第8話『運命の永遠の恋人…世界は真っ暗だよ』セリカ編

私の見えている世界は生きているのか死んでいるのかもわからない

白黒みたいにとても暗いもの

全てに色はついているハズなのに、何が暗いと感じるんだろう

人の瞳に輝きなんてなくて、不快に感じる重たく冷たい空気

心が引き裂かれるような世界

天は常に雲に被われて、太陽の存在は知っていてもそれを実際に見たコトはなかった

光ってなんだろう

明るいっとどんな感じなのかな

天にある太陽はどんなに温かいものか…

考えても想像しても私にはわからない



いつも下を向いて地面を見て歩く

汚いこの世界には足元にはゴミも危険もある

躓きたくなかったら、ちゃんと気をつけて歩かなきゃダメなんだもん

だけど、今日はなんとなく空を見上げながら歩いていた

1人でいると何もしてないと、たくさんのイヤなコトを思い出して

頭がおかしくなりそう壊れた心がまだ苦しみを与えてくる

助かりたい救われたい守られたい

強くならなきゃ生きていけないのはわかるケド、弱い私がそう願うコトはいけないコトなのかな…

みんながみんな強くなれるワケじゃない

無理して強がるコトに意味なんてないのに

弱いなら、弱いなりの生き方があるんだよ

でも、この世界じゃそれは通用しない

強くなれなくても、無理に強がるコトはできる

それが意味のないコトでも…私自身の負担になっても……

弱い者を守る…何故か私の深くある心にずっと根付いているの

考えながら上を見ていると曇り空の隙間からキラリと小さな何かが光る

「何かなあれ?」

目を凝らしても小さすぎて何かわからない

まぁどうでもいいかって思ってる間にその小さな何かが落ちて地面に衝突すると割れた

小さな割れる音とともに真っ暗な紫色をした煙みたいなのが出てくるのが見えたケド

それは一瞬で無色透明になって見えなくなる

なんだったのかな…と首を傾げるだけで

面倒くさいコトが大嫌いな私はやっぱりまぁいいかとなってしまう

いや、これは面倒くさいコトじゃなくてどうでもいいコトだ……ね?

その場から立ち去ろうとした時、世界の音が急変する

今までの騒がしさと違って、世界が寿命より早く終焉を迎える音……

少し先の大通りからたくさんの人達がこっちの道へと逃げ走ってくる

何があったのと逃げ回る人達の中、私はその場から動かなかった

「げひげひげひひ~~!!皆刺し殺~~し!!」

あ~なんだこれか、よくある通り魔ね

この世界じゃ犯罪は珍しいコトじゃない

日常の1つとして存在しているくらいよ

私も…何度も色んな犯罪に遭遇したコトがあるわ……

運良く今まで生きているのが不思議

いや、運悪くだ

こんな世界で私は生きたくないもの

「あらら~被りました?

同じ場所、同じ時間、同じ事をする人がいるなんて」

「げひひ?」

数人を刺し殺した人間が2人、わざわざ名乗り出て同類に存在を示す

「ちょっと待ったーー!!オレもオレも!!」

逃げ惑う人達を待ち伏せして効率よく刺し殺して名乗り出た奴

一度に3人も…?

いくら犯罪が日常茶飯事の世界だからって、3人の通り魔に遭遇するなんて偶然

「あっ」

3人目に名乗り出て、先の2人に走り寄ろうとした奴はその途中に近くのビルの1階が突然爆発して巻き込まれ呆気なく死亡

他にも逃げていた何人か巻き込まれて……

離れていた私は爆発に巻き込まれはしなかったケド、その爆風に押され尻餅をついた

いたた…今度は爆発…?通り魔3人(1人死んだケド)でもヤバイのに、これも偶然?

うっ最悪、地面に落ちてたゴミについた金具にスカートが引っ掛かったみたいで少し破れてる

「綺麗な女ー」

爆発に気を取られ、そう声をかけられるまで気付かなかった

通り魔の男…もうただの殺人鬼だと思うケド

その男の1人は私の目の前まで来て刃渡り30cmはあるよく切れそうな刃物を向けて見下ろす

「触りたくなるくらい綺麗な……」

男は私の手を掴むと袖をまくる

私の白い肌が冷たい外の空気に晒されてイヤな感じがする

「でも、傷もアザも沢山ある

綺麗なものには傷を付けたくなる考えの奴は沢山いるから当然だなぁ

こんな綺麗に見えても、もうあんたは綺麗じゃないんだろね」

その言葉に私の心が引き裂かれそうなくらいの痛みが思い出すとともに感じる

苦しみで全身が冷たくなっては目の前が真っ暗になるような

思い出したくないコトたくさんある

もうこれ以上、苦しみたくないのに

毎日毎日毎日毎日…毎日ずっと……辛いよ

「僕はこの刃物で人を刺す専門だったが、目の前にこんな綺麗な女がいたら楽しまないわけにはいかないでしょー」

急に男は私を押し倒して空を隠した

「本当不思議、色気があるわけでもなく

この神聖な雰囲気が汚したくなる」

犯罪が日常茶飯事だからって…慣れるワケじゃない

だって、イヤなコトだもの

いつも恐い思いをするたくさん死ぬほど我慢して、早くイヤなコトが過ぎ去ってと祈るだけ

震える身体は心に伝わって苦しむ

いつも何もできないのか

私はとても弱いから、抵抗した所で…負けるのは当たり前のコト……

ふと、私は地面についていた右手が何かに触れているコトに気付く

恐怖から逸らしたくて目をつむっているからそれが何かわからない

なんでもいい、この恐怖から逃げ出せるならなんでも……

私は縋る思いで右手に触れる何かを掴んだ

少し重い何かを右手が掴むと、私の意思は関係なく右手が勝手に動いて空を切り開く

「何…これ……」

右手が勝手に動いたコトに驚いた私は目を開けると、私の上にいた男の身体が真っ二つに切り裂かれて視界に空が広がる

なんか生暖かい……

自分の右手を見てみると血のついた刀が握られている

自分の姿を見ると男の血がもろにかかってまみれている

ビックリした私は刀を放り投げるように離してしまった

「人を殺してしまうなんて……」

はじめてだった人を殺したのは

私は放り投げた先に転がる刀を眺める

……でも…助かった……

最後まで恐い思いするコトなく…終わったの

人殺しなんていけないコトなのに、私は何も感じなかった

悪いコトをするのはこの大嫌いな世界と同類

自分もこの世界の住人だと思いたくなくて、私は何があっても我慢してきたのに…

人殺ししといて、何も感じないなら私は立派なこの世界の住人なんだね……

刀に触れた時、勝手に手が動いたなんてのは錯覚

それは全部自分の意思なんだ……

力があれば抵抗できる?抗える?ドコまで?

私はそこまでしてこの世界を生きたいの?

「……わからない…私は、この世界で生きていてもいつか良いコトがあるんじゃないかって

人間のくだらない希望に支配されてるだけよ」

そんなものあるワケがないのに…

私は立ち上がり、もう一度刀を手に取る

弱かった私は強くなる

この刀がなんで私の近くに落ちていたのかはわからない

最初からあったかな?刀に気付かないなんて、色々ありすぎてよっぽど私は冷静じゃなかっただけ?

私が殺した男だってこの刀に気付いてなかった

私の手の届く所にあったのに

気付いてたら、刀を遠くにやるとかしたハズだよ

まぁ…いっか、この刀のおかげで助かったワケだもんね

私はシッカリと刀を握って逃げた人死んだ人で誰もいなくなった道を歩いた


世界がおかしくなったコトには薄々感じている

暫く歩いても景色はあまり変わらない

人が死んでいて、建物が半壊している

みんなドコに逃げたのかな

壊れた世界がさらに酷く壊れていく、このまま人類は滅亡なのかな

そしたら…私も…

私はもう一度刀を眺める

ほっといても勝手に死ぬこの世界

でも、今私が生きている間は心があって考えるコトをする

…この刀があれば憎しみも苦しみも悲しみも全て晴らせる

もう我慢するコトなんてないのよ

私は力を手に入れたのだから

もう弱い私じゃない

人だって1人殺したんだもん……

「……私はこんな力がずっとほしかった………」

弱い私は小さい頃からずっと強さがほしかった

どんなに願っても祈っても、今までずっと弱いままだった

我慢するコト以外何もできなかった……

今やっとほしかった力を手に入れたのに

小さい頃に願った強さとは違う気がする

いつの間にか忘れて変わってしまった

私がほしかった強さは…

「きゃーーーーー!!」

刀を眺めていると、私みたいに逃げ遅れた人もいたのかすぐ近くで女の人の悲鳴がする

考えるより先に身体が反射的に動き悲鳴のするほうへ走った

ビルの角を超えて広がる視界の先には悲鳴を挙げたと思われる女の人が男に追いかけられている

女の人の顔は大きな青いアザが目立つ、殴られたのか

「こ、こっちに…!」

気が弱くてスゴイ人見知りで他人が恐くて、上手く喋れない私だけれど

誰かが助けを求めていたら、手を伸ばしたくなる

あぁ…今、この瞬間に思い出した

私が小さい頃に願った強さは

私のように弱いこの世界の人を救う勇気と力だったってコトに……

今の私にはこの刀があるもの

絶対大丈夫…

人は力を手にすると気持ちまで強くなるのかな

「助けてー!!」

私に気付いた女の人は私の手を掴むと力いっぱい引っ張り、追いかけてくる男のほうに突き飛ばした

「あっ……」

「ありがとー!貴女が身代わりになってくれてあたしは助かるわー!!」

女の人は悲鳴からホッと安心した声で言うと走って姿を消す

私の目の前にはあの女の人を追いかけていた男の影が近付く

………私って、バカなんだよね

あの女の人に身代わりとして突き飛ばされた瞬間、背中から冷たいものを感じて心をきつく締め上げた

その瞬間になっていつも思い出す

この世界で、人助けなんて存在しないのよ?

存在するのは…犠牲だけだよ……

また私の心に絶望が増える

私の刀は人を救う為じゃなくて、私の憎しみの心のままに使ってしまうわ

男は私の前で立ち止まると何も言わずに大きな拳で顔面を殴ってきた

躊躇うコトなく息を荒くして、2発目と3発目と顔だけを狙って…

殴られて痛いって感覚はなかった

ただ殴られた場所が凄く熱くなってジンジンして頭がぼーっとするだけ

身体の痛みはないよ痛いのは心だけだよ

「しつこいんだよ…オマエ」

私の刀を持つ右手がまた勝手に持ち上がる

そして、さっきの通り魔の男と同じように目の前の男も簡単に切り裂く

非力な私が人間の身体を切り裂くなんて不可能なのに、この刀は不思議と私の願いを叶えてくれる

「…よかった…腫れてるケド、顔の形は変わってない」

近くにあったガラスに自分の顔を映して確認する

でも、すぐに目立つ大きなアザになるだろうし

鼻血まで出てる…唇の端も切れちゃったしな……

ヒドイ顔…

切り裂いた男は死んでるから動かない

色んな犯罪に遭遇したから、こういうのもまた別に珍しいコトじゃない

男は自分より弱い女も子供も殴る

この世界じゃそれも普通のコトだ

私は冷たい自分の手で自分の頬に触れる

こうして男に殴られた女の子達は今までどれだけいただろうか

私は今回は殺して終わらせたケド、女の子は殴られ続けた後…どうなるのか

それを考えると、イヤな気分になる

弱い者は守らなくちゃいけない存在なのに…

守るなんて…言葉すらない世界か

希望なんてないなとため息をつくと、近くから拍手とともに誰かが私の前に姿を現す

「すげぇえ!!!

あの女を助けて男をやっつけちゃうんですもん」

誰だコイツ

私より少し年下っぽい男

第一印象は臆病なお調子者?

敵意はないみたいだケド、身についた他人への警戒心は私の身を構えさせる

あの女を助けって言うなら、この男は全部見ていたってコトだよね?

私が殴られてる所も…

「さすがセリカさん!」

「なんで私の名前を…?」

「えぇー!?同じ仕事仲間じゃないですか!」

知らんぞこんな奴…いたかな?

「僕はセリカさんのファンだからいつも見てましたよ

梧です!あ・お・ぎ・り」

私はアイドルじゃないんだケドな

いつも見てたとかストーカーかな?

なんか…この勢いだと、ついてきそう

私は男が嫌いだし、上手く他人と話せないし

困ったな……

刀をシッカリ握りしめて、梧の前からさっさと立ち去ろうとしたケド

「待ってセリカさん!

急に世界がおかしくなったからここは一緒に行動するのが自然な流れかと」

やっぱりついてきた…

私の横に駆け寄るモブ臭がハンパなくて後何日かで死にそうな印象の梧は勝手に私の仲間みたいな感じで同行するコトになった

いや、同行じゃなくて勝手についてきてるが正しいな



-続く-2015/01/27

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る