第6話『明石のドラゴンの足跡』イングヴェィ編

明石のドラゴンの情報は手に入れたし、さて行くかなと思った時

「ママ~~~!!」

すぐ近くで子供の声がした

その声を聞いた洗濯屋さんの妻の表情が強張りすぐに駆け付ける

「暫く来ちゃ駄目って言ったのにどうして来たの!?」

5歳くらいの男の子の腕をシッカリ掴み叱る姿を見ると、この子がさっき言ってた2人いる子供の下のほうか

死者も生者もお互いに触れるコトはできないと聞いていたけれど、強く繋がってるもの同士だと触れ合えるみたいだね

他に生者の気配はしないから、1人でこの村に来たのかな

「やだやだやだよ~!」

「我が儘言わないですぐに帰りなさい!」

村から追い出すように男の子の背中を押すけれど、男の子はすぐに母親のほうに戻ってはしがみついた

「ずっとママに会いたかったんだよ~!?」

今日まで我慢して我慢して、我慢して…それで耐えられなくなって泣きながら会いに来た

そんなコトは母親もわかっている

「危険なのよ…だから、早く帰りなさい」

子供の気持ちがわかった母親は拒絶の力を弱め、それに気付いた子供が強く母親のお腹に抱き着く

「絶対に帰らない!危険なんて知らない!!

ママがいないと毎日寂しいのに、1週間に1回会えるのも駄目になって

もうママは僕の事が嫌いなの!?」

「………っ」

顔を上げて聞く子供の頬を母親は強くひっぱたいた

その行動にショックを受け驚いた子供は叩かれた頬を抑えながら母親から離れる

「マ、マ……」

「っ…言う事を聞かない子は嫌いよ

さぁ早く帰りなさい……」

嫌いなんてカケラも思っていないのに、母親は目に涙を溜めて泣くのを我慢して子供を見下ろす

これはどうして?好きなら、愛してるなら一緒にいたいんじゃないの…?

俺だったらこんなお互いが悲しい思いをしてまで生きていてほしいなんて思わない

死んでも一緒にいてほしいって思うのに

だから、俺なら君が今生きる世界で君を殺してでも連れて行くのに…

太陽が完全に沈む

夜の訪れと共に太陽とは別の光が村を襲った

「明石のドラゴン!?」

そう母親が認識して叫ぶ時には明石のドラゴンは長い首を伸ばし子供目掛け襲い掛かってくる

俺はすぐに子供の身体を抱き抱え、明石のドラゴンの攻撃を避けた

「イングヴェィ様!?ありがとうございます!!」

駆け付けた母親に子供を渡して俺は武器を手に取って、明石のドラゴンに向き合う

身体のほうはうすのろなのに、想像以上に首の動きが速い

後少しでも子供との距離があったら助けられなかった

俺は死んだなら死んで一緒にいたい派だけど、子供は生きて成長して幸せになってほしいと母親が願うから助けただけ…

価値観の違いを合わせただけだよ今回は

「明石のドラゴン、俺が倒してその強い魔力を貰うよ」

試しにブーメランを投げて頭に当ててみるケド、石に缶が当たったみたいにカツンと音がするだけでダメージなんてまったく受けていない様子

岩をも砕くこのブーメランでも無理か

あの頭の動きの速さなら試しのブーメランなんて軽く避けられるハズなのに、避けなくても平気

それに眩しくて直視しにくいし、厄介な敵だな

後、めっちゃドラゴン臭い

動物も動物の匂いがするし、魔物も魔物臭いケド

何万年も生きてるドラゴンの匂いは何万年分もの匂いなんだね

挑発した俺にムカついたのか明石のドラゴンは俺目掛けて襲ってくる

素早さでは若干俺のほうが上だからなんとか避けられるケド、逃げてばかりじゃ勝てない

眩しすぎて弱点も見えないし、でもだいたい額だったり喉元だったり尻尾だったりするよね

ブーメランを閉じて次の攻撃を待つ、来れば頭の上に乗って額を突き刺してみる

その次は喉元、尻尾、考えられる所を片っ端から試すしかないな

弱点がなかった時は…その時に考える!!!

「あっれ…来ない?」

さっきまでこっちを向いていた明石のドラゴンは構えていた俺から急に視線を外し、あっという間の速さで家の中に避難しようとした母親と子供に襲い掛かった

「よそ見なんて俺もナメられたもんじゃん!!」

力いっぱいブーメランを投げるが、一瞬の差で間に合わず明石のドラゴンは走っていた子供の頭から下を食いちぎった

「いやーーー!!!!!」

「はっ!!??」

自分の手元にブーメランが戻って来た時には家から父親が出てきて、目の前に顔だけ残った自分の子供の姿に息を詰まらせている

間に合わなかった…か

明石のドラゴンは休むコトなく子供の身体を飲み込んだ後、すぐ近くにいた洗濯屋さんの夫婦2人の頭も同時に食いちぎり

2人の身体はその反動で地に倒れる

俺に背を向けた明石のドラゴンの尻尾に飛び乗り切り落とそうとしてみるが、尻尾は弱点じゃないらしくブーメランの刃は通らない

尻尾に何かを感じた明石のドラゴンは首をこっちに向けてくるから、そのチャンスを逃さず頭に乗り移る

でも、やっぱりダメだった

額も固すぎて刃が通らないな

明石のドラゴンから飛び下りて洗濯屋さんの夫婦の近くによる

死者は首がなくなったくらいでは死なない

「そんな…こんなの酷い……まだ5歳の私の息子をこんな酷い姿にするなんて」

悲しみに包まれながらも立ち上がる洗濯屋さんの夫婦は泣きたくても涙を見せる顔がもうない

「こんな事になるなら、せっかく魔法の村に生まれたのに

どうしてもっと協力な魔法を持って生まれなかったの

もっと強い魔法だったらあんなドラゴン倒せて、守れたかもしれないのに…!!」

自分の持っている魔力を投げ出すように尽きてなくなるくらい石鹸魔法を強く発動させる

一瞬で周りの景色が真っ白な泡へと変わった

どんなに石鹸魔法を使っても、明石のドラゴンの姿を泡で覆い目眩ますくらいでそれに殺傷能力は少しもない

「涌き水のように流れる事しかできない僕の水魔法はやはり誰も守れないのか

妻だけでなく、自分の子さえも……」

空から巨大なバケツをひっくり返したような水魔法が広がった泡を洗い流す

これにももちろん殺傷能力はない……けれど、泡と共に流れる水は何故か光輝いている

あれだけ眩しかった明石のドラゴンよりも今は流れる泡のほうが眩しい

「…違う…これは」

ハッとして見上げると洗い流された巨大な泡の中から姿を現したのは光りもしない肌色をしたドラゴン

しかも、臭かったドラゴンの匂いもなくなって石鹸の良い香りがする

もしかして、明石のドラゴンの輝きって…汚れだったの……?

えぇそうなの!?そんなの誰も思わないよ!?

光を失ったドラゴンの肌はやっぱり石のように固そうだけれど、目に見えてわかる弱点がある

右足に心臓らしきものが動いていた

長い首が右足のその部分を守るように隠したのが確信させる

「これが明石のドラゴンの本当の姿…」

「そうみたいだね

きっと君達じゃなきゃ明石のドラゴンの弱点は見つけ出せなかったよ

明石のドラゴンは何万年分もの魔力を持ってるんだもん

どんな強力な魔法でも通らないだろうからね

間に合わなかったけれど…これで倒せる

だから、自分達の魔法をそんなに嫌いにならないで」

言ってたでしょ

みんなを笑顔にする魔法

それを否定しちゃったら、笑顔になったみんなのコトもなかったコトになるような気がするから

「明石のドラゴン、何があってもその右足の前から顔をどけるコトはしないんだろうね

でも、防御より攻撃してさっさと俺を殺したほうがよかったって後悔させてあげる」

久しぶりに魔法を使うけれど、たぶんいけるハズ

風と地の魔法…石には石をってね

地の魔法で巨大な岩を作り出し、それに風の魔法で突き抜ける速さを加える

それを明石のドラゴンの頭にぶつけて、右足から弾き出す

明石のドラゴンの頭が素早くても、のろまな図体は動けない

俺のほうが速いから簡単に心臓を破壊できて倒せる

「身体も素早く動けたら最強だったかもね」

死ぬほどの苦痛な声を周りに響かせ数秒のたうち回った後、明石のドラゴンは生き絶えた

「イングヴェィ様!やりましたね!!」

「さすがプラチナ様!!」

リジェウェィに貰った無限に魔力を溜め込むコトができる瓶を取り出して明石のドラゴンの魔力を吸い取っていると

洗濯屋さんの夫婦が子供の首を抱えながら寄ってくる

夫婦2人とも、顔は食いちぎられたまま

明石のドラゴンを倒したからと言って、失われた魂の一部は戻らないんだね

「さっきも言ったケド、君達がいたから勝てたんだよ」

「いいえ、私達は子供が殺された時点で負けです

明石のドラゴンに勝ったのはイングヴェィ様だけですよ」

「本当にそうかな…」

俺は2人から視線を抱えられた子供の首へと向ける

「ママ?パパ??」

子供の首は死者としてこの村で生きる為に目を覚ます

「あぁ…守れなくてごめんなさい」

「駄目なパパでごめん…」

「手も足も動かない身体がない

僕、死んじゃったんだね」

5歳にして死をすぐに理解できるのは、親がすでに死者となっているコトがわかっているからなんだろうな

洗濯屋さんの夫婦は子供の言葉に何も言わず啜り泣く

「じゃあ、これからは大好きなママとパパと一緒にいられるんだ!!嬉しいな!!」

首だけになった子供の表情は生きていた時の寂しくて悲しいものとは一転して幸せそうに満足そうに笑った

その子供の言葉と笑顔に夫婦は戸惑いまた何も言えなくなる

「ふふふ、人間の君達2人の大切な人(子供)には生きていてほしいなんて考えは俺にはわからないケド

俺は死んでも好きな人と一緒にいたいって考えだから、その子の気持ちはわかるような気がするよ

大好きな2人がいないまま生きるより、その子にとってはこうして一緒にいられるほうが幸せなんだ

だから、2人は負けてない

守れないコトも悔しいし死ぬコトは悲しいかもしれない

だけど、その先の結末が幸せならそれで良いと思うよ」

話終えるとちょうど明石のドラゴンの魔力を全て瓶に入れ終わった

蓋をして瓶を眺める

これを持ってユリセリさんの所に行けば、やっと君に会える…

「やはり生きて幸せになってほしかった気持ちもありますが

終わった事で、今のこの子の姿を見ているとイングヴェィ様の言うようにその先が幸せなら良いかもしれないと思います

私達もずっと子供に寂しい思いをさせて、自分達も寂しくてたまらなかった

今こうして一緒にいられるのが、例え死んでいても

複雑な気持ちはありますが、嬉しいとも思います」

「ありがとうございました

明石のドラゴンが倒されてこれでまた生者の皆もこの村に遊びに来られるようになりました」

「お礼を言われるコトはないよ

2人の子供を守れなかったし

俺はこの村を助けたワケじゃなくて、明石のドラゴンの魔力がほしかっただけだもん

それじゃ、急ぐから帰るね」

大量の魔力を手に入れて、君に会えるのがもうすぐだと思うと心が軽くなる

きっとこの待ち遠しい気持ちは死者の村に入った時からあったのかもしれない

明石のドラゴンを倒して魔力を手に入れたら、君に会えるんだって心の奥で楽しみにしていた

死者の村で、他人と普通に会話できていたのはそれがあったからなのかもしれない

君のコトを想うと、俺は自分を保てるように心が落ち着くもん

「あの~!」

「ん?」

帰ろうと背を向けると洗濯屋さんの夫が

「最後まで笑わないんですね

プラチナのイングヴェィ様は太陽みたいな笑顔が1つの有名な話でしたから

見てみたかった」

残念そうにした

「笑顔…自分がどんな顔をしているかわからないんだ

でも、俺が笑顔を取り戻すのはもう少し」

太陽みたいな笑顔が有名か…

思い出せないケド、また笑ってみたい…な



ユリセリさんの館へ行く前に俺は一度自分の城へと帰っていた

死者の村から直行しようと思ってたケド、落ち着いて考えると君に会うのに何も準備してないなんてありえないよね!?

どんな服着ていこうかな

プレゼントも持って行かなきゃ!

やっぱりバラの花束とかが良いよね!?

自分の部屋であれやこれやとバタバタしていると、ドアをノックされてポテトを食べながら入ってくるカトルが変な目を向けていた

「何イングヴェィ…

そんなに気合い入れて、これからプロポーズでもしに行くの?」

「…いいねそれ!!」

「いやおかしいでしょ

向こうからしたら初対面

女性はドン引きする

イングヴェィも記憶がない今は初対面

おかしいでしょ」

それだ!ってカトルに指さすと、余計に呆れられた

「お話中、失礼します!」

開いたドアから少女の声が聞こえる

部屋に入ってきたのは洗濯物カゴを持った10歳くらいの人間の少女

えっ誰?カトルも俺も心の中でそう思った

「今日からお世話になります洗濯屋の娘ライです

よろしくお願いします」

「あっ…あの洗濯屋さんの…!?」

昨日の今日でもう来たの!?

洗濯屋さんの手紙届くの早すぎだし、受け取ってから来るのも早すぎだよ

助かるケド、ビックリだよ

「先日は父と母と弟が世話になったみたいで、ありがとうございました」

「いやいや、そんなコトは」

頭を下げる10歳の人間の少女、話し方もシッカリしているし本当に10歳には見えない

いや、見た目はちゃんと10歳に見えるんだケド

「この城は広く人も多く洗濯のしがいがありそうです

とくにリジェウェィさんは何かと魔法の研究やらが忙しくて、カトルさんは面倒くさがりで、洗濯物を溜め込んでいるとさっき通りすがりの人に聞き

それはそれは楽しみで仕方ありません!!」

しかも、この城は異種族が多いのに動じていない肝の座り方とドコとなくお母さん属性を醸し出してるのが10歳のシッカリ者のレベルを超えている

「……………。」

カトルは口うるさいイメージを持ったのか、逃げるように静かに部屋を出ていこうとする

「カトルさん部屋に戻るんですね?

洗濯物を貰うので全部出してください

ベッドのシーツとかも、どうせ何日も洗っていないんでしょう」

「うっ…」

図星のカトルは何も言えずポテトを摘む手が止まっている

「こ、これからヨロシクね~」

出て行く洗濯屋さんの娘ライに言葉をかけると

「は~い!」と返ってきた

元気な子だな

この城もまた賑やかになりそうだね



-続く-2015/01/13

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