第7話『やっと見つけた俺の…』イングヴェィ編

結局、悩んだ挙げ句

やっぱりプロポーズするみたいな格好になっちゃった

女の子はお花が好きだから、会ったらこのバラの花束を渡したらきっと喜んでくれるよね

気合い入れすぎかな!?

忘れずに明石のドラゴンの魔力が入った瓶を持って俺はユリセリさんの館を訪れた

「何なんだお前は…プロポーズでもしに行くのか……」

今日の俺の姿を見てカトルと同じコトを言って、同じように変な目で見るユリセリさん

「楽しみにしすぎて、昨日は眠れなかったよ」

「プラチナは知能が高いはずなんだが、稀に馬鹿もいるのだな」

準備は整っていると、ユリセリさんに応接室に通されるがそこにはリジェウェィもいた

「リジェウェィも来てたんだ?」

「あぁ、急に呼び出されてな

………お前はこれからプロポーズでもしに行くのか……」

「リジェウェィで3人に同じコト言われたよ!?」

「昨日のユリセリは1日この館を留守にしていたみたいなのだが

ユリセリの強力な結界を壊して侵入したものがいるらしいのだ」

「あのユリセリさんの結界を壊せる者がいるの!?」

信じられない…

でも、お茶を持ってきたキツネっぽいユリセリさんの使い魔が包帯を巻いている

留守番をしていた所に結界を壊したものにやられたとわかりやすい

「調べると魔族である事しかわからなかった

ユリセリの結界を壊し魔族である証拠以外に何も残さずに消えているのはかなり力の強い魔力を持った者だろうな」

リジェウェィとユリセリさんじゃなきゃ魔族であるコトすら突き止められなかったかもしれない

「部屋はお菓子の食い散らかしと」

えっお菓子食べにわざわざユリセリさんの館に侵入したの?

めっちゃ強そうな奴を想像したのに、お菓子と聞いてカトルしか思い浮かばなくなった

カトルは魔族じゃないケド

「オレがユリセリに預けた失敗作の小瓶と破壊の刀がなくなっているのだ」

リジェウェィの失敗作の小瓶って…世界を破滅するほどのヤバイやつだよね!?

「そ、そんな…

2人ともあの小瓶がなくなったのに、呑気にお茶なんてしてる場合じゃないよ!?」

俺だけが焦って早くなんとかしないとって立ち上がるケド、2人は静かにお茶を飲んでいるだけ

「問題ない

何故ならこの世界にその小瓶は存在しないのだから」

「それってどういう…」

「なくなった小瓶も刀もあの中にあると言う事だ」

ユリセリさんが指さす先にはこれから俺が君に会いに行く世界を繋げた小さな鏡…

君がいる世界にあの小瓶があるってコト…

「この世界に小瓶がないのならどうでもよい

私は私の結界を壊し勝手に侵入した魔族を許せないだけ

何としてでも見つけ出し、八つ裂きにしてやるのだ」

ユリセリさんがめっちゃ怒ってるのはわかるケド、今はそんなコトより君のコトが心配でたまらないよ

「小瓶はすでにその世界で壊れている

数日もすれば、世界は寿命より早く死ぬだろう

こうなった今わざわざ行く事はないのだぞイングヴェィ」

「それでも行くのか?」

俺は2人の言葉に迷わず、明石のドラゴンの魔力が入った瓶を取り出し

「そんなの行くに決まってるよ!

きっと、彼女は苦しい思いをしてる恐い思いをしてる

そんなの見て待ってられないもん!!」

「どうせ、死なないと殺さないとこの世界には来れないのにか」

「……俺は必ず彼女を連れて帰る…

同じ死でも、俺は彼女に恐い思いや苦しい思いをして死んでほしくない

俺なら恐い思いはさせない苦しい思いもさせないで殺せる

だから、俺はあの世界に行くの!

彼女を助けるのも守るのも救うのも…俺だけなんだよ」

明石のドラゴンの魔力が入った瓶をユリセリさんに渡すと

「わかった

魔力を用意できたらお前をあの世界に送ると約束であるしな」

と、受け取り別の部屋へと案内された

怪しげな物がたくさん置いてあってその中心には俺には理解不能な魔法陣が描かれている

その中心に行けと言われ、俺が足を踏み入れると魔法陣が光った

もう始まってるんだ…

「イングヴェィ、向こうの世界には1日しかいられないのを忘れるな

その間に見つけ出し、好きにしろ

1日過ぎれば、イングヴェィはこちらの世界に強制的に戻る事になる」

「お土産とか持って帰っても別世界のものはすぐ朽ちて意味ないからな」

ユリセリさんの後ろでリジェウェィが俺のやりそうなコトに釘を刺した

知ってるケド忘れてお土産持って帰りそう

ユリセリさんが目を閉じると魔法陣の光は一層眩しくなる

少しすると光が消え何も見えなくなるくらい真っ暗闇に包まれると同時にユリセリさんのプラチナの能力で俺は君がいる世界へと送られた



真っ暗闇から微かな光を感じて目を開けると、ユリセリさんの魔法陣の部屋はもうそこにはない

目の前に広がる景色は天が封鎖されたように暗い雲がある空に俺の世界と違った建物や道があった

変な形の建物は半壊しているものもあったり、道が壊れているものもあったり

「なんだか冷たい世界だな…」

初めて感じたのは、冬でもないのに心が凍えそうなくらい冷たく感じる空気と息苦しさ

治安は良いとは言えない

死を目前にした世界か…

そして、人間の死体がいくつもその辺に転がっている

これは数日前にユリセリさんのこの世界に通じる鏡を見た時はなかった

たぶんリジェウェィの失敗作の小瓶の影響かもしれない

見渡した限り、俺の視界には生きている人間はいないみたいだね

「あの子はドコにいるんだろう」

持ってきていたバラの花束をシッカリ抱いて俺は振り返る

「…あれ?あそこだけ光が差し込んでる?」

天を塞ぎ世界を被っている雲だと思ったケド、振り向くと雲の小さな隙間から一筋の光が射しているのが目に入った

惹かれるようにその光が射す場所まで走ると

なんだろう…この気持ち、この感覚

ざわざわする痺れるような温かさ……

何かを予感する気持ちが大きく膨らんでいく

「…………あっ……」

光が射す場所につくと、1人の女の子が立っていた

俺はその君を一目見た瞬間に足が止まって、心の奥底に眠っていた何かが目を覚ます

溢れるような熱さ、苦しいけれど心地好い気持ち…感情…心……

知らなかったコト、わからなかったコト

なのに、すぐにわかった

俺は一目で、君に恋に落ちたんだと

俺の愛してるも好きも君の為だけにある言葉だと理解した

白く綺麗な輝くような肌に黒髪なのに光が当たるとほんのり茶色になる神秘さ

細く小柄で、可愛い系より綺麗系

でも、雰囲気はドコとなく可愛さも含まれている

その右にある泣きボクロも長い前髪を左右に分けているのも

セレンさんの所で見た勇者の書物にあったセリくんと瓜二つの女の子

性別と髪の長さが違うだけで、髪は背中の真ん中まである

この子が…香月くんの言っていた聖女……

俺の運命の恋人……

自分の表情が心が動くのがわかる

嬉しいんだって、感じる心がある

愛しさが溢れる俺は心のままに君へと駆け寄った

「好きッ!」

「…えっ!?」

勢い止まれず俺は君を抱きしめてしまった

君に触れた瞬間、俺の頭の中に一気に記憶が駆け巡る

やっと会えた

やっと思い出した

…ずっと、君に触れたかった……

失った記憶の全てが一瞬のうちに戻ってきたよ!!

嬉しい嬉しい、めちゃくちゃ大好き!!

「ッセリカちゃん!?」

人間の君からしたら初対面の俺にいきなり抱きしめられてビックリして固まっているけれど

俺は全てを思い出して君の姿を確認するように両肩を掴んだ

君を一目見た瞬間に失った感情を思い出して、君に触れただけで失った記憶を全て思い出すなんて…

でも、俺のプラチナの力だけはまだ戻らないみたいだ

俺はみんなが言う通り500年は生きたプラチナだ

成長は21歳で止まって500年以降は歳を数えるのが面倒くさくなって曖昧だケドね

君に会う前の俺がどんなだったのかとか

リジェウェィのコトも思い出した…リジェウェィはプラチナじゃない

俺が何故今の世界に来たのかも

セリくんには会ったコトはないケド、その存在は知っていた

だって君のコトだもん

そして、セリカちゃん…君が俺の運命の恋人だってコトも

どんな出逢い方をしたのかも思い出したよ

どうして…離れ離れになったかも……ね

君は天に愛されてる人

真っ暗な雲の隙間から射すこの天の光がその証拠

「貴方は…?どうして私(わたくし)の名前を……?」

セリカちゃんは人間だ

セリくんと一緒で生まれ変わる度に記憶をなくす

それでも名前や容姿や魂は変わらないんだよね

「君の運命の恋人だよ

イングヴェィって言うの」

俺は君の前にひざまずいて、バラの花束を差し出した

「セリカちゃん、君を迎えに来たよ」

前世の君といた期間は数日もないとても短いものだった

俺は恋人同士だって心底思っているけれど、その短い期間は本当に恋人と呼べるものだったのかどうかは微妙な所なんだ

君に気持ちを伝えただけで、君の気持ちはまだ聞いていなかったから

だから…今度こそ、これからはちゃんと恋人になって君と結婚したい

もう二度は失敗しないし、二度と離さないからね…

バラの花束を君は受け取ってくれるケド

何この変な人って目で見られてる

っそうだよね!?

君からしたら本当に俺は初対面なんだもん

でも、なんか抑え切れなくて!!

好き好きって気持ちが…

「っ………セリカちゃん…?」

今…気付いた……

君に会えたコトが嬉しくて浮かれてて、綺麗な君なのが当たり前で、ちゃんと現実を見ていなかったなんて

君の姿は美しい肌に侵された毒のようにアザや傷がたくさんあった

服もボロボロだし…一体何があったの……

君から強い憎しみと苦しみと悲しみを感じる

「このアザや傷は…どうしたの」

それには触れられたくなかったのか、君は俺を拒絶するように距離を取る

「逃げないで…君を傷つけるのは何……」

手を伸ばしても君は後ずさってしまう

この手を掴んでほしいのに

「セリカさん危ない!!」

突然、俺の手を払いのけて君を連れ去って行く男の姿が目に入る

「逃げましょう!!」

セリカちゃんは男に手を引かれるまま行ってしまう

俺のほうを振り返りながらも…君はあっという間に消えてしまった

「……………えっ何さっきの男…まさか、セリカちゃんの彼氏!?いや絶対ありえないから!!

セリカちゃんの恋人は俺以外絶対ありえないよ!!!」

男の登場でもしかしたらセリカちゃんの…って頭を過ぎって勝手にショック受けて、簡単にセリカちゃんを連れ去られるなんて!!

何やってるの俺のバカ!!

セリカちゃんを守るのも助けるのも救うのも俺だけなんだよ!?

もし彼氏だったら殺せばいいんだから…セリカちゃんを奪う奴は絶対殺す

俺が君の運命の恋人なの

君が俺の目の前からいなくなると、冷たくて悲しい雨が静かに降り出す

肌に雨が当たると何かを感じる

この天から降るもの…普通の雨じゃない

いや、雨なんだケド…なんて言うか…俺のいた世界の雨と違ってこれは心に触れてるようなそんな感じがする

強い憎しみと苦しみと悲しみが…ある

これは君に触れた時に感じ取ったものと同じ

思いながら天を仰ぎ、俺はすぐに2人の後を追い掛けた


つもりだったケド、ショックを受けていたのは数秒だと思っていたら結構な時間が経っていたみたいで2人を見失ってしまった

ゆ、許せない~~~!!

セリカちゃんの手を掴んで連れ去ったあの男のコトを思い出すと殺意しかない

セリカちゃんに触れていいのは俺だけなのに

それにしても、セリカちゃんのあのアザや傷…

まさかあの男から暴力を受けて!?

今すぐ殺さないとダメだねそれ

セリカちゃんは回復魔法が得意だったハズなのに、治せないってコトは今は魔法が使えないのかな

俺は回復魔法が使えないから君を治せない…

俺のプラチナの力があれば綺麗にしてあげられるんだケド

ううん…いくら回復魔法やプラチナの力で治せたとしても君が傷つくなんてイヤだよ

心だって傷だらけなんじゃないかな……心配で心配で仕方ない

…………君と初めて会った時のコトを思い出したな

君にとったら前世の話なんだケド、あの時の君は目に見えるアザや傷はなくても心は壊れていた

今も…似たような状況だとしたら……


君の運命を動かせるのは俺だけなんだ

君をここから救う

必ず、そしてもう二度と同じ失敗はしない

今度は君をちゃんと殺して連れて行くから

もう大丈夫だって、君に伝えるよ

待っててセリカちゃん

すぐに行くからね



-続く-2015/01/15

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る