の力でも簡単なコトだった

「まったく、天使は危なっかしいわね」

「あっ…セリカちゃん…ありがとう~危なかった~!」

天使はまた私しか見えていなくて、笑って私に抱き付いてくる

だからって骸骨天使は待ってくれないからラスティンが払いのけてくれた

「天使よ、セリカが骸骨天使の顔を踏みつけたのを見た?

あれがご褒美と感じたら大人って事よ」

ラスティンが天使に妙なコトを吹き込もうとしたからひっぱたいた

天使はどういう意味?って首を傾げる

「どうせ叩くなら足で踏みつけてくれたら良いのに!?

手も良いけど足の方が興奮するから!?」

ラスティンはいつの間にか変態に目覚めていた

キルラがSならラナはMだったなってコトを思い出したわ

放置しておこう

「うーん、ここを突破しようと思ったけど次々と骸骨天使が沸いて来るね」

天使はピンチな状況でも笑っていた

その笑みはここから逃げる方法があると確信している

私をひょいっと抱き上げて天使は窓へと足をかけた

「えっ!?ここ死ぬ高さだよ!?」

下を見ると足がすくむ高さ

「大丈夫、だって俺は空を飛べるもんね」

そう言って天使は私がまだ心の準備が出来てないって言うよりも先に窓を蹴って空へと飛び出した

「僕は置いてけぼりかい!!」

「ラスティンは狙われてないでしょ、謝ったら見逃してくれるよ……たぶん」

「たぶん!?」

アハハと天使が笑う

空が良く似合う翼…昼間の真っ青な空でも綺麗なのに、夜になったらこの真っ白な羽根はどんなに栄えるだろうか

「天使…本当に大丈夫?私、高いところって苦手なの…」

天龍に乗った時は天龍の背が大きくて下を見なくてすんだけど、こんなに天使の細い腕だけで支えられてると思うと不安になるわ

天使を信じてないワケじゃないけれど

私はその不安からぎゅっと天使に掴まるように抱き付く

「任せて、セリカちゃんを安全なところまでちゃんと連れて行けるから」

「うん…」

いつも私にベッタリで子供な天使なのに、はじめて心強いと思った

私は…色んな人に助けられているんだな

昔じゃ…考えられなかった……

過去の私は……過去の……私……は……

「セリカちゃん……?」

影の影響が強く感じる

手に握る遊馬から貰ったお守りの鏡は真っ黒にくすんでひびが入って今にも割れそうになっていた

「セリカちゃんどうしたの!?大丈夫?しっかりして!!」

私の過去が…私のトラウマが、私が私を…殺しにやってくるわ……

天使の呼び声も遠くなって私は心の重みに耐えられなくなって意識を失った



次に目が覚めた時は、私の気分は底についたかのように真っ暗で重かった

「セリカちゃん…起きた?」

「イングヴェィ…?」

目の前に貴方の姿があって、私の心は少しだけ和らぐ

「天使は…それに骸骨天使が」

私が起き上がろうとするとイングヴェィはまだ休んでと寝かせられる

あの後、イングヴェィ達が帰って来て光の聖霊の力で骸骨天使は掃除されたみたいで

その骸骨天使を操っていた神族は姿を現さず去ってくれたようだ

天使もラスティンも、他のみんなも無事だと聞いてホッとする

やっぱり…神族も骸骨天使も、狙いは私だけ

「こんな大変な時に…ゆっくりしてられないわ…」

神族との問題…まだ解決したワケじゃないってコトはわかってる

「今するコトは何もないよ」

イングヴェィは私の手をそっと握る

「お守り…もう限界が近いんだね」

遊馬のお守りが壊れたら私はきっと死ぬわ…

影の力でトラウマを強烈に引きずり出され、私は耐えられなくなって自ら死ぬでしょう

影は時間がかかればかかるほど強力になるみたいだ

だから遊馬のお守りも徐々に壊されていく

それほど影の力は強力な…タキヤが私を…セリくんを自殺させるために植え付けた呪い

「……長生きした方よ…運命だもの

私わかってるの

いつもこの年齢で死んじゃうってコト

また運命通りになったね…」

諦めないって決めたのに…弱くなっていく

「そんなコトない!!こんなの君の運命じゃないよ!?

セリカちゃんの運命は俺と出逢って恋をするコトなんだよ

それがやっと叶う時に…死ぬなんて……そんな運命絶対違うから……」

イングヴェィの綺麗で深紅色の瞳から涙が零れる

いつも笑ってくれるイングヴェィが好きなんだけどな…

「嬉しいな…嬉しいよ…イングヴェィ

でも、私には貴方との運命があまりにも綺麗すぎて…それが怖い

こんな私が……」

貴方まで穢してしまいそうで

向き合う勇気がない

もっと…綺麗な私だったら、迷うコトも悩むコトもなかったのに……

「絶対に…セリカちゃんのコトは俺が助けるから

そして、俺は必ず君を幸せにする

いつも言ってるでしょ

永遠に君を愛してるって、過去も未来も現在も俺はセリカちゃんに恋してるの

セリカちゃんがいないと生きていけないくらいにね」

イングヴェィは涙を溜めながらも笑ってくれる

私の大好きな太陽みたいなキラキラした明るい笑顔

「セリカちゃん!イングヴェィ!」

そんな時、ドアがノックなしで開いて天使が入って来る

「せりかちゃんのもうすぐ旦那様になる人に教えてもらったよ」

「本当?天使は偉い偉いだね」

イングヴェィが天使の頭を撫でると天使はウサギと同じ顔をした

私は話が見えないと首を傾げていると、天使が甘えるように私の膝に頭を乗せる

「旦那様に、過去に行く方法を聞いたんだ

セリカちゃんを助けたいって言ったら

旦那様が魔法力を分けてくれたから後は俺の魔法力でなんとか可能だよ」

せりかさんの旦那様になる人も人間じゃないのか…せりかさんは人間みたいだけど

一体どんな素敵な恋愛をしたのか、自分とそっくりな人のコトはちょっと気になるな

「俺がセリカちゃんのトラウマをなんとかしたいって言ったんだ

トラウマって過去のものだから」

「それでね!せりかちゃんが殺された現実に変えられたコトがあって、俺は旦那様と一緒に過去に行ってせりかちゃんを助けたコトがあるんだ

過去に行く方法は旦那様が知ってるから教えてもらったよ」

天使にも天使の世界の人生があったのね

天使は旦那様が教えてくれたってメモを見せた

メモは別世界のものだからそのうちなくなっちゃうから早くねって天使は言う

「ありがとう天使…俺は今からでも過去に行きたい

セリカちゃんを少しでも早く助けたいから」

「旦那様の魔法力と俺の魔法力を合わせて2人しか行けないから、イングヴェィと俺で行くってコトでいいよね?」

私は遊馬のお守りをきゅっと握った

まだ少しなら時間がある…

それなら

「天使…貴方が私を助けたいって気持ちはありがたいけれど、それ私が行ってもいい?

自分で、過去に…トラウマに、けりをつけたいの」

天使は私の顔を見て、ハッする

「でもセリカちゃん、過去を…トラウマを目の当たりにするのは君にとってそれこそ死ぬほど辛いコトじゃないのかな?」

イングヴェィは私を心配してくれるけど、私はどうしても行って過去を変えたいの

「セリカちゃんがイングヴェィと一緒に行くべきだよ

俺もセリカちゃんを助けたい一心だったけど、イングヴェィとセリカちゃんが2人で行かなきゃ意味ないコトだもん」

天使は私の手を握っていつもの笑顔を見せる

「大丈夫、イングヴェィはセリカちゃんを必ず救ってくれるから

また戻ってきたら、おかえりって抱き締めていい?」

天使の笑顔に…私は笑えなかった

天使の手を…私は握り返せなかった

自信がなかったから……

私が、笑ってただいまって天使を抱き締める自信がないから

「それじゃ、さっそくはじめよっか

2人とも気を付けて

イングヴェィはセリカちゃんのコト必ず救ってね、約束だよ」

「うん、約束する

必ず救って帰って来るから」

イングヴェィの言葉も誓いも力強かった

そして、イングヴェィと私は天使の魔法で私の過去へと送られる

私の前の世界の…ずっとずっと過去へと

そう、私が物心つく子供の頃のそんな昔へと



気がつくと懐かしい景色に驚いた

子供の頃の景色とか覚えていないからそれに驚いたんじゃなくて、前の世界に来てしまったコトに

懐かしさと、この世界の空気や雰囲気が嫌な過去を鮮明に頭をよぎっていく

「セリカちゃん…大丈夫?」

遊馬のお守りを握りしめる

大丈夫…まだ私は大丈夫よ

「えぇ…それより、イングヴェィはこの世界にいる私に会いに行って

私は自分には会えないから遠くから見てるわね」

この世界の私からしたら私は未来の自分

下手に接触しておかしくなるコトは避けたい

イングヴェィに私はあの家にいると指を差す

「わかったよ、セリカちゃん

無理はしないでね」

イングヴェィは私に心配の言葉をかけて過去の私に会いに行った

これから私は自分のトラウマに向き合うコトになる

ふと、私は背後に人影があるコトに気付く

振り返るとそこには義理の父親が立っていた

「あっ…うっ……」

声が出ない…身体が固まって動けなくなる

私の…最大のトラウマ…

私の手の中にある遊馬のお守りが粉々になるのを感じると

父親は私の長い髪を掴み自分の方に引き寄せた

「何処行ってたんだセリカぁ!?」

「痛い…やめて……」

引っ張られる髪を掴み引っ張り返すと、大きくて固い手が頬を激しく叩いた

「親に逆らうってのか!?こっち来い!躾直してやる!!」

痛い…頬が…髪が…力が抜ける

痛みも怒鳴り声も私を身動きすらさせなくなる

怖い……怖い……痛いのは嫌…

言うコト…聞きたくなんてないのに、頭も心も身体も幼い頃から支配されて

何一つ逆らえない

私は父親に引きずられるようにして連れて行かれる

もう終わった過去が、また私に降り注いぐ

私を殺しに…もう一度



-続く-

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